豪栄道の綱とりが期待された昨年の九州場所でしたが、終盤を待たず黒星を重ね早々に脱落。
優勝したのはしばらく存在感が希薄だった鶴竜でした。14勝1敗、やっと横綱らしい相撲を見せてくれました。 白鵬は上位を相手に土をつけられなんと4敗。日馬富士も満身創痍で12勝。琴奨菊は負け越し、照ノ富士もけがを抱えて勝ち越しがやっと。 振るわぬ上位陣の中、星取だけなら鶴竜に続いたのは稀勢の里。3横綱2大関を破る活躍でした。が、成績は12勝3敗。黒星はすべて平幕相手、ふたつは中日を前にくらったものです。 あいかわらずの稀勢の里。 琴奨菊が日本出身力士として10年ぶりに優勝を飾ったのは、ちょうど一年前のことでした。その時、稀勢の里について「もう語るべくもない」「毎場所のように期待しては早々に裏切られてきた」と書きました。 2016年も「やっぱりな」の連続でした。 2017年。連覇のかかった鶴竜は早々に負けがこんで休場。日馬富士もそれより前に休場。豪栄道も序盤から星を落とし、カド番の琴奨菊は負け越し、強行出場を続ける照ノ富士も踏ん張りきかず勝てません。 優勝争いは、早々に白鵬と稀勢の里のふたりに絞られました。 もう誰もが知っています。アナウンサーも解説者も、口をそろえて言いました。 「稀勢の里に優勝の期待がかかりますが、期待すると稀勢の里は~…」 期待すればするぶんだけ裏切られてきて、もう誰も、「やっぱりな」とは思いたくないのです。 稀勢の里が星ひとつリードしての中日、優勝争いに向けて盛り上がりつつあるところ、相手は平幕の隠岐の海。普段であれば苦にしない相手ですが、プレッシャーのかかる場面ではなぜか大型力士にめっぽう弱い稀勢の里。この日も腰高の怪しい立ち合いでした。しかしここでなんとかかんとか勝てたことで、少し風が吹いてきたかもしれません。その翌日、連敗中で陥落寸前の琴奨菊にガブられた際は「やっぱり…」と言いかけましたが、その直後白鵬が稀勢の里の弟弟子である高安に土をつけられたことで、その語尾は吹き消されました。 さらに上位陣は軒並み休場&不調の嵐。疲れの出る終盤13日目に、豪栄道が休場して不戦勝という追い風はさらに強くなりました。 勝負の14日目。 「白鵬が貴ノ岩に負けるはずないから、稀勢の里は逸ノ城に勝つことは絶対条件として、千秋楽の結びで白鵬に勝って文句なしの優勝といきたいところだな。本割で負けて決定戦で勝っても締まらないからなあ」 モンスターぶりを取り戻してきた逸ノ城とはいえ普段なら苦にしませんが、トラウマの平幕大型力士。ドキドキしながら時間を待ちました。 逸ノ城が立ち合い、手をつきかけました。微動だにしない稀勢の里。逸ノ城は立ち合いでぶつかれず、この時点で勝負ありました。 勝負は千秋楽か――。と、気の抜けた状態で結びの一番を眺めていたのですが。 白鵬が寄り切られた瞬間、稀勢の里の優勝決定の喜びよりも、驚きとともに悲しみが湧いてきました。 あんなに勝ちまくって、憎らしいほど強くて、史上最強横綱として土俵に君臨していた白鵬が、初顔合わせの相手に敗れる、しかも一場所に二番も――。 こんな白鵬の姿を見ることになるなんて。 いつまでも強くあり続けることなんてできるわけがない。それでも、白鵬にはまだまだ横綱でいてほしい。下からの突き上げを受け止めてはね返す壁であってほしい。みずからの衰えを受け止めて、それをさらに凄みある強さに変える。大横綱・白鵬ならばきっとできるはず。 さて稀勢の里。 優勝の瞬間は支度部屋、というのもまた、稀勢の里らしいというかなんというか。 報道陣に背を向けて、ふーっとひと息。ようやく振り返ったと思えばボソボソと言葉少なのインタビュー。いつもの稀勢の里かと思いきや目元は赤く、最後にはつーっとひと筋、頬を伝うものが光りました。積年の思いが詰まった涙でした。 入門から15年。どれだけ苦しかったろう。大きな期待を背負って入幕し、年を追うごとに期待値は高まるも、歓声がため息に変わる瞬間を何度も背中で受け止め、あとわずかのところで優勝を逃すこと数度。賜杯のいちばん近くまでたどりついておきながら、次々日本人大関に先を越された2015年。悔しさをその体に押し込めながら相撲道に邁進するしかなかった日々。 ひと筋の涙に込められた15年の思いは、美しい輝きに昇華しました。 全相撲ファンが待ちわびた結果で終えた初場所。 稀勢の里の横綱昇進は、ほぼ決まりのようです。 琴奨菊が陥落し、高安や御嶽海ら若手が躍進し、大きく様相を変える春場所の番付表。 大阪の土俵で咲き誇るのはどの力士か。あるいは、荒れる春場所の言い回しのように、思いもよらぬ千秋楽が待っているのか。 2017年も予想のつかぬ大相撲であってほしいものです。 PR |
* カレンダー *
* 最新記事 *
* ブログ内検索 *
|