自殺した姉の忘れ形見であるメアリー、そして彼女の猫・フレッドとささやかに暮らしている独身男のフランク。メアリーには特別な才能がありましたが、フランクは彼女を特別扱いすることを嫌い、普通に生活することを望んでいました。しかしそんなふたりの前に、フランクの母親でありメアリーの祖母であるイブリンが現れ、メアリーの親権をめぐって争うことになります。 子どもがメインの映画は子役の演技で質が決まるようなものですが、メアリー役のマッケナ・グレイスの演技が素晴らしい。『リトル・ミス・サンシャイン』『私の中のあなた』のブレスリンちゃんを思い出します。 映画はメアリーが学校に行きたくないとだだをこねるシーンから始まります。1+1どころか3桁の掛け算も一瞬で解いてしまう頭脳の持ち主ですから、「普通」の子どものように先生に挨拶したり、手をあげてから発言したりするような「普通」のルールに従うことはくだらなくて仕方ないのです。それでも7歳は7歳、隣人のおばちゃんとマイク片手に熱唱したり、おもちゃ遊びに夢中になったり、ピアノを欲しがったり、子どもらしいあどけなさを見せながら、フランクと一夜を共にした担任の先生と鉢合わせした際には「おはようございます、センセー」とすべてを察したような含み笑いをしてみせます。しかしフランクと離れ離れになる時にはびしょびしょの涙顔、連れ戻しに来た時はポカポカ叩き。大人と子どもを行ったり来たりする演技の振り幅には感嘆しました。 主演女優賞がメアリーなら助演男優賞はフレッド。片目の猫です。彼はメアリーにとって友達を超えた半身のような存在です。いつもそばに寄り添い、彼女の喜怒哀楽を静かに見守っています。もっとも猫ですから、彼が能動的にメアリーを救うわけではありません。ラストでも殺処分寸前のところをフランクに助け出される始末です。それでもメアリーに「我フレッド思う、ゆえに我あり」と言われるくらいの、ソウルメイトなのです。ギフテッドであるメアリーの子どもらしさの象徴以上に存在感を放っています。 ちなみにフランクは、フレッドと同時に殺処分される予定であったろう他の猫もどさくさにまぎれて一緒に連れ帰っています。フランクは女に弱く仕事も薄給で保険にも入っていませんが、心やさしい男性です。姪であるメアリーにも彼なりの育児方針を持ち、自分の出生に懐疑的になるメアリーを産院へ連れていき、歓喜の瞬間に立ち会わせ、元気を取り戻させるなど、彼女の心の成長に正面から向き合っています。メアリーを手に入れて「逆転ホームランを打つ」と言い放つイブリンとは対称的です。 しかしこの作品のあたたかいところは、そんな毒親であるイブリンにも救いの手をさしのべているところです。彼女にすべての娯楽を奪われた娘は、それでも数学と真摯に向き合い、難解な証明問題を解き明かしました。遺されたノートの文字を見て、イブリンは母親としての涙を、心を取り戻します。 メアリーはフランクの元に戻り、大学で研究する道を選びますが、放課後はガールスカウトで同年代の友達とはしゃぐ毎日を送ります。 交錯したそれぞれの愛は、こうして穏やかな未来へと結ばれました。 フランクとメアリーの愛。メアリーとフレッドの愛。隣人の愛。イブリンの愛。そしておそらく、これから生まれるであろういくつもの愛。 それらすべてのあふれた、心のあたたかくなる作品でした。 PR 『プラダを着た悪魔』を観たのはもう10年以上前のことになります。 その頃ギリギリ20代だった私はもはやジャスフォー、ファッション雑誌も読まなくなって久しくなります。 『プラダを着た悪魔』では女性上司に振り回されながら自分の未来への道筋を確立していったアン・ハサウェイが、この作品ではみずから部下を振り回し、仕事と家庭の両立に悩む女社長を演じています。 社会も10年前とは大きく変わりました。高齢化社会と労働力不足はますます進み、マクドもコンビニも店員はシニアばかり。働かなくては食べていけないのも事実であり、定年70歳時代も遠くない現実かもしれません。 この作品の主人公・ベンも、シニア・インターンとして入社した70歳。しかし第二の人生をそれなりに充実させて生きてきた彼は、言動も立ち居振る舞いも紳士的で、上司であるジュールズのむちゃぶりにも冷静に対処し、慣れないパソコンも努力して使いこなせるようになっていきます。同じ説明を何度もしなくていいし、沸点も低くない。 こんなじいさん、おらんがな。 …と言いたくなるのは、私自身がベンよりも年下の高齢者と仕事をした経験があるからですが。 『プラダ』でも物語そのものより主人公のファッションチェックが見どころでしたが、こちらもジュールズのカジュアルからコンサバまでさまざまなアラサーファッションを楽しみ、ベンの含蓄あるセリフを味わい、大団円の結末に満足して終わりの作品です。 20代の頃に観たら、きっと感じ方は違っていたと思います。おそらくジュールズやベッキーに感情移入していたでしょう。