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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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いよいよ、今年を締めくくる全日本フィギュア、開幕です。
来年の平昌オリンピックの出場権がかかったこの大会、始まる前からドキドキが止まりません。
全員の笑顔が見たい、でも誰かの悔し涙はあるわけで…。

《女子シングルSP》
たった2枠をおよそ7人近くが狙う熾烈な争い。宮原・樋口両選手が一歩リードかと思われましたが、SPのトップを取ったのは、現在昇り龍の勢いを誇る坂本花織選手でした。
アメリカ大会で2位に入り、調子は上昇カーブを描いてはいたものの、ここまで点数をたたき出すとは正直、思いもしませんでした。ジャンプ技術はジュニア時代からトップクラスで、スピード感もスケール感もシニア1年目とは思えない質の高さですが、それに加えてアメリカ大会で得た自信に満ちあふれていました。滑りには関係ないものの、点数が出た時のリアクションやインタビューから垣間見えるキャラクターも好感が持てます。
2位はさすがの宮原知子選手。緊張からかややジャンプに精彩を欠きましたが、密度の高いステップはいっそう洗練されていて、フィニッシュまで魅了されました。
3位は本郷理華選手。最初のジャンプは高さがあり、そこから波に乗りました。手足の長い本郷選手に『カルミナ・ブラーナ』の情熱的でダイナミックな音楽はぴったりで、振り付けも際立っていました。彼女がこれまで歩んできた苦しい道のりを、観客はもちろん知っていました。フィニッシュを待たずして次々に立ち上がり贈られた惜しみない拍手。ソチ以降、宮原選手とともに日本女子を牽引する存在でした。FSも本郷選手らしい、ドラマチックなプログラムです。悔いのない演技をしてほしいと思います。
優勝争いは固いと思っていた樋口選手は、冒頭のジャンプで痛いミスが出ました。坂本選手が高得点を出しただけに、よりプレッシャーを感じていたのでしょう。しかし後半のジャンプでひきずらなかったのはまだ折れていない証。失うことを怖がらず、最高のボンドを演じてほしいと思います。
ジュニアながら最終グループに食い込んだのは紀平梨花選手。見事なトリプルアクセルでした。数十日単位で年齢制限にかかり平昌の出場資格がないところも、トリノの時の浅田真央さんを想起させられます。シニア参戦が楽しみな選手です。
オリンピック争いから後退してしまったのは、本田真凛選手、三原舞依選手、白岩優奈選手。白岩選手は宮原選手の、本田選手は本郷選手の直後でふたりとも少し動揺や緊張があったでしょうか。白岩選手は転倒あり、本田選手は独特の雰囲気を醸し出せる選手ですが個性が少しかすんで見えました。
宮原・樋口・三原の三つ巴と見られていた三原選手も、今季のGPSの不調を取り戻すことはできていませんでした。せっかく3-3を決めたのに、2Aの転倒からみるみる覇気を失ってしまいました。大人プロな『リベルタンゴ』はオリンピックに向けた勝負曲だったのでしょうが、柔らかな雰囲気を持つ三原選手にはここに来てもやや背伸びに映り、やはり世間で評されているように選曲ミスだったのでしょうか。しかしFSで盛り返し2枠を勝ち取った今年の世界選手権も記憶に新しい、「フリーの三原」です。大逆転をあきらめず、挑んでほしいと思います。

《男子シングルSP》
羽生選手が欠場したものの、オリンピック選出は間違いなし。残り2枠のうち、宇野選手にも当確ランプ。残るひとつの椅子をめぐり、無良崇人・田中刑事・村上大介選手ら世界戦の経験豊富な中堅選手が火花を散らします。
しかし、最初に会場を沸かせたのは山本草太選手でした。
ジュニアで輝かしい成績を残し、4回転もマスターして、将来を嘱望された選手でしたが、シニアに上がった昨年、度重なる大怪我に見舞われました。ようやく全日本の舞台に帰ってきた山本選手は、恐怖心もあったであろうに、予定構成からジャンプの難度を上げ、本番で成功させました。美しいスケーティングも流れるようなステップも健在。本人が思い描いていたオリンピック代表戦の内容では決してなかったでしょう。それでもリンクに帰ってきた山本選手に、観客は総立ちでした。北京まで4年。決して短くはない道のりですが、山本選手のこれからが光り輝くように祈ります。
村上選手も昨年怪我に泣いたひとりでした。今季も肺炎でNHK杯を欠場し、ベストの状態とはいかないまま今大会を迎えました。ジャンプをひとつミスした以外は演技をまとめましたが、点数が少し伸びませんでした。
いっぽう、圧巻の演技を見せたのは田中選手。高くてクリーンなジャンプに迫力あるステップで会場を惹きつけました。緊張を感じさせない演技の大きさでした。村上選手に10点差をつけ、次に滑る無良選手にプレッシャーをかけます。
最後のオリンピック挑戦と意気込む無良選手ですが、今季はジャンプが決まらず結果を出せていません。このSPでも最初の4回転でミスが出てしまいますが、続くトリプルアクセルは2点台のGOEをたたき出す最高のジャンプでした。タップ音だけで魅せるステップは無良選手の真骨頂。田中選手に6点差とつけます。
そして争いとは別次元の場所で、ひとり自分と戦う宇野選手にとっては、モチベーションの維持が難しかったのではないでしょうか。めずらしい連続ジャンプのミスで得点を落としてしまいました。顔色も少し悪かったように見えましたが、コンディションは大丈夫でしょうか。それでも全日本連覇は揺るがないでしょう。羽生選手不在の優勝に本人がどれだけの価値を見出しているかはわかりませんが、FPではGPFで得た教訓を糧に、「別次元の演技」を見せつけてほしいと思います。

