「クリント・イーストウッド監督で、短い」という理由で、「テロの話」くらいの前知識で鑑賞したこの作品。
結果的に、まっさらの状態で観て良かったと思います。
この作品は、三人の若者がパリ行きの列車内でテロリストを取り押さえたという実際の事件を扱っています。
そして主役を演じた三人のみならず、列車の乗客に至るまで本人たちをキャスティングしたというのですから驚きです。
それらをすべて鑑賞後に知りました。
この物語を文章で表現すると「問題児の三人が出会い、別れ、それぞれの道を歩み始めても友情を続け、ひさびさに会ってヨーロッパを旅し、自撮りしたりかわいい女性に声をかけたり、お酒飲んではしゃいだり宿酔いに悩まされたりしながらもパリ行きの列車に乗り、たまたまそこでテロリストが現れ、軍隊で培ってきた技術を駆使して立ち向かって取り押さえ、それぞれが機敏に対応して怪我人を救い、フランス政府から勲章をもらう話」です。
テロリストとの緊迫した戦いが主題かと思いきやそれはラスト10分。それまでの80分は三人の半生と楽しい旅日記が続きます。
ただそれだけなら何の説明もないドキュメンタリーなのですが、そこはイーストウッド。淡々と日々を綴るだけでなく、ラストで得るカタルシスのためのポイントが点在しているのです。
非日常に接した時、日常で積み重ねた行動力や知識を発揮することがいかに困難であるかは、事件や天災の場において思い知らされます。
もちろん彼らが軍隊という場で命を懸けてそのスキルを磨いてきたからこそ取れた行動だったと思います。入隊は、落ちこぼれが一念発起してトレーニングを重ねた末叶えた夢でした。犯人を取り押さえた柔術は、希望した部署に配属されなくてもくさらずに鍛錬して会得したスキルでした。
だからこそ、彼らがこのパリ行きの列車に乗ったのは、偶然ではなく運命だったのかもしれない。そして、少年だった彼らを導き合わせたのもまた、最初から定められた神の思し召しだったのかもしれないとさえ、思います。
すべてが最後の感慨に導かれる、逆算しつくされた構成がさすがと言わざるを得ない、イーストウッド作品でした。
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