桜が開花するも、冬の名残はフィギュアの世界選手権。
オリンピックの興奮もまだ記憶に新しいところですが、 いよいよシーズンのラストを飾る氷上の熱戦、ミラノにて開幕です。 《女子SP》 メドベージェワ選手が欠場し、ザギトワ選手の優勝は固いかと思われましたが、地元の大声援を受けたコストナー選手が会場を魅了する演技でトップに立ちました。 地元紙で引退が報じられたコストナー選手。最初から最後まで時を忘れて見入ってしまうほどの濃密でしあわせな時間でした。ザギトワ選手はその次の滑走でしたから、高得点が出た時の歓声でプレッシャーがかかってしまったのかもしれません。また、オリンピック後の疲労もあったでしょう。オズモンド選手も宮原選手もジャンプにミスがありましたが、演技構成の質の高さでメダル圏内につけます。樋口選手は後半の得点源のジャンプで転倒があり、SP8位と出遅れてしまいました。昨年のリベンジを果たしたい気負いもあったでしょうか。フリーでの挽回を期待します。 《男子SP》 羽生・フェルナンデス選手の両オリンピックメダリストの欠場で、宇野選手に金メダルの期待がかかりましたが、直前で足を怪我したためかジャンプにミスがあり5位発進となりました。羽生結弦選手の代役出場となった友野一希選手がパーフェクトな演技で11位と健闘したものの、枠取りの期待がかかる田中選手は14位と、来季の3枠に暗雲がたれこめます。 首位に立ったのは、オリンピックの悪夢を振り払ったネイサン・チェン選手。『ネメシス』は音楽も振り付けもチェン選手の持ち味を最大限引き出してくれる名プログラム。色気たっぷりに魅せてくれました。 オリンピックでは悔しい思いもしたコリヤダ選手が2位、3位には4Lzを武器とするアメリカのヴィンセント・ジョウ選手がつけました。金博洋選手がメダル圏内の4位。FSではやはり高難度の4回転が鍵を握ることになりそうです。構成を落としても演技構成点で勝るとはいえ、宇野選手の状態が気がかりです。 《女子FS》 オリンピック後の世界選手権は例年と少し雰囲気が異なります。どの選手もオリンピックにピークを合わせてきますから、約一ヶ月後の世界選手権ではすでに下降線をたどっているのです。とくにメダリストにとっては、モチベーションの維持も難しくなるでしょう。 そんな中、出場を決めたザギトワ選手ですが、シニアに上がったばかりの15歳にとってこの状況はあまりにも過酷だったかもしれません。シニア1年目で負けなしのままオリンピックの金メダリストとなり、世界じゅうから注目を集め、おそらく帰国後もてんてこまいで練習もままならなかったでしょう。FSでは後半にジャンプを固める構成が仇となってしまいました。批判を受けつつも、この高難度プログラムをこれまでほぼ完璧に滑りこなしていたザギトワ選手でしたが、ひとつ失敗すると点数も気持ちも取り返すのが難しくなる諸刃の剣であることを皮肉にも露呈することとなってしまいました。表情をゆがめながら転倒をくり返すザギトワ選手には、見ている側も心が痛くなりました。おそらく今まで経験したことのない苦しい時間であったに違いありません。キス&クライでエテリコーチがめずらしく優しい表情で、泣き崩れる愛弟子を抱きしめる姿も印象的でした。 そんなザギトワ選手に試合後あたたかいエールを送ったコストナー選手もまた、オリンピックの団体戦からのフル出場による疲労が蓄積していたでしょうか。他の追随を許さない演技構成点ではカバーしきれない技術面でのミスが出て、順位を落としてしまいました。 逆転の金メダルに輝いたのは、オリンピック銅メダリストのオズモンド選手。連戦の疲労を感じさせない集中力が伝わってきました。質の高いジャンプだけでなく、ベテランらしい表現力もシーズンを経るごとに磨かれており、今の女子フィギュア界でロシア勢と対等に戦えるのは彼女だけかもしれません。 そんなオズモンド選手に負けず劣らず力強いジャンプを跳べるのは、今の日本においては樋口選手ただひとり。樋口選手にとってはオリンピックを逃した悔しさを、そして昨年その枠を減らすことになったみずからの失敗を取り返す、一年越しのリベンジの舞台でもありました。世界選手権に坂本選手でも三原選手でもなく、樋口選手が選ばれた、その意味をきっとかみしめながらの舞台であったに違いありません。トップグループを前に登場した樋口選手のFSは、SPのミスを取り返して余りある、珠玉のワカバボンドでした。これを見たかった。この『スカイフォール』を見たかったのです。ジャンプの高さを感じさせない流れあるスケーティングからの魂のこもったステップには、こちらも叫び出しそうでした。全日本から、いや昨年の世界選手権の後からの日々は、樋口選手にとっては苦しい時間だったに違いありません。フィニッシュ後の涙が物語っていました。この銀メダルはワカバ・ヒグチの名を世界にしらしめ、そして「倍返し」ロードへの価値ある一歩となりました。 四大陸選手権では、ここ数年ではじめて日本選手の後塵を拝することとなり涙も見せた宮原選手。この世界選手権でも、樋口選手に続く3位となってしまいました。めずらしい転倒もあり、やはりオリンピック出場選手にとっては調整が難しい大会だったのかもしれません。それでもプログラム全体の質の高さは世界トップレベル、若手選手を寄せつけるものではありません。20歳を迎えてますます円熟味を増すであろう宮原選手の表現力。今季はしっとりとした日本女性を演じましたが、そろそろ悪女やドラマチックな映画の主人公を演じる宮原選手も見たいものです。わざわざミラノまでグラブを持参して練習していたというオリックス戦の始球式も楽しみにしています(真面目すぎるよー)。 《男子FS》 先に滑った田中選手の点数が伸び悩み、枠取りがかかるプレッシャーの中でも、友野選手はノーミスの演技で観衆を沸かせ、PBを更新する点数を叩き出しました。SP後には涙もあり、このFSをどういう心境で臨むのか気になっていましたが、この日も溌溂とした中にも緩急を織り交ぜ、自分のスケートに集中しているようでした。14番滑走でしたが、残り10人全員が滑り終わってなんと総合5位。友野選手はFSだけなら3位という、来季の3枠どころかスモールメダルまで獲得する大活躍でした。世界に名を売ったカズキ・トモノの来シーズンが楽しみです。 男子FSもオリンピック出場選手は不調が目立ちました。とくに金選手の相次ぐ転倒には胸が痛みました。予想できた結果だったのでしょうか、減点9が響き120点台という低得点にもキス&クライでは吹っ切れたような笑顔でした。金選手はプログラムに個性があふれていて、今度はどんな新しい金博洋を見せてくれるのだろうと毎年ワクワクしていましたが、来季は氷上でその笑顔を見たいと思います。 「痛みはない」と主張する宇野選手は構成を変えずに挑みました。結果は3回の転倒。それでも、後半にコンビネーションを立て続けに入れてリカバリーしました。苦闘のほどが指先からも伝わりました。 たとえ完璧にはいかなくても、心を震わせる演技というのは確かにあるのです。 演技者の思いが伝われば、そのプログラムはいつまでも記憶に残るのです。 本人にとっては、悔しいシーズンの締めくくりだったかもしれません。それでも宇野選手の逆境に負けない侃さが、オリンピックに続く銀メダルをもたらしました。 初の世界王者に輝いたのは、6本の4回転に挑んだチェン選手。オリンピックに続き、今回もすべてを着氷させ圧巻の技術点をたたき出しました。上位選手に転倒やミスが相次ぐ中、高難度プログラムでミスを最低限に抑えたチェン選手の圧勝でした。ただ、ルール改正が議論されている中、これだけ4回転を跳ぶ異次元のプログラムを見られるのは、今回が最後なのかもしれません。 チェン選手のFSはみずからのルーツへの思いもこめられた『小さな村の小さなダンサー』ですが、どうしてもジャンプに比重が置かれるせいで、表現面でその思いが伝え切れていないように思うのです。SPでは難解な曲を滑りこなしているように、洗練された表現力を持っているのですから、もしジャンプ構成を落としていたらきっとチェン選手の伝えたい物語が見えたと思うのです。おそらく時間をかけて滑りこなせば、技術と表現の両立もいずれ可能になるのでしょうが、それまでに身体が悲鳴を上げないとも限りません。羽生選手の例をとってみても、やはり才能のある選手が息長く活躍してもらうためにも、4回転の制限はかけなければいけないのかな、とも思います。 クールなチェン選手が主人公になりきって感情をあふれさせながら滑る姿も、一度見てみたいですしね。 今季はオリンピックイヤーだったこともあり、テレビを見ながらうれし涙も悔し涙も一緒になってたくさん流しました。 これでひとまず、フィギュアスケートはお休み。 また秋に、ひとまわり成長した選手たちに逢える日を楽しみにしています。 PR |
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