『トップナイフ』
ショッキングな事件が起きるわけでもなく、恋愛が絡むわけでもない、どちらかといえば淡々と進んだ物語でしたが、登場人物それぞれの背景が丁寧に回収されていき、最後まで空気感を壊さずに終了しました。 西郡の母親、さらには今出川の妻の病と、なぜか医師の身内が患者として絡んでくるのは医療モノにはつきものだとしても、患者ではない深山・黒岩の親子問題まで描かれていたのは、ややしつこかったように感じました。すべてにおいてあっさり風味だったのでそこまで気にはなりませんでしたが。 話の先が読めていただけに退屈になりそうな中、ベタベタながら小机のキャラが潤滑油でした。マスターとの描写は少し物足りなかったですが…。看護師との関係も良かったです。 エンディングのダンスは否定的意見もあったようですが、自分は観ていて楽しかったです。 『テセウスの船』 おい! 「せいやが真犯人はない」って書いちゃったじゃんよ! ほんとに真犯人にするやつがあるかよ! 「原作と違うラスト」にせざるを得なかったとしても、やはり蛇足の感は否めなかったです。「同じ加害者家族」という設定は唸らされましたが、そこに至る過程が強引すぎました。しかも最終回の途中まで、小藪や校長の意味深なシーンを挿入していただけに…。みきお君のサイコパス演技が素晴らしかったのと、安藤政信の無駄遣い感がもったいなかったというのもあります。 それでも、このドラマの質を高めたのは間違いなく鈴木亮平&竹内涼真のポンコツ親子でした。 いやー、毎週くり返されるポンコツっぷりは見ごたえありました。『小さな巨人』のボールペンのキャップひとつに振り回される長谷川博己&岡田将生も笑えましたが、大の大人ふたりが小学生ひとりを追いかけて右に左に走り回っているさまはアホな親子犬を観ているようでした。 いや、それでも夢中になれたのは、過去から現代、そしてまた過去と、コロコロ変わる世界観にもスピード感を失うことなく最後まで緊張感を保っていたからと思います。原作(読みたい)が文句なしに面白いのは確かでしょうが、良質な演出はさすが日曜劇場です。 アホ犬になりきった竹内涼真&鈴木亮平の熱演はもちろんですが、なにげに榮倉奈々&上野樹里の女優陣もしっかり脇を支えていました。とくに二度目の現代パートの上野樹里は素晴らしかったです。『ウロボロス』の時にも感じましたが、目の前の相手に運命のように惹かれていく女性の揺れ動く感情表現は本当に秀逸でした。 みきおだけでなく、ちび鈴や慎吾ら子役の演技も特筆ものです。 だからこそ小藪やらせいややらの演技力のない芸人起用はやめてほしかった。せいやが感情を爆発させる場面は頑張ったなと思いましたが、常に役柄でなく「せいや」と見てしまうので、ドラマとしてはマイナスでした。 『スカーレット』 自分の中では、朝ドラ史上最高傑作である『カーネーション』に匹敵する作品でした。 出産や離婚という人生のメインイベント、果ては息子の死までナレーションで終わらせるという一見豪快なようでいて、しかし何でもない日常のくり返しから作り上げられる人生の機微をしっかりと感じられる丁寧で繊細な脚本に、毎週、いや毎日感慨深くさせられました。 終盤の戸田恵梨香の所作ひとつひとつに老いのにじみ出る演技が素晴らしかったです。老けメイクなどなくても、そこに刻まれた年輪の数を感じました。そしてラストカット、年を重ねるごとに逆に強まっていく生命力をみなぎらせた表情は圧巻でした。ヒロインの地力、脚本、そして演出、すべての相互作用によってこの作品はより良質なものへと昇華していったように感じます。 離婚してからの喜美子と八郎との関係が、当初から予定されていたものだったのかどうかはわかりません。しかし最終週で、つないだ手を放すことは決して間違いではないという直子の言葉がありました。直子は幼い頃空襲から逃げるさなか手を放されたことで喜美子をずっと責め続けていたのですが、かつての恋人鮫島の、彼らしいなにげない言動によってようやく心が解放されたことを喜美子に告白しました。これは喜美子と八郎にも通じるものがあります。この手を放さないと誓った八郎ですが、結局ふたりは別れることになりました。そして距離を置くことで、より良い関係を築くことができました。直子と鮫島もそうです。最後に鮫島が出てこなかったのは少し残念でしたが、きっとふたりは再びめぐりあったのだと思います。 半年、しかも毎日15分という長いスパンの朝ドラでは、最初のクオリティが途中でガラガラ崩れ落ちてしまい、残念な気持ちで最終回を迎えることも少なくなかったのですが、この『スカーレット』は初回から最終回までずっと同じ世界観を保ち続けただけでなく、初回のエピソードが最後にすべて帰結する見事な構成でした(穴窯をめぐる離婚の経緯はちょっと強引ではありましたが)。 ヒロイン恒例の『あさイチ』出演時の戸田恵梨香の美しさは、その直前まで観ていたオシャレ感ゼロの中年喜美子とのあまりのギャップに、この人は真の「女優」なのかもしれないなあと感服しました。 あ、自分も信楽太郎の紅白出演を期待しています。 PR |
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