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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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2013年の新海誠作の短編アニメーションです。
絶賛上映中の『天気の子』も雨の描写が中心の話(たぶん)ですが、こちらも雨の日がメインのお話。新海監督が得意とする自然描写と繊細な心模様が画面をきらやかに彩る作品です。
雨の日は地下鉄に乗らず、新宿御苑で1限をサボることにしているタカオ。ある日彼はいつもの東屋で先客に出逢います。朝から板チョコをあてに缶ビールを飲んでいる勤め人風の女性・ユキノ。彼女が言い残した和歌は、タカオの心に強い印象を残します。
複雑な家庭環境を抱え高校生活にも実感を味わえず、バイトにいそしみながら、小さな夢を追いかけているタカオ。
職場のトラブルで味覚障害を発症し、出社できなくなってしまったユキノ。
心のどこかに喪失感を抱えたふたりは、自然と心を通わせていきます。
雨の日しか逢わない、逢えないふたり。

《鳴神の 少し響みて さし曇り 雨も降らぬか 君を留めむ》

いつしか雨を待ち遠しく、晴れを恨めしく思う自分がいました。
ひとりの女性としてユキノを意識するようになっていたタカオは、彼女が自分の通う高校の古典教師で、生徒とのトラブルによって休職中であったことを知ります。
最初は動揺したタカオでしたが、恋心は揺らぐことはありませんでした。

《鳴る神の 少し響みて 降らずとも 我は留まらむ 妹し留めば》

それでも十五歳のタカオに、二十七歳のユキノが教師以上の立場で応えることはできませんでした。
生徒という線引きをたやすく飛び越えてきたタカオは、思いのままをユキノにぶつけます。
幾千の刻を経てもひととひとを結びつけるのは、互いを行き交ういくつもの言の葉。
そしてそこに想ひが加わった瞬間に、世界のすべてが意味あるものへと変わるのです。
恋人と味覚を失くし、仕事用のハイヒールで歩くこともできなくなったユキノは、裸足のままでタカオの言の葉へ飛び込んでいきます。
ユキノの靴は、タカオのいる場所にありました。ユキノが失った心の一部は、タカオとの出逢いによって埋められていました。
言の葉の力で自分を取り戻すことができたユキノ。
雨が降らなくても、今までと違う一歩を歩いていける。自分の足で。
そしてタカオもまた、色づいた世界の先に見え始めた自分の道を歩き出そうとしていました。
それぞれは違う景色の中にいるけれど、同じ空の下にいる。同じ空を見ている。いつかその道はひとつにつながるかもしれない。それはきっと雨上がりの、みずみずしい青空が広がる日のことなのだと思う。
エンディングの秦基博が歌う大江千里のメロディーはどこか懐かしく、ICカード以外は時代を感じさせない映像も、まるで誰かの思い出話を聞いているような感覚にとらわれます。誰もが過ごしてきた十代の、大人にはなりきれず、といって子ども扱いもされたくない、わずかな季節の間に起きた一生忘れられない出来事。その一瞬を切り取り鮮やかに輝かせる新海監督のさすがの手腕に唸らされる一作でした。



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