《男子SP》
1位につけたのは、さすが絶対王者宇野選手。余白の多い音楽をスケートで埋めるような一体感がありました。鍵山優真選手はもったいないミスもありましたが、気持ちの強さを感じるプログラムでした。
山本選手は独特の気品あるクラシカルなイメージが強い中、ジャズという新しい表現にチャレンジ。ノーミスで2位につけます。
前回世界選手権代表の友野選手はさすがのステップで見せてくれましたし、三浦選手は体調万全でない中、気迫あふれるノーミスでガッツポーズと思いきや、スピンがノーカンで惜しくも4位スタート。それぞれ個性のあふれた楽しい ショートでした。
《女子SP》
坂本選手は圧巻でした。飛んだ瞬間「あっ」と思い、本人も「まずい!」と顔に出ていたように見えたルッツもきちんと降りられる体幹の強さはさすがです。しかしいい意味で力の抜けた、流れあるジャンプは優しい音楽にとても合っていました。
実力のあるジュニアも参戦する中2位につけたのは、山下選手。5年前のグランプリシリーズでロシアの牙城を崩し表彰台に上がった時はすごい若手が現れたと目を瞠らされましたが、それから怪我に悩まされなかなか成績が上がってきませんでした。柔らかな表情は5年前のまま。ようやく上位争いに戻ってきてくれたとうれしくなりました。
シニア参戦したばかりの千葉選手が3位につけ、ベテランの三原選手や河辺選手を上回りました。怪我などでなかなか本調子で挑めない選手が多かったのは少し残念でした。
《男子FP》
第3グループのトリ前とトリ、壷井選手と吉田選手が最高の演技で会場を沸かせましたが、その後に登場したトップ6はさらなる興奮の連続、感動の上書きで、胸がいっぱいになった全日本男子でした。
友野選手のフリーといえばエンターテイメント、笑顔とエネルギーあふれるプログラムという印象でしたが、今季は一転静かな曲調でじっくりと世界観を伝えてくれて、新たな境地を見せてくれました。いきなりのスタンディングオベーション。この時は逆転表彰台があるのかも…とさえ思っていました。
続いて滑走した佐藤選手は、代名詞の4回転ルッツに始まりジャンパーの矜持を示しつつ、磨いてきた表現力も発揮して最後はガッツポーズ。得点で友野選手を上回ります。
おとといは採点に悔しさを隠しきれなかった三浦選手。一日で気持ちを切り換えるのは大変だったと思いますが、最終グループ最年少とは思えない技術とメンタルで乗り越えてくれました。進撃の巨人の世界観を演じながら、三浦選手自身のファイティングスピリッツもこめられた気迫あふれるプログラム。最後の盛り上がりはテレビの前まで昂揚感が伝わってきました。採点後の笑顔のち涙にももらい泣き。
3位スタートとなった鍵山選手。燃えないわけはありません。物腰柔らかな表情の裏に秘められた熱量は、最初の4回転サルコーに現れていたように感じます。美しいスケーティングはさらに進化し、かつ静かな炎を感じるプログラムでした。好調の連鎖は止まらず、鍵山選手もスタンディングオベーションを勝ち得て台乗りを決定させます。
史上まれに見るハイレベルな争いもいよいよあとふたり。
山本選手はなかなかショートとフリー二本が揃わず、いつも歯がゆい思いで見ていました。今回もプレッシャーを背負ってしまいやしないかと少し不安だったのですが、これまでのすべてを払拭する最高のフリーでした! ジャンプが決まるごとにくり出されたガッツポーズに、こちらも思わず拳を握っていました。フィニッシュの瞬間は、これまでの苦難の道のりがようやく報われる時が来たのだと万感の思いでした。
最後を飾るのは宇野選手。最初の4回転ループが減点になるも、そこからは安定したジャンプとスケーティングで点数を積み重ねていきました。速報値を確認することも忘れてしまうほど、静謐の美にあふれたフリーでした。4分間をあっという間に感じたのはひさしぶりです。合計290点超えで、もちろん優勝の座を譲ることはありませんでした。数えること6度目、インタビューを見るにつけても大人びたなあ…という親戚のおばちゃんのような感想です。
《女子FP》
坂本選手はもはや向かうところ敵なし。スピンの取りこぼしは悔やまれるところですが、ルッツのエラーも克服しましたし、演技全体の安定感、流れ、スケールの大きさはもはや他の追随を許しません。宮原知子さん以来の三連覇となりましたが、このまま四連覇、五連覇してもおかしくないくらい、揺るがないものがあります。
しかし幼い頃から高難度のプログラムになじんできた若手が、いつまでそれを許すでしょう。島田選手の3A&4Tへの挑戦は惜しくも成功とはなりませんでしたが、失敗をひきずることなく、以降の部分はジュニアとは思えない完成度で滑りきりました。ジャンプの精度の高さはもちろん、美しいスピンは見惚れるほどでした。最後まで悔し涙が止まらなかった負けん気の強さも良し。怪我や体調不良に悩まされることなく順調に年齢を重ねていってくれることを願います。
4位に入った上薗選手も、驚かされたジュニアのひとり。じじじ13歳!? シニアと言われても疑わないだろう完成度にはほれぼれしました。
しかしそんなジュニア勢に負けず、美しい演技を見せてくれたのが2位に入った千葉選手。坂本選手をのぞきミスの目立ったシニア勢の中で、唯一ノーミスで独特の世界観を堪能させてくれました。ふわっと軽やかで羽のようなスケートは、高難度ジャンプがなくてもリンク全体を自分の世界に染めていける、そんな魅力のある選手だと思いました。ただそんな柔らかな印象とは裏腹に、実力派揃いの京都に拠点を移したり、喘息に悩まされながらも全日本を戦い抜いたり、強い精神の持ち主であることもまた好印象です。
トリ前に登場した山下選手。転倒はあったもののその他のジャンプは着氷し、ギリギリ持ちこたえたかと思ったのですが、会場もざわつくほど点数が伸びなかったですね…。回転不足をいくつか取られてしまったようです。順位を落としてしまったのは残念でしたが、ショートとはまた違う赤い衣装の情熱的な山下選手のプログラムは大人びていてとても素敵でした。来年こそ表彰台に立つ山下選手を見たいです!
今季怪我で出遅れた三原選手のスケートは彼女らしいとてもエモーショナルな内容で、会場全体を感動の渦に巻き込みました。滑走後の涙にはもらい泣き。しかし総合順位は5位で世界選手権には選ばれず、代表となったのは吉田陽菜選手でした。今季の実績でいえば納得の選出です。全日本では悔しい結果に終わってしまいましたが、次は3A成功を願っています!
樋口選手の復帰やいまだ現役で頑張り続ける大庭選手の姿にも勇気づけられました。テレビで見られなかったのが残念。
今年も見ごたえある全日本でした。
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