《女子シングルFS》
宮原選手が情感あふれる演技で逆転優勝。4連覇を飾り、オリンピック出場権を獲得しました。
いつも冷静で感情を表に出すことのない宮原選手ですが、演技後には渾身のガッツポーズを見せました。リンクの外では濱田コーチもフィニッシュと同時に顔を覆い、キス&クライでもその涙は止まらず、宮原選手がどれほど努力を積み重ねてこの日にたどりついたのかが垣間見える一幕でした。練習を始めてまだ二ヶ月のジャンプは完璧とはいきませんでしたが、それでも跳べない間に磨かれたスケーティングはそれを補ってあまりあるものでした。平昌のキス&クライでは涙ではなく笑顔のふたりを見られますように。
初優勝を狙った坂本花織選手でしたが、最終滑走の緊張もあってかアメリカ大会に較べると勢いに欠け、回転不足やエッジのアテンションもあって思うように得点が伸びませんでした。それでも大きなミスなく滑り切ったメンタルは見事です。大会前は圏外扱いだった選手が、まさかの表彰台。モスグリーンから真っ赤になった衣装もリンクに映えていました。
表彰台に上ればオリンピックをぐいっと引き寄せられた樋口選手でしたが、結果は4位。演技前の表情は落ち着いて見え、慎重に要素をこなしてジャンプミスをひきずらず最後まで滑り切りましたが、点数は自己ベストに及びませんでした。報道によると怪我を抱えていたようです。それでもフィニッシュ後にリンクをコンコンと叩いたのは、今のすべてを出し切ったというサインだったのでしょう。
これでオリンピックの残り1枠は、現時点で勢いある坂本選手か、実績の条件にあてはまる樋口選手のどちらかに絞られましたが、いずれにせよすんなりとはいかないであろう結果となりました。スケ連がどのような判断を下すのか…24日の結果発表を待つのみです。
SP7位から5位に上がった三原選手。この全日本でも、得意のフリーが輝きました。流れるようなスケーティングから天使のようにフワリと舞うジャンプの美しさ。至高の時間に酔いしれました。最後のサルコウを決めてのガッツポーズと、フィニッシュ後の涙にはこちらも感極まりました。FSでは3位の140点台をたたき出しましたが、SPのミスが痛かったです。
本郷選手は二度の転倒で順位を落としてしまいましたが、それでも情熱のステップは観衆を魅了しました。本郷選手の表現力は若手にはない唯一無二の武器。これからも本郷選手のいろんなプログラムを見ていきたいと心から思います。
本田選手は滑り出しから勢いがありませんでした。オリンピックを目標にやってきて、それをまだ試合中にもかかわらず見失ってしまった悲しさや混乱が演技からも伝わってきました。どんなに世界の舞台で戦っても、まだ10代の女の子です。メンタルの強さがいかに問われる競技なのか、あらためて感じさせられました。SP8位と出遅れた白岩選手ももともと選出には厳しい条件でしたが、FSでも転倒して悔しい結果になってしまいました。今後のスキルアップに期待です。
ジュニアながら3位に入った紀平選手。空気に乱されることなく、見事に加点のつくトリプルアクセル2本を決めました。まるで男子のように鮮やかなジャンプでした。このまま他の部分をブラッシュアップすれば、ロシア勢に対抗できる選手になりそうです。第3グループでは竹内すい選手がトリプルアクセルを跳び、横井ゆは菜選手が会場を沸かせ、紀平選手もあわせてジュニア層の厚さも感じる全日本となりました。

