韓流ブームの真っただ中に公開されたこの作品。当時はかなり話題になっていましたが、13年が経ってブームも下火となり、日韓関係においてあまり好ましくない報道もされる中、政治的なことにはかかわりない庶民は単なるパニック映画のひとつとして鑑賞しました。 パニックものにはつきものでもある強引な展開もありましたが、『殺人の追憶』や『母なる証明』で高い評価を受けているポン・ジュノ監督とあって、全体的に見ごたえある作品になっていました。 ただ、大きな印象としては、「ハリウッドや日本映画とは、ずいぶん趣が異なるな」ということ。 米軍が漢江に廃棄した毒薬によって生まれたバケモノ。多くの人びとがレジャーに興じる川べりに突如現れたそれによって、穏やかな午後は一変します。 主人公は店先で午睡を貪るわ客に提供するイカの足を失敬するわ、冒頭から徹底してダメ人間であることが強調されていたカンドゥ。怪物が現れた時、カンドゥは米軍の若者とともに標識をかついで戦います。普段はダメ人間だけれど実は勇敢な父親であった…とヒーローに変貌するのかと思いきや、そこはやっぱりひとくせあります。娘と勘違いして別の子の手を引いてしまい、結果娘は怪物に攫われてしまうのです。絶望にくれ、弟妹たちに責められながらも、やっぱり眠りこけるカンドゥ。ますます軽蔑の念を強くする弟妹に対して、カンドゥの父親だけは幼少期にきちんと育てなかった責任から彼をかばいますが、子どもたちの目の前で怪物によって無残に命を奪われます。一緒に戦う主人公の仲間たちは死なないというお約束をいとも簡単に破る展開。そしてさらにラストでは、下水道の地下で必死に生き延びてきた娘すら、救われることなく死んでしまうのです。 娘だけはいつまでたっても食われないので、百パーセント助かる結末だと思っていました。『トンマッコルへようこそ』でも予想を裏切られるラストが待っていましたが、これはもう感覚の違いなのