リアルタイムで見られなかったのがつくづく悔しいフィギュア男子シングルSP。
録画したらなぜか低画質だったしさ…。 それでもボヤけた画面の向こうに、プーさんが(怪しいものも含め)山のように投げこまれたのはわかりました。 日本選手で最初に登場した田中刑事選手は団体戦からの不調をひきずってしまいました。4回転が決まらないと点数が伸びないだけに、20位スタートと苦しい出足です。 最終グループのトップ滑走となった羽生結弦選手。 公式練習では怪我前と変わらない質の高いジャンプを跳んでいたので、SPは大丈夫そうだなと感じていました。それでもあの大怪我からのぶっつけ本番、心配にならないはずがありません。 しかし、滑り込んだ『バラード第1番ト短調』の調べにのせたスケートは、見ている者の不安をその刃で押し潰し刻んでしまうかのような研ぎ澄まされたものでした。オリンピックチャンピオンの座は絶対に渡さないとばかりの気迫に満ちていました。カミンバック。絶対王者がリンクの上に帰ってきました。 大歓声になるのはわかっていたはず。プーさんのお片づけでスタートに時間がかかるのもわかっていたはず。それでもオリンピックの舞台というのは、予想をはるかに超える重圧がかかってしまうものなのかもしれません。金メダル争いの中心と確実視されていたネイサン・チェン選手の演技は信じられないミスの連続となりました。GPF優勝者がまさかの17位。終わった後もなおキス&クライで茫然としているチェン選手の姿はまるで、ソチの時の浅田真央さんのようでした。 宇野選手は安定した演技で今回も100点超え、堂々の3位スタートとなりました。しかし4位の金博洋選手とはわずかに0.8点差。なにせトップ4が100点超えという超ハイレベルな今回のオリンピック、FSのわずかな差がメダルを左右します。 羽生選手に4点差と迫る2位につけたのがハビエル・フェルナンデス選手。GPシリーズでは不調でファイナルにも出場できませんでしたが、しっかりオリンピックに合わせてきました。待ち望んでいた、フェルナンデス選手のダイナミックなジャンプと豊かなステップ。ソチでは悔しいミスで表彰台を逃しましたが、4年越しの雪辱に燃える思いが伝わるスケーティングでした。 土曜日は朝から正座で備えるFS。 全体の5番目に登場した田中選手は、この大会ではじめて4Sに成功しました。その後も転倒があり、完璧とはいきませんでしたが、最後のステップは「これで最後」と思いきるところがあったでしょうか、田中選手らしい力強さがあったと思います。 まさかの第2グループで登場となったネイサン・チェン選手。表情は落ち着いて見えました。冒頭の4Lzに成功すると、4F+2Tの連続ジャンプも成功。そこから4本の4回転ジャンプを続け、手をついた4F以外はすべて加点がつきました。最後の連続ジャンプも決めて、圧巻の215点。まさにソチの「浅田真央奇跡の4分間」の再来、奇跡の4分半でした。上位グループだったならここまで攻めた構成ではなかっただろうし、ノンプレッシャーだったからこその演技だったのかもしれません。終わってみればFSだけならトップの得点。メダルこそならなかったものの、このオリンピックで記憶に残る感動の瞬間でした。 同じアメリカで4Lzを跳んだビンセント・ジョウ選手、オーサーコーチ門下の韓国のチャ・ジュンファン選手、OARアリエフ選手など楽しみな若手も出てきました。次の北京ではどんな選手がメダル争いに食い込んでくるでしょうか。 そしてその中に、今回の最終グループの選手たちはどれだけ残っているでしょう。 4回転ジャンパーとして衝撃のデビューを果たしてから、ジャンプだけではないさまざまな要素をブラッシュアップして中国初のオリンピックメダリストに挑んできた金博洋選手。シリアスからコミカルまでひとつのプログラムの中でころころと表情を変え、かつ高難度のジャンプ構成、なんとなく織田信成さんにかぶる魅力的な選手。後半で痛い転倒がありましたがリカバリーを見せ、300点に肉薄する点数を出し、あとを待ちます。 4回転時代のまっただ中で休養から復帰し、なおトップクラスで滑り続けるパトリック・チャン選手。ゆったりした音楽を際立たせる美しいスケーティングにシンプルな衣装、チャン選手の織り成す清浄な世界に酔いしれました。しかし4回転の少ない構成ではひとつのミスも許されません。ソチの銀メダリストは入賞も逃す結果となりました。もうベテランとなって久しい年齢となりましたが、今後の動向が気になります。 そしてついにメダルの行方が決まるトップ3。 まずは羽生結弦選手。 かつて世界最高得点をたたき出した『SEIMEI』ですが、その密度はさらに濃いものとなっていました。ジャンプもスピンもステップも、まるで音楽がその指先から零れ落ちていくかのような一体感。4回転が難しいジャンプであることを忘れてしまう、まるで何か見えない力に操られているのではないかと思うほどの滑らかさ。ジャンプの着地でよろめいたのも、まるで物の怪と戦う陰陽師のような、ストーリーのひとつに見えるほどでした。 すべてが異次元。 夢幻の世界に連れ込まれたかのような4分半でした。 すごい選手がすごい演技をする、すごい瞬間を目のあたりにできたことが本当にしあわせです。 どよめきやまぬ中、登場したフェルナンデス選手。力感あふれるジャンプと、フェルナンデス選手にしか作り上げられない『ラ・マンチャの男』の世界観を堪能させてくれました。後半の4回転のミスがなければ相当な得点が飛び出たでしょうが、結果的には羽生選手に届かず、この時点で2位。 メダルの行方は、最終滑走の宇野選手に託されます。 もはやすっかり宇野選手のものとなった『トゥーランドット』。冒頭の4Loこそ転倒したものの、得意の4Fでリズムを取り戻しました。課題だった後半の連続ジャンプもすべて成功、絶対に決めるという気迫を感じました。音楽に乗せたダイナミックなステップとクリムキンイーグルで会場の盛り上がりは最高潮。この激戦のラストを飾るにふさわしいFSでした。 転倒した4LoのURを解説の本田さんも危惧していましたが、結果は認定のうえ、フェルナンデス選手を超える200点超。総合「2」という数字が表示された瞬間、手を叩いて叫んでしまいましたが、キス&クライは意外に冷静。初のオリンピックで銀メダルという快挙よりも、宇野選手が目指していたのは羽生選手を抜いての頂点のみだったのだろうなと感じました。目標達成はまだおあずけとなりましたが、「オリンピックに特別な思いはなかった」とあっさり答えられる自然体の宇野選手に、ますます期待をしてしまうこれからの日本男子フィギュアです。 フィギュア界において日本人選手がはじめて同時に表彰台、しかも金・銀。この時代に生まれて、歴史的瞬間に立ち会うことができました。そしてこれが日本の平昌オリンピック初の金メダルにして冬季通算1000個目の金メダル。さすが絶対王者です。持っているものが違います。 PR |
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