《男子シングルFS》
やはりひとり別次元だった宇野選手。公式練習で2A―4Tのコンビネーションに挑んでいたと明かされた時には耳を疑いました。そんな見たことも聞いたこともないジャンプを跳べる人間がこの世に存在したというのか?
結果は失敗でしたが、そのファイティングスピリッツには感服。ループやフリップの高難度4回転プログラムももはやあたりまえ、ミスはあったものの圧倒的大差で連覇を果たしました。オリンピックではどのような構成で金メダルに挑むのか想像もつきませんが、それにしても宇野選手がまさかここまで順調にトップ選手の階段を駆け上がるとは。4年前のソチ争いの最終グループでひとりあどけなかったあの少年が…全日本初出場の時にはタキシードの衣装が入学式のようだったあのチビッ子が…。実に感慨深いものがあります。…て、なんか親戚のおばちゃんみたい。
熾烈な2位争いを制したのは、後半の4回転を成功させた田中選手でした。緊張感は手に取るように伝わりましたが、それと同じくらいオリンピックにかける強い意思も感じました。それまでの選手に4回転の失敗や回避が続いていた中、絶対に決めなければいけないジャンプを降りきった瞬間、それはオリンピックへの道がはっきりと拓けた瞬間でもありました。
そしてそれは同時に、無良選手の道が閉ざされた瞬間でもありました。ジャンプが不調なこともあり構成を変えて確実な方法を選び、その計算は当たったものの、SPの点差が響きました。
渾身のオペラ座。気迫のファントム。ようやく見せてくれた、それは最初から最後まで無良選手にしか滑れないオペラ座でした。コーチでもあるお父さんとの抱擁、そして涙。どの選手にもここに至るまでドラマがあります。しかし無良選手がどれだけ長い時間オリンピックに向け戦ってきたのか、ファンは知っています。この日いちばんの拍手は、キス&クライで赤い目をした親子に降り注ぎました。
村上選手は万全の状態には遠く見えました。4年に一度のオリンピックに出場するには、タイミングという運が大きく作用することもありますが、村上選手にはそれがもっとも影響したように思います。数年前イキイキと滑っていた時の村上選手がここにいれば、と思わずにはいられません。村上選手の品があって丁寧なプログラムをもう一度見たい。そう願わずにいられません。
町田樹さんを見習ってあえてオリンピックと口にするようにした、と自分にプレッシャーをかけて今シーズンに挑んだ友野一希選手。シニア1年目での快挙には届きませんでしたが、町田選手のように心を惹く演技でした。4年後はきっとひとまわりもふたまわりも成長して、枠争いの中心にいることでしょう。
そして4年後の姿が楽しみなのは他にも。須本光希選手はJGPFから構成をあげたプログラムを滑りきりました。山本草太選手もショートに続いて復活劇を披露し、オリンピックには関係ないところで会場が拍手と涙に包まれました。客席では一緒に練習してきた本郷理華選手も涙を見せていましたね。女子に較べて話題が少なくなった男子ですが、ちゃんと未来へのバトンは受け継がれていきます。

表彰式後、出場選手が発表されました。
最後の名前が発表された瞬間、ひときわ大きな歓声が上がりました。スケ連の人もタメましたね~。
女子の2枠目は坂本選手でした。今大会の結果だけでなく、アメリカ大会2位の実績があったことも功を奏したでしょう。
羽生・木原・リード選手以外は初出場。団体戦も含めチームジャパンみんなが笑顔でフィニッシュを迎えられるよう、祈りを捧げたいと思います。

今年はとくに泣きつかれた4日間でした。
翌日のエキシビションはメダリストがクリスマスメドレーで楽しませてくれたいっぽう、惜しくもメダルに届かなかった選手の演技がひときわ心に残りました。
中でも樋口選手の『ハレルヤ』は気持ちが伝わりました。ジャンプを封印してのスケートでしたが、かつてジャンプとスピードで注目されたジュニア選手が、時を経てスケーティングを身につけオリンピックを争い、結果には届かなくてもしっかりとその足跡を見る者の心に残した。その事実は樋口選手の歩んできた道が間違っていなかったことの証明です。試合後のインタビューではまだ涙が止まりませんでしたが、4年後の新たな目的のために彼女はふたたび立ち上がるはず。たくさんのファンが見守っています。
それにしても、高橋大輔さん泣きすぎ。オリンピック選考会とあって平常心ではいられないんだろうな。解説者って難しそう。
あと生中継と荒川静香・本田武史両氏の解説とTESカウンターは本当に良かったのに、なぜエキシビションはク×(自主規制)になるフジテレビ。オリンピックはどこが中継するのかなー。




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