今年も奈良の夏が終わりました。
100回目の夏、代表の座を勝ち取ったのは奈良大附属高校。 昨秋から県内負けなしの智弁でしたが、準決勝で惜しくも天理に敗退。この顔合わせは昨年と同じ、そしてスコアも昨年と同じ8-7の接戦でした。甲子園でのカードであっても遜色ない実力校同士の対戦。ハイライトで追うだけでも、両校の意地とレベルの高さを感じました。 くしくも同じ時間、北大阪でも大阪桐蔭-履正社という全国レベルの二校が対戦しており、こちらも接戦の末桐蔭が勝利。同じ地区に属する強豪校として、互いが互いを意識することでその実力を全国レベルまで高め合ってきました。 そしてその影響は、確実に周囲の高校にも波及します。 智弁と天理の背中をずっと追っていたのが、奈良大附。 過去五回も決勝に進出するも、なかなか勝利に届きませんでした。 昨年の決勝でも、天理に2-1と惜敗。 同じ顔合わせとなった2018、六度目の正直なるか。 台風が近づいていたため、中止の可能性もありました。正直、そのほうが良いかもと思っていました。智弁との激戦を制した天理とコールド勝ちした奈良大附では、コンディションに差がありすぎるからです。 しかし曇り空の下、試合開始。 1回表から天理が先制。緊張からかやや上ずっていた奈良大附・木村投手の球を逃しませんでした。疲労を感じさせない戦いぶりで、早々に3-0と点差を広げます。 今まで決勝を見てきて、経験値の差はいかんともしがたいと感じていました。奈良大附が着実に力をつけながら、あと一歩届かないのは、ここぞで冷静になれるか、地に足つけてプレーできるか、それが常連校とそうでない校との差であって、それを埋められるのは「ここぞ」を逃さず一気呵成できる観察力と攻める姿勢。 何度もはね返されてきた決勝では、「ここぞ」で得点できなかった奈良大附でしたが、今年は違いました。はね返されながら、それでも少しずつ、厚い壁を押し返す力を身につけてきていたのかもしれません。調子の上がらない天理・坂根投手の隙をついて一気呵成に得点を重ねます。あと1点に泣いてきた今までの奈良大附の姿は、もうありません。 追いつき、追いつかれ、追い越し。 奈良大会決勝は、今までにないデッドヒートとなりました。 しかし中盤に奈良大附が4点差をつけ、天理はチャンスを作るもなかなか生かすことができません。 そして、最終回。 大阪桐蔭は最終回、2アウトランナーなしから勝ち越す奇跡を見せました。天理も伝統校として最後にくらいつくことができるか。 強打者・太田選手を抑えて1アウト。マウンドを守り続けてきた木村選手でしたが、4番の北野選手に大きなホームランを打たれてしまいます。動揺したか、蓄積疲労もあったか次の打者には二塁打を許し、さらに四球と死球で満塁に。 9回2アウト、最後に見せたわずかな隙。そんな「ここぞ」を逃さないのが、天理が天理たるゆえん。 代打の選手が見事なタイムリーを放ち、4点差は2点差に。そして打席には今日ホームランを打っている宮崎選手。球場に響き渡る大きな「ワッショイ」。この時、風は完全に天理へと吹いていました。 宮崎選手の打球は、鋭くセンター前へと抜けていきました。二者生還、崖っぷちから天理が同点に追いつきました。しかし一塁ランナーがセンター植垣選手の好返球に三塁で刺され、スリーアウトに。植垣選手の冷静さが光りました。 ここ数年でも類を見ない激戦は、まだ終わりません。 チェンジの場面、審判のジェスチャーがまぎらわしく、奈良大附の選手が勘違いして一度は歓喜の輪を作りました。両選手が茫然とする中説明がなされましたが、こういう時、不利になりがちなのは一度気持ちを切らせてしまった奈良大附の方。9回裏もやや浮足だっているうちに攻撃が終わってしまったように見えました。 しかし精神的に有利な天理の勢いを防ぎとめたのは、木村投手の堂々たる投球でした。10回以降もマウンドを守り、相当な球数を費やしていたはずですが、天理に流れを渡しません。内外野も好守を連発し、完全に落ち着きを取り戻しました 勝負が決したのは、11回裏。 2アウト一・二塁からライト前ヒット、二塁ランナーが三塁ベースを回りかけてあわてて戻り、返球を受けた捕手に刺されかけますが、捕手の投げたボールがランナーに当たって救われます。 この時、また風の流れは奈良大附に向いたのかもしれません。 そして、植垣選手の打球がセンターの頭上を越えていき、終止符が打たれました。 最後の最後まで強気な表情を崩さなかった天理四番手の前田投手でしたが、ボールが抜けた瞬間マウンドにうずくまり立ち上がれませんでした。 勝者も敗者も、涙の止まらないゲームセット。 終始奈良大附の強さを感じた一戦でした。打撃も守備もめきめきと力を蓄えてきていたことを実感しました。何よりもその精神力です。一度は相手に行った流れを取り戻したのは、奈良大附の選手たちの落ち着いたプレーあってこそです。延長でスイッチを入れ直した木村投手はじめ、同点の場面でホームではなく冷静に三塁へ投げた植垣選手、ひとりひとりが打席での役割をきちんとこなすあたりはもう「二強」とは呼ばせない、確実に「三強」の一角であることを示す強豪校の姿でした。 甲子園でもきっと、奈良代表として堂々とプレーしてくれるに違いありません。 昨年の天理のような、旋風を期待します。 天理はもしかしたら、不完全燃焼に終わってしまったのかもしれません。前日の疲労は決して口にはしないでしょうが、天理らしくないミスが随所に見られました。先制して試合を優位に進めながら追いつかれた焦りもあったでしょうか。それでも九回に4点を追いついた粘りはさすがでした。あとわずか及ばなかったものの、智弁戦、そして決勝の戦いぶりは、昨年甲子園ベスト4が決してたまたまなどではない、チームの底力を感じました。また奈良県内に立ちはだかる厚い壁となる、中村監督の一年が始まります。 シード校のうち、唯一準決勝に進めなかったのが高田商。初戦で敗れたその試合をたまたま見ていたのですが、相手の法隆寺国際の二年生投手の完成度の高さに舌を巻きました。惜しくも準々決勝で奈良大附の前に屈しましたが、それでも中盤までリードしており、もしやと思わせる快進撃でした。前身の斑鳩高時代に選抜出場経験はあるものの、近年はベスト4に名を連ねることもなくなっていましたが、シード校撃破は決して番狂わせではない、秘めた実力を感じました。秋季大会での活躍に期待です。 いよいよ、100回目の夏が始まります。 今年はどんなドラマが待っているでしょう。 どうか、無事に始まり、無事に終わりますように。 PR |
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