私は母でもありませんし、息子でもありませんから、この主人公親子に感情移入できたわけではありません。しかし、なりふり構わず子を守ろうとする母親の気持ちはわかるような気がします。また、それと同時に、母の愛というにはあまりにも常軌を逸した彼女の行動に嫌悪感を抱かざるをえませんでした。
それはトジュンへの愛ゆえなのか。
過去、彼を殺しかけた贖罪なのか。
そしてトジュンは、その母のあらゆる投げかけに対して、応えることはありません。
一方通行の関係、それはトジュンの特性のせいだけではなく、母と子の性なのだろうと思います。
子を守るために人を殺めた母は、「真犯人」が天涯孤独であることを知り、彼の前で嗚咽します。
それは、我が子と同じようにみずからの言葉で潔白を証明できず、代わりに証明してくれる母親もいない彼に湧いた憐憫の情からなのか。
あるいは、我が子への疑いはもう二度とかからないということへの安堵だったのか。
事件の真相は藪の中ですが、母の犯した罪だけははっきりとしています。
彼女が刑法で裁かれることはありません。しかし、彼女にはもっとも重い罪が科せられたのです。すなわち、愛する息子が血で汚したこの手に気づいているかもしれないこと。そしてそれを忘れようと打った鍼は、かの現場で燃え残ったものというパラドックスは、永遠に消え去ることはないでしょう。
あらゆる罪に、罰は必ず訪れるのです。たとえ、どれだけその裏に深い愛があろうとも。いやむしろ、その母の深い愛こそが、罪であったのかもしれません。
ポン・ジュノの操る伏線は、伏線というより必然と感じる力がありました。また、キム・ヘジャの狂気を宿した両瞳とウォンビンの澄んだ両瞳は、まるで本物の親子のごとくぴったり重なって見えました。ポン・ジュノ作品はこれで3作目ですが、いつもストンと心に落ちてくるものがあります。きっと自分の感性にマッチしているのだろうと思います。
PR