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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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『海月姫』
眼福な美男美女(しかもひとりでそれを見せてくれる離れ業)を堪能し、尼~ずの成長ぶりに目を細め、お笑い要素も泣きどころもしっかり押さえ、恋の行方にドキドキする、ひさびさに全方位満足できた作品でした。
『花燃ゆ』でも『あさが来た』でも『HOPE~期待ゼロの新入社員~』でもまったくノーマークだった瀬戸康史ですが、こんなにハートをズッキューンされるとは思いもしませんでした。いやはや、男前すぎる。あんなに美しい女装姿なのに、カッコよすぎる。しゅうしゅう(工藤阿須加)も確かに誠実で魅力的なのですが、どちらを選ぶとなるともう答えは火を見るよりもあきらか…に感じるイケメンぶりでした。
しかしそんな美しい蔵子も、現役モデルとのランウェイではさすがに見劣りしてしまいました。それくらいジャージの冴えないまやや様(内田理央)からのファッションモデルへの変身ぶりは見事。最後に素顔をさらしたばんば先輩(松井玲奈)といい、クライマックスのファッションショーは初回の尼~ずからは考えられないステージで、感慨深いものがありました。
芳根京子ちゃんの泣き演技は『べっぴんさん』でも唯一の見どころだったと言っても過言ではない輝きを放っていましたが、このドラマでも美しい涙を見せてくれました。アクの強い面々に囲まれながらもしっかり主役としての存在感を放っており、今後はコメディエンヌとしても活躍するのではと思います。
コメディといえば、賀来賢人が出演すると聞いて『左江内さん』ばりのトンデモぶりを見せてくれるのかと思いきや、終始シリアスな表情で肩透かしでした。一方で『anone』では田中裕子との場面でさんざん泣かせてくれた江口のりこがインド人…ギャップの大きさにパニックでした。
目白先生の正体にビックリしている間もなく、キュンキュンさせられて、最後は海月オタクになった稲荷さん…と、最後まで大満足の月9でした。
が、話題になるのは視聴率のことばかりでした。うーん、その少ないらしい視聴者の満足度は高かったと思うんだけどな。

『BG~身辺警護人~』
展開としては目新しいものではありませんでしたが、最後まで目の離せない独特のスピード感は井上由美子の筆力ならでは。キャストの抑えた演技も物語に興を添えました。
カッコいいといえば江口洋介演じるSPのほうが断然カッコよかったのですが、ちょっと情けないはずのキムタクの存在感がいい具合に拮抗していました。包容力のある上川隆也に、それぞれキャラ立ちしているボディガードの面々も調和が取れていて、鼻につかない程度にすべてがおさまっている、心地よいバランス感がありました。息子との関係性も良かったです。元妻は『ロングバケーション』を見ていなかったのでとくになにも思いませんでしたが。
最終回、永ちゃんは「え、これだけ?」でしたが、若君さま(健太郎)がチラ見せされたのは続編を意識してのことでしょうかね?

『西郷どん』(承前)
展開が割とゆっくりなので、「本当に明治維新から西南戦争まで描き切れるのか…?」との不安はまだ若干拭えませんが。
西郷吉之助というひとりの人間の成長譚と思えば、見ごたえがあります。ここからまだまだいろんなことが起きて、いろんなことを経験して、最終的に西郷どんがいかにして人生の最期の選択に至るのか、じっくり描いてほしいと思います。
最初の妻・須賀どんとの一幕には、「こう来たか」と唸らされました。歴史的にはなぜ離縁することになったのかあきらかになっていないようですが、それを須賀の自己犠牲というきれいなかたちにおさめつつ、吉之助や一蔵たちの思いもしっかりと描いて江戸行きにつなげていました。須賀どんを演じた橋本愛の存在感はわずか二話ながら素晴らしかったです。
ちなみにCSで『翔ぶが如く』の再放送が始まったので視聴することにしました。今おなじみのベテラン俳優がみんな若い…もう鬼籍に入った人も…。堤真一も出ていたのにはビックリ!
しかし28年を経ても古臭くない迫力があります。昔の大河ドラマは重厚感がありました。歴史全体を捉え、その大転換をマクロな視点で描こうというアプローチだからこそ生まれるものだと感じます。これは当時の大河ドラマの原作に多く使われた司馬遼太郎の史観に通じるものがあります。今の大河はどちらかというと主人公に視点を起き、見る者が感情移入しやすい作りになっています。もちろんそれはそれでドラマとしては面白い(例外もあり)のですが、やや軽薄に映るのは、主人公視点であるゆえに歴史が転換する因果が描ききれないこともあるからなのでしょう。
しかし再放送は月~金まで毎日あるため、展開がどんどん進んですでに明治です。
かつ、『翔ぶが如く』の原作も読みはじめているので、もう何がなんだか。






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『海月姫』
能年玲奈の主演映画が公開された時にはたいして興味を持たなかったのですが、今回のドラマ化で原作が『東京タラレバ娘』の東村アキコであることを知り、気楽な気持ちで視聴してみたら…。
ナニコレ、めっちゃおもしろいー!
思わず原作を3巻まで無料で読んでしまいました。続きをポチりかけたところで全17巻と知り、指が止まりましたが。
際立ったキャラたちがおりなすスピーディーで単純明快なコメディかと思えば、女装兄と童貞弟との三角関係がちゃんと恋愛ドラマしていて、毎回泣きどころもあります。『のだめ』のような、漫画チックだけれど意外にも見ごたえある青春ドラマだと思うのですが、視聴率が思わしくないみたいですね…。キャスティングにこれといった看板俳優がいないからかな。
とはいえ、朝ドラ以降評価の芳しくない芳根京子ちゃんはクラゲオタクの冴えない田舎娘と変身後のあか抜けた姿をきっぱり演じ分けていて、さすが女優さんだなと感服しました。尼~ずたちの木南晴夏&内田理央&松井玲奈(後者ふたりは前髪のせいでどっちがどっちかわからん)も華を消して変人になりきっていますし、なんといっても瀬戸康史の女装が美しすぎる。声が低いからドラマ上は男だとすぐわかるのですが、見てくれは完全に普段バージョンの尼~ずを遥かに凌駕しています。女装男子といえば忘れられないのが池松壮亮(『MOZU』)ですが、今思えばかわいそうだったな…。
メガネ男子の工藤阿須加や振り切った森里香、間合いが絶妙な要潤(原作を読んだらハマり役過ぎて笑えた)など、兄と弟を入れ換えた以外は脇に至るまで漫画に忠実で、購入を断念したラストはいったいどういう展開になるのだろうと今からワクワクします。

『anone』
『Mother』『Woman』とさんざん泣かされてきた日テレの坂本裕二。今度はいったいどのような涙をもたらしてくれるのかと思っていたら…。
初回は坂本脚本のパターンともいえる、視点を眩ませるかみあわない会話の応酬。我慢していれば本題に入るはず…と耐えるにはその「本題」がなかなか見えてこないだけに、少し長く感じる時間でした。坂本脚本には毎回書いているような気がしますが、どうして連ドラでわざわざこういう導入にするのか、まったくもって理解に苦しみます。『カルテット』の高評価で満を持して制作された坂本作品の割には低い視聴率も、それが原因としか思えません。
しかし回を追うごとに深みを増していくのもまた、坂本裕二作品の特徴。ネカフェ暮らしでみずからを「ハズレ」と称する主人公のハリカは、幼少期少し個性の強い子であったため更生施設に預けられ、おぞましい虐待を受けていました。ネット上でしか心を開けなかったハリカでしたが、廃棄されていた偽札をめぐって、義理の娘との確執を抱える亜乃音、人が好すぎる持本や正体不明の女性るい子らと出会ったことで、少しずつ彼女を取り巻く世界が広がっていきます。
『Mother』の虐待、『Woman』のシングルマザーといったテーマが浮かび上がってこないだけに、今後どういった展開が待ち受けるのか予想し難いのですが、これまで別々に生きてきた人間たちの人生が偶然によって交差し、絡み合い、それによりさらにひとりひとりの存在が鮮やかに浮かび上がる、そんなひと時のきらめきを坂本脚本は明確に描き出してくれます。今回もきっと、強く心に刻まれる作品になるであろうと確信しています。

『BG~身辺警護人~』
ひさびさな気がするキムタク作品。いくつになってもキムタクはキムタク。SMAPとか、ジャニーズとか、そんな肩書はもういらない。キムタクというブランドは唯一無二にして永遠なのである。
それはさておき、『アイムホーム』でも父親役を好演していたキムタクですが、今回もちょっと権威のない父を演じています。しかし仕事上では飄々と周囲を煙に巻きながらしっかり役割を果たすところはさすがキムタク。いや、役柄なんだけど。警察が担うSPと異なる、民間警備が担うボディガードは『4号警備』でも描かれていましたが、やはり見どころはなんといっても丸腰ならではの激しいアクション。迫真の演技で魅せてくれます。キャストも江口洋介や石田ゆり子、上川隆也など豪華俳優陣。CGやロケも充実していて見ごたえがあります。
主人公は仕事でも私生活でも何やら過去を抱えている様子。キムタクが演じるのはもうラブロマンスではない、人間ドラマのできるトシになったのだなあと何やら感慨深い思いにもなります。

『女子的生活』(最終回)
人は常にカテゴリーで分別されてきました。
国家レベルなら民族や宗教、学校という小さな単位ですら人はつねに何らかのカテゴリーを設け、それから外れる人間を排除してきました。生き方の多様性が叫ばれるようになった現代でもなお、多数派の中にいることこそが安寧であり、幸せであると定義づけられています。単一民族である日本ではなおのこと、その意識が強くDNAに刻まれているのかもしれません。
それはさておき、このドラマはそういった差別を声高に主張しているものではありません。だからこそ、カテゴリー外であることを自覚しながらアイデンティティをしっかりと保つみきの生き方は強く印象づけられます。
集団の中で生きていくうえで、人は何かしら生きにくさを感じながら日々を過ごしていかなければなりません。
子どものうちは、友達がいない。勉強ができない。運動ができない。なるべく目をつけられないように、いじめられないように、空気を読んで笑顔を作って教室での時間をやりすごす。
大人になれば、そんな我慢はしなくてすむと思ったら、大間違い。
結婚していない。
子どもがいない。
子どもが男あるいは女しかいない。
専業主婦、兼業主婦。年収の多寡。モデルファミリー、男やもめ、シングルマザー。
さまざまな人生をカテゴリーに当てはめて、カテゴリー外の人間を疑問視する人はどこにでもいるもの。
そういった周囲の声に時には傷つきながらも、一夜の涙とため息で日々を過ごすみき。LGBTだとか差別だとか関係ない。好きなものがあって、ともに笑う仲間がいて、気楽に付き合える友達もいる。時には失恋し、悲しいこともあるけれど、それでも明日に向かって闊歩する。自分らしく生きていくために。
カテゴリーに入れずに苦しんだことがある人ならば、みきの生き方に共感しないはずはない。みきは差別されてかわいそうな人ではない。頑張らなければいけない人ではない。珍獣ではない。このカテゴリーだらけの世界で一喜一憂しながら生きている、もうひとりの自分だ。だから自分も生きていこうと思う。みきのように、時にはくじけそうになっても、前を向いて歩いていこうと思う。



『西郷どん』
2話まで見た限り、とりあえずついていけそうです。
話題にもなっていましたが、初回の小吉、2話のふきと、子役の熱演が視聴者をぐいっと惹きつけたと思います。最近の子どもは凄いな。
あと、風間杜夫&松坂慶子&平田満の『蒲田行進曲』トリオの共演、語りの西田敏行&島津斉興役の鹿賀丈史という『翔ぶが如く』コンビの復活も、オールドファンにはたまりません。
まだまだ「やっせんぼ」の西郷どんですが、鈴木亮平はきっと新しい西郷隆盛像を生み出してくれると思います。ここ最近の大河ドラマにおける西郷隆盛は脇役だったため、倒幕に暗躍する策略家であったり、腹黒な野心家であったりと、悪役に描かれることが多かったのですが、ひさしぶりにまっすぐなヒーロー西郷どんが見られそうです。
『翔ぶが如く』が放送された時は小学生だったので、毎回きちんと見ていたわけではなく記憶もあまりないのですが、西郷と大久保がともに手を取り維新を成し遂げながら最後は敵味方に分かれるという悲しい結末は、今でも強く印象に残っています。
今回はふたりの友情はメインストーリーでないとはいえ、西郷を描くに大久保の存在は欠かすことはできません。大久保役の瑛太は『篤姫』で演じた小松帯刀のイメージが自分の中で払拭できていないのですが、あれから演技力が増しましたし、切れ者ゆえの苦悩を見せてほしいと思います。
昨年流行したゲス不倫で斉藤由貴が交代するも、同じ文春砲をくらった渡辺謙が降板しないのはどーたらこーたら、と若干話題になっていましたが、やはりNHKの続投判断は正しかったですね。抜群の存在感でドラマを引き締めていました。鹿賀丈史と親子役というのは違和感があるにせよ、斉彬という重要なポジションはやはり渡辺謙にしか任せられなかったのだろうと思います。
と、なかなか見ごたえのある2話だったわけですが。
唯一の不満点は、「意識高い系女子」いとの描写。男装して学問しようとした『篤姫』とかぶってるし、この時代にその価値観、別にいらなくね? 男女不平等について考えるきっかけを小吉に与えたとはいえ、それが今後にどう影響してくるというのか? 演じる黒木華は時代を先取りする女性とは真逆の古風な雰囲気ですし、まさかむりやりなこじつけか?
前情報でBLという言葉がひとり歩きしていたので、やや不安ではあったのですが…。
ここまでの雰囲気のまま、幕末維新のエネルギーを表現してくれることを祈ります。

『女子的生活』
朝ドラの出演も決まってすっかりNHKづいている志尊淳ですが、『植木等とのぼせもん』はその演技で見るのをやめたほどなのでLGBTという複雑な役を演じきれるのか、ほとんど期待はしていなかったのですが。
う、美しすぎる…。
というのが、第一印象でした。ただそれだけではない、ドラマ全体の密度の濃さに惹きつけられています。
以前、職場にLGBTの人がいました。仕事のできる人でもあったので女性は割と普通に受け止め信頼を集めていましたが、男性の中にはそれが理由で人格を全否定するような陰口を叩く人も少なからずいました。「腐女子」という一定の存在もあるように、性的少数者に寛容なのは女性のほうなのかもしれません。主人公・みきも、女性の多い職場で働いています。そして男性として生まれながら女性として生き、さらに好きになるのは女性という複雑なみきの性的指向を周囲は受け入れています。みきを採用した社長は男性ですが、女性向けファッション会社を運営するだけあって、「うちの服が似合えばオッケー」というスタンス。家も職場もカワイイものに囲まれ、街中でカワイイものを見つけては写真に収め、ガールズトークに花を咲かせる、みきはどこにでもいるそんな女子としての「女子的生活」を満喫しています。生まれ落ちた時の性別が男、ということをのぞいては。
好奇心や差別意識にまみれた世間で生きていくうえでは、トランスジェンダーである現実からは逃れられません。トランスジェンダーに限らず、いわゆるマイノリティに接した時、人はどうしても平静ではいられません。驚いたり、下卑た好奇心を持ったり、見下したり、感情は様々ではあるけれど「それを口にしてはいけない、態度に出してはいけない」風潮がある。なぜなら、相手は「差別されている人」だから。「差別されている人」は「カワイソウ」であり「すごく頑張って生きている人」だから。だから「カワイソウな人を、頑張っている人を差別してはいけないのです! 私は差別なんてしません! 私はあなたの味方です! 私は差別しないイイ人です!」と、それこそが差別意識であることを気づかず声高に主張する無神経な人はどこにでもいるもので、きっとみきもそんな他人に心を乱され続けたのだと思う。せいいっぱいに女子として生きながら、みきはどこか無理しているようにも見えます。ナチュラル系女子を装いながら真っ黒な内面を隠し持ったゆいに惹かれながらも、自分が異質であるという意識からか、一歩引いてしまいます。
そんなみきの心に強引に転がり込んできたのが、高校時代の同級生の後藤。共同生活を送ることになった後藤のおっちょこちょいな性格や見境のない行動に振り回されながらも、みきはどこかでリラックスしています。後藤の中でみきはどれだけ変貌しようと高校時代を共に過ごした「小川」であり、女子的生活の中で捨てたはずの過去と現在を結びつける唯一の存在です。常に他者によって揺るがされそうになるみきのアイデンティティに、小川幹生であった18年間は決して消すことはできません。その事実を後藤の存在によって目の前に突きつけられ、意外にもそれを受け入れている自分に、みきはさらに揺れています。
生きていくうえで、誰しもが自己と他者をさえぎる壁に直面します。自分の信じる道を進もうとしても、それが他者にとって正しいとは限らず、他者に囲まれて生きていくからには他者に迎合するか後ろ指を指されるのを覚悟で我が信ずる道を行くか、その二択に迫られます。みきがいったいどのような決意を持って人生を歩もうとするのか、たった四回と短い尺で描き切れるのか不安はありますが、みきの人生を、ラストまでしっかりと受け止めたいと思います。





『おんな城主 直虎』
とりあえず、無名の女性が主人公の大河ドラマはこれを最後にしてもらいたい。
これはぎりぎり賛辞です。森下佳子の脚本は歴史の空白の埋め方が素晴らしかったです。一般的に知られているいわゆる史実を逆手に取るようなアレンジにも、決して歴史を冒瀆しない真摯な姿勢は感じました(姿勢は)。
それで一年もったようなものです。森下佳子ほど腕のある脚本家はそうそういませんから。
あ、あと政次もいましたね。これも高橋一生の演技力あってこそです。すっかり高橋一生=政次が定着してしまって、『わろてんか』のクールキャラは二番煎じ的ガッカリ感満載です。壮絶だった「嫌われ政次の一生」は胸に迫る良回でした。
政次に食われた直虎は終盤まで軽さがあって、なじめませんでした。農婦になってからはやや落ち着きを見せましたが、主人公だからといって歴史の中心に絡める必要はないわけで。徳川家で奮闘する万千代パートでがぜん勢いが出ただけに、直虎が出てくると不自然さが際立ちました。いっそのこと、前後半にわけて『直虎』『直政』にすればよかったのに。関が原や大坂の陣の直政も見たかったです。
ともかくも、「成功」と言ってもよいクオリティだったのですから、女性主人公企画はこれで〆にしたほうが良いと思います。数年前のむごい記憶があるだけに、この成功がいつまでも続くとは思えないので…。
来年は『西郷どん』。これも中薗ミホ脚本と聞いて不安がいっぱい。歴史ものになじみのない女性脚本家に幕末の薩摩という複雑な地域を書かせて本当に大丈夫なのか? もう二度と幕末を愚弄してほしくないのだが…。

『陸王』
ベタベタな展開とわかっているのに泣かされる…。「我々はコレ(半沢直樹風)を貫くのだ!」という制作側の姿勢が一貫していて、視聴者側に媚びないポリシーが伝わってきます。
今回も小藪や松岡修造という俳優以外の芸能人を主要キャストに持ってきましたが、拙い演技もそこまで影響ありませんでした。小悪党な小藪に心は熱い成功者の修造、という、演者のイメージを損なわないキャラクターだったからでしょうか。とくに修造は意外にハマっていて驚きました。顔芸もできていたし…まあ、普段の熱血キャラも多少作っているところはあるのでしょうが…。阿川佐和子もまったく違和感ありませんでしたしね。
なんといっても驚いたのは一流ランナーの茂木を演じた竹内涼真。『ひよっこ』の慶応ボーイのイメージしかなかったのですが、いやー、カッコよかった。あんなマラソンランナーいたら夢中になって追っかけちゃうであろうくらい、惚れた。元サッカー少年だけあって、ランナーの体のつくり方はばっちりでした。青山学院の原監督が指導という贅沢な環境でフォームも完璧。同僚が箱根ランナーの和田正人や吉本のマラソン芸人だったり、ライバル役が芸能人スポーツ王の佐野岳だったり、駅伝やマラソンシーンの大規模ロケといい、連ドラとは思えないリアリティでした。銀行や企業の描き方を誇張させるかわりにスポーツ場面をこだわるという制作手法がいつも面白いです。『ルーズヴェルト・ゲーム』も野球部員たちの造形が細かかったですし。
それまでシューズなんてほとんど気にしていなかったのですが、こういうドラマもあるのですね。
ニューイヤー駅伝や箱根駅伝は、靴にも注目して見てみようと思います。

『わろてんか』(承前)
大阪は特殊な土地です。東京と対比して否定したり肯定したりする企画番組はあざとくて鼻につきますが、文化面・経済面において独自色の強い発展を歴史的に遂げてきたことに変わりはなく、大正・昭和期においてもその雰囲気は独特であったと思います。
だからこそその土地を知らない人間に、これまた大阪独特の「笑い」を中心とした大阪文化を書かせるべきではなかった、と強く感じます。渡辺あや(『カーネーション』)や藤本有紀(『ちりとてちん』『ちかえもん』『夫婦善哉』)など、今までNHKで大阪を上手に表現してきた脚本家がいたにもかかわらず、なぜ東京出身の脚本家にオファーしたのか、理解に苦しみます。
もっとも私が大阪人であるからこそ、よけいに感じるところなのかもしれませんが。
このドラマは吉本せいの出自とは大きく異なっているらしいと聞いて、同じく吉本せいがモデルの小説『花のれん』を購入しました。山崎豊子独特の硬質な筆致の中にも主人公多加の逞しさ、エネルギーを感じて、一気に読んでしまいました。同じようにせいの弟で実質吉本を運営していたという林正之助の存在を消すなら、これを原作にしたらアカンかったのか? ダメ夫に先立たれたり、男尊女卑の時代における女主ならではの苦労だったり、『カーネーション』で描かれたテーマと被るところが多く、これをベースにしても問題なかったと思うのですが…。
夫婦力合わせての成功譚にするならば、藤吉をもっと魅力ある人間にしないと意味がありません。水木しげるのような才能(この場合商才)もないし、マッサンのような情熱も感じない。松坂桃李でなく濱田岳がこの役であれば、まだどちらかに振り切らせて愛嬌も出たでしょうが…。松坂桃李の演技力だけの問題ではなく、彼を相手役にした企画自体がダメです。
当時の風俗や文化の描写が拙く、入り込めない薄っぺらさと、矛盾ばかりの展開に辟易していたうえ、「たった一年でてん実家への借金を返せました」という無理無理展開にはいいかげんうんざりして脱落しかけましたが、なんとか見続けているのは、団吾&団真&お夕のそこだけドラマらしかったエピソードあればこそ。こちらの展開にもかなり矛盾がありましたが、三人の演技力のおかげでうまくごまかせていました。北村有起哉は『ちかえもん』でも見事な義太夫を披露していましたが、落語もかなりのクオリティでした。また出てきてほしいなあ。
ともかくも小屋の経営が安定してきて、ようやく話が落ち着いた感があります。年末ラストは『花のれん』でも描かれていた安来節の流行が取り上げられましたが、不倫(ぽく来年にひっぱっておいて、絶対にそうならない)を絡めてくる必要はなかろうに。
てんを演じる葵わかなちゃんの奮闘が報われるドラマになってほしいと思います。


『アシガール』
原作が終わっていないのに最終回、タイムスリップの結末はどうなるのだろう? と危惧していたら、続編を示唆してのハッピーエンド。とはいえ、なかなかうまい終わらせ方でした。
このドラマの成功要因は、とにかく主人公がかわいかったこと。無謀な恋と知りながらもつい応援したくなる、唯のいちずさでした。ここまでアホの子に徹することができる黒島結菜ちゃんの熱演にあっぱれ。途中から走り方もさまになってきましたし、「振り切った」感もよく出ていました。
が、放送中にもっとも評価をあげたのは若君さま。最初は慣れない時代劇のせいか所作や台詞回しに固さがありましたが、ぐんぐん爽やかイケメンの若君っぽくなってきて、殺陣も見事な太刀さばき。「こりゃ唯も惚れるわ」なカッチョよさでした。健太郎という若手俳優をそれまで知らなかっただけに、現代劇が想像つかない…。それほど、平成にタイムスリップしてきた時の長髪制服姿がイケメンすぎました。
成之も憂いがあって良かったです。栄輔さんにはやはり陰を背負った役が似合う。原作の阿古姫へのプロポーズは唯の心の声と同様感動的だったので、同じ言葉で聞きたかったなあ。
成之母の設定や時間軸が前後していたエピソードなどの変更箇所も、原作を壊さず破綻しないように練られていて不自然さはありませんでしたし、小道具から所作指導までさすがNHKと思うほど細部まで丁寧でした。不満になりがちな漫画原作のドラマ化で、ここまで満足させてくれるとは思いもしませんでした。その前の『みをつくし料理帖』が不満タラタラだっただけに…。
続編の制作は、原作の最後を待ってからでしょうか。唯ちゃんと若君が大人になりきらないうちに、なるべく早く作ってほしいなあ。
あと、しょっぱい顔の小平太が見られなかったのも少し残念。来るべきこのシーンのために金田をキャスティングしたのではないのか!? え、違う?