ベンのような素敵な老紳士が友人だったらと憧れたに違いありません。が、今の自分は、彼女たちとはまるで違う場所にいますし、ベンが妖精であることも知っています。 それでも、こういうハッピーエンドを「ありえんがな」で片づけてしまってはつまらない。 テンポ良く物語もわかりやすいですし、何よりアン・ハサウェイとロバート・デ・ニーロのツーショットが美しく健康的で、余韻も爽やかです。 トシをとると、予定外のことに対応できなくなってきました。 二時間集中するのも疲れますし、頭からっぽにして楽しむのが、四十路の映画鑑賞の醍醐味でもあります。 『万引き家族』でカンヌのパルムドールを受賞した是枝監督の2008年の作品。 是枝監督が手がけたドラマ『ゴーイング マイ ホーム』でもちょっと情けない父親役だった阿部寛が、こちらでも冴えない次男を演じ、さらにその姉役だったYOUもこれまた阿部ちゃんの姉として登場します。見事なハマリ姉弟。 物語は、主人公の良多一家が15年前に海で亡くなった兄の命日に帰省するところから始まります。長男と較べられてばかりで実家に居心地の悪さを感じている良多は気がすすまない。そんな彼をいさめる妻も、実は子どもを連れての再婚であるため緊張ぎみで、息子に今日だけは「良ちゃん」でなく「パパ」と呼ぶようお願いしながら向かいます。 彼らを待つ実家では、先に到着していた姉と愛想のよい夫、ふたりの子どもですでににぎやか。もてなしの昼食を作りながら、親娘の遠慮のない会話が盛り上がっています。 『ゴーイング マイ ホーム』では主人公の妻がフードコーディネーターとあって、登場する料理はどれも見映えがよくておいしそうでしたが、「商売用」である冷たさがどこか感じられる演出がされていました。しかし今回の料理は、母が子、そして孫たちへのもてなしのための料理とあって、油のはじける音までおいしそう。そして、母親を演じた樹木希林のみょうがを切る包丁さばき、エビの背わたの取り方ひとつとっても、長年主婦として台所に立ち続け、家族においしいと思ってもらえるようなごはんを作り続けてきたことが伝わってきます。 ありふれた夏の一日。 子が孫を連れて集まって、母がお昼ごはんやおやつを食べきれないくらいに作って、縁側でスイカ割りをして、孫たちはいとこ同士散歩という名の冒険に出て、運転で疲れた婿は昼寝して、嫁は気を遣って神経をすりへらして。 おそらく都会っ子として育った良多の連れ子であるあつしにとっては初めての経験でしょうが、空気を読んで嘘をつき、子どもらしい順応力でいとこや祖父母になじんでいきます。 空気を読んでいるようで読めていないのは、大人のほう。 大人になると、いつの間にか、自分のために嘘をつくようになりました。 仕事に不自由はしていないと見栄を張る良多、親孝行を隠れ蓑に二世帯住宅建設を画策する姉、どちらもあつしがついた「パパ」呼びや調律師になりたい理由とはまるで本質が異なる嘘です。 最初から大人だった親は、もしかしたら大人になった子どもの嘘なんて、最初からお見通しだったかもしれません。 親は最後まで親であり、子は子であり。良多も姉も、やがてその子が大人になれば、同じように騙されたふりをするのかもしれません。 どこにでもある家族というコミュニティの中の、どこにでもいる大人たちの、なんでもない夏の一日の、ちょっとだけ間に合わなかった永遠の思い出。 観る者の胸にも、深く思いを残す作品でした。
●ホビット 決戦のゆくえ:★★☆☆☆
決戦のゆくえは、また大鷹が敵を全員倒して終わったようです。大鷹は完全無敵のヒーローですね。こいつが一番すごいです。トーリンが改心したいきさつとか、財宝の分配や統治はどうなるかとか、アーケン石は何だったんだとか、色々と釈然としない終わり方でした。このシリーズは結局良かったのは1作目だけで、後はイマイチでしたね。 ●いぬやしき:★★★☆☆ 何の感動もないし得るものもないですが、娯楽作としてそれなりには面白いです。犬屋敷の家族の描き方が10年前のホームドラマを見ているようでしょうもなかったですが、獅子神のストーリーは面白かったです。僕も貧乏育ちなので、金持ちの家族は見るだけでイライラしますし、獅子神には感情移入できました。ラストはすっきりしませんが、続編を狙っているんですかね。 ●ミスター・ノーバディ:★☆☆☆☆ この映画の主人公は人生を巻き戻したり違う選択肢を選んだりしてますが、結局はいつも惚れた腫れたばっかりなんですよ。こいつの人生で恋愛以外に価値あるものはないのでしょうか。結局アンナが好きだったんだろとしか言いようがないです。前田有一とかいう映画批評家がベタ褒めしている記事をネットでたまたま見つけたので観ましたが、もうこいつは信用しません。 ・クワイエット・プレイス:★★★☆☆ ツッコミどころはきりがないです。ラストも人類をほぼ滅亡させた宇宙人をおばはんが普通に倒したりとかむちゃくちゃです。ただ、面白かったです。「ミスター・ノーバディ」みたいな深い意味を匂わせてつまらない映画より、こっちの方がよっぽどいいです。ただ、死ぬ前の父親は、どうせ開き直って声出すならウォーとかじゃなく、感動的なセリフを言ってほしかったですね。 ・あの頃ペニー・レインと:★★★★★ この映画はいい映画ですよ。ただ、僕が童貞で衝動しかなかった10代の頃に観たかったなあと悔しいですね。主人公はペニー・レインが好きなんですが、恋愛映画ではありません。成就してませんし。美しい青春の思い出かといわれれば、トラブルがむしろ目立つしそんなに美しくもないです。しかし何ともいえない切ない余韻があります。青春ってこんなものだと思いますね。 ●グエムルー漢江の怪物ー:★★☆☆☆ 兄弟3人が目的は一緒なのに最後まで全く仲良くないしお互いを信用していないところや、主人公の娘が結局死ぬところはハリウッド映画とは違いますが、面白かったわけではなく、こういう映画はハリウッド作品の方が面白いですね。韓国の政府や警察の現状、大学生の就職事情、米韓の関係性あたりも風刺しているんでしょうが、知識も興味もないので何も思いませんでした。 ●ピエロがお前を嘲笑う:★★☆☆☆ ユージュアル・サスペクツにそっくりの、信頼できない語り手の話でストーリーが進む映画ですね。そしてその話に翻弄されて騙されるのが警察官ですね。本当に一緒ですね。面白さは100分の1ぐらいですが。ジャケットに「トリックは100%見破れない」とありますが、別に見破るためだけに映画を観てないですし、特に驚くほどのトリックでもなかったです。 ●未来のミライ:★☆☆☆☆ まず、明らかに世帯所得が平均以上で、全員健康で、介護すべき親もいないモデルファミリーの、両親の子育ての悩みや長男のワガママぶりを見るだけでも不愉快です。長男が家族の過去の世界に行ったり、成長した妹がこっちの世界に来たりして、長男が精神的に成長するストーリー自体も、それぞれのエピソードに繋がりや必然性が感じられず、何が面白いのかわかりません。 ●嫌われ松子の一生:★★★★☆ この映画の中島哲也監督がセンスがあるのは「下妻物語」など他の映画でわかっていますし、今回も、ひたすら悲惨な主人公の人生を、パワフルな映像と音楽でテンポ良くコミカルに描くという試み自体は成功しています。ただ、何か心に残ったかと言われればそうでもないし、観ている間は楽しめる完成度の高い娯楽映画というだけですね。ラストもちょっとしつこいですね。 ●ジグソウ:ソウ・レガシー:★★☆☆☆ 単品で評価すると凡作ですが、ソウシリーズは7作全て観ているので、おふくろの味のような安心感があります。ジグソウが実は生きていた!みたいな描写も、また時間軸ずらしか!2でやっただろ!と思いながら、ジグソウが出てきただけで嬉しいです。ラストで明らかになる犯人も、普通の復讐か!ジグソウの美学は?と思いながら、続編を匂わせた終わり方で嬉しいです。 ●オーロラの彼方へ:★★★☆☆ 伏線の張り方も上手いし、ストーリーはきれいにまとまっていますし、完成度の高い映画です。ただ、善人悪人がはっきりしているところと、ラストのモデルファミリー万歳みたいなところが好みではないですね。万人受けはするんでしょうが。中盤からのサスペンス要素も、どうせこういう映画は善人側はみんな助かるだろうなと思って観てますから、スリルを味わえませんし。 ●ダウト~あるカトリック学校で~:★★★★☆ 地味な映画ですね。悪くはないんですが。「ザ・マスター」のように、主演2人の演技合戦を観るための映画ですかね。「常識的にマイナスの行為も人によってはプラスであることもある。」とか、「正しいことをするために悪いことをしてしまうことは本当に正しいのか?」とか、「そもそも正義とは何か」?とか地味ながらも色々考えさせてくれる映画ですね。 主人公は警察官、30年前とつながった無線機、話す相手と協力して過去の事件を解決、目の前で変わる歴史…。 どこかで見たような…。 ドラマ『シグナル』です。それもそのはず、この映画のドラマ版のタイトルは『シグナル』。ドラマ版のストーリーは知りませんが、坂口健太郎主演のドラマとはラストの余韻がまるで異なっています。 オーロラの出現した夜に起きた奇跡。最初の消防隊のシーンから迫力満点で、たたみかけるような展開と、最後まで二転三転する「歴史」は惹きつけられました。 ドラマ『シグナル』では赤の他人のつながりでしたが、父と息子が協力して事件を解決するというのもアメリカ映画的で良い。息子を全力で守る父、父の背中を押す息子、絵になります。 「ヤフー」をめぐるひと幕もオチがきいていて、心があたたかくなりました。 たぶん、映画を観る喜びとは、こういう余韻を味わうものなのだなあと感じる佳作でした。 |
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