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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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今でこそフィギュア競技は中継を録画してでも観るようになったものの、アルベールビル~リレハンメルの頃は伊藤みどりくらいしか記憶にありません。佐藤有香もコーチになってからのほうが印象にあります。
ただ唯一鮮明なのは、「トーニャ・ハーディング」というアメリカの選手。そしてその名に冠せられた「お騒がせ」の異名。
フィギュアが身近になってから、彼女が選手としてすばらしい実力を持っていたことを知りました。なのになぜ、あんな事件を「起こして」しまったのか。疑問に思いつつも、もう過去のことなのでとくにそれ以上の興味は持ちませんでした。
この作品も知らなくて、ヤスオーが借りたから鑑賞したようなもの。
物語は、関係者へのインタビュー(現在)と、過去が行き来する構成です。過去の場面でも突如出演者が画面に向かって語りかけてくるというクスリと笑える演出があるのですが、そのおかげでヘビーにならずにすむくらい、トーニャの過去は壮絶です。
とりたてて事件に至る「原因」を追究することはありません。トーニャを取り巻くすべての事象が入り混じって、「事件」は起こります。
娘に虐待の限りをつくす母親。
逃げた先はどうしようもないDV男。
そんな輩の友達は、類友だけあってこれまたどうしようもないパラサイト男。
そんな人間に囲まれて、トーニャが真っ当なアスリートになれるわけもなく。
その背景にあるのはホワイトトラッシュという社会問題。フィギュアがカネを必要とするスポーツなのは有名な話です。日本でさえスポンサーがつかない選手の中にはアルバイトしながら競技を続ける人もいます。クラウドファンディングで遠征費を募った選手もいます。
そしてとりわけ貧しいハーディング家ですから、母親の野心は並々ならぬものがあり、貧すれば鈍すの言葉どおりトーニャの奔放ぶりも際立っていました。「芸術点」が加味されていた時代、肌の色で点が決まったとか決まらないとか言われていた時代のことですから、どれだけ素晴らしい技術を披露しても得点にはつながらず、大会ごとにトーニャと審判の思いは乖離していきます。
もし、トーニャがフィギュアの才を見出されなかったら。
何か別のスポーツを選んでいたら。
この悲劇は生まれなかったかもしれず、トーニャも因果律を断ち切ってその世界で花開いたかもしれません。
しかし神さまはトーニャにフィギュア界で戦うことを課しました。審判と、ライバルと、母親と、貧困と。最後まで戦い、そして敗れ、しかしトーニャは生きるために、今もアメリカのどこかで生きています。
悲しいトーニャの半生ですが、作品自体はコメディタッチで感傷すら抱かせません。
ただ唯一、リレハンメルオリンピックの控室での場面は胸を打つものがありました。
化粧をほどこしたトーニャは鏡に向かって笑おうとしますが、あふれる涙を止められずうまくいきません。そこからの靴ひも騒動の流れはそれまでの主人公視点から、第三者の視点へ変調します。鏡の前でトーニャが何を思い泣き笑いしたのか、なぜ靴ひもにトラブルが出たのか、なぜ滑り直しではうまくいったのか、すべての説明が省かれて表彰台に立てなかったことが描かれます。そして掲揚台にアメリカ国旗を掲げたのはトーニャではなくケリガン。笑顔のないケリガンに対してテレビ越しに毒づくのはいつものトーニャでした。
フィギュア界から追放された後も、トーニャは彼女らしく奔放に生きています。ひっきりなしにタバコをくわえ、戦いの世界に身を置いています。
何ものも恨むことはありません。たとえそのすべてが悪手であっても、みずからの手で選んだ人生。振り返ることなく、前だけ向いてこれからも彼女だけの道を生きていくのでしょう。
トーニャを演じたマーゴット・ロビーはみずから製作にも参加しています。意欲作だけあって、立ちはだかる壁を破壊してくような強さと、崩壊した家庭に育ち愛に飢えた弱さという二面性を持った女性を感情豊かに演じていました。
ただ、特筆すべきはそんな主演女優を凌駕した母親役のアリソン・ジャネイ。アカデミー助演女優賞も納得の毒母ぶりでした。容赦ない暴力、暴言と、最後の最後まで子どもに一片の愛を感じさせることすら許さない強烈なキャラクターです。ただ、バイト中に咎められてもテレビ画面で満開の笑顔を見せる娘を目に焼きつけようとした場面がありました。一貫して無表情だったものの、母としての無意識の愛情だったのかもしれないという救いを観る者にほんの少しの表情筋の動きで見せてくれました。スタッフロールで流れる母親の実物に瓜ふたつ(肩に乗せた鳥含め)だったことも、そして実物は上品さを醸し出すベテラン女優であることにもびっくりでした。











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