『刑事ゆがみ』
弓神と羽生の凸凹ぶりで笑わせたかと思えば、事件の真相を知ってじんわり泣かせてくれる、硬軟取り混ぜた良質なバランスは最終話まで失われることはありませんでした。最後はそれまで謎の存在であったヒズミの正体と弓神の過去が2回に渡って描かれましたが、弓神・羽生コンビのバランスが崩れても、全体を通してスピード感と緊張感を保ったままラストの盛り上がりに持っていく作り方が素晴らしかったです。初回から最終回までまったく無駄な部分がなく、こんな良作はひさしぶりでした。
弓神と羽生はじめ、俳優陣の好演も質を高めるものでした。弓神の二面性ぶりを体現した浅野忠信や腹黒な羽生をいやみなく演じた神木隆之介はもちろん、すぐ手、いや足が出る高齢独身上司の菅能は稲森いずみであることを忘れるほどのかっこよさでした。毎回のゲストも一話のみの出演だけでは惜しいほど豪華。ラスボスがオダギリジョーというのも、文句のつけようがありません。それにしても、斎藤工に続いて、これ以上詐欺師が似合う男もいないリリー・フランキーまで脇の脇で使うとは…豪華にもほどがある。
それまであまりいい印象を持っていなかった山本美月も、色気を消してなりきっていました。最終回は泣かされました。
結局ヒズミは声を取り戻し過去を浄化したものの、横島は逮捕されることはありませんでしたが、続編なしでこのまま終わってもいいな、と思える爽快なエンディングでした。

『監獄のお姫さま』
最後までクドカンテイスト満載でした。結局、ほぼクリスマスの夜と回想だけで尺を費やし、「二、三か月経ったような気がする!」と監禁された伊勢谷友介がぼやく場面には思わず吹き出しました。
馬場かよが元やり手の銀行ウーマンに見えなかったり、晴海がオバサン側に転がる理由が薄く感じたり、随所に雑な部分は感じましたが、しかしそれらがどうでもよくなるくらいのパワーがクドカン作品にはあるのだと思います。
役者がイキイキしているのも共通項。おなじみのクドカン組は、クドカン脚本で演じる際のあうんの呼吸を心得ているのでしょう。
クドカン作品は『あまちゃん』くらいしか見たことがなかったのですが、2019年の大河もこんな感じのノリなのでしょうか。いったいどうなるのでしょう…「大河」というブランドは求めないほうがよさそうですね。

『明日の約束』
視聴率の低さでやや話題となりましたが、高校生の自殺、いじめ、家族間の確執というテーマがテーマだけに、仕方ないところです。
かつては子ども視点で感じていたそれらの問題を、今はあれほど疎んじていた大人の感覚でとらえるようになりました。
だから最終回で日向が生徒たちへ送った「生きて」のメッセージも、素直に受け取れました。
悲しみ、苦しみ、救い、喜び。日々重なるさまざまな感情を織り上げて、誰しもの生はある。圭吾の死と対比するかのように、子どもも大人も、全員のそれら生の日々を毎回丁寧に描いていたからだと思います。
そして圭吾がなぜ死を選んだのか、結局ラストまで明確にされなかったことも逆に効果的でした。誰かが死を選んだ時、なぜ、を追い求めがちになりますが、直接的原因があきらかになればそれでこの一件は社会的に落着してしまいます。圭吾が言葉で語らない――否、もう二度と語れない以上、圭吾にかかわったすべての人にとっては、圭吾がもうこの世にいないという事実以上に重要なことはありません。だからこそ、明日を生きていくための日向のメッセージは心に強く刻まれるのです。
もっとも、現実がドラマ以上に残酷であることも、否定しようのない事実です。かつては「死んではいけない」という論調で終わらせるドラマは薄っぺらいと感じていましたが、せめてドラマの中だけでも救いがあってほしいと感じるようになったのは、私がトシを取った証拠なのかもしれません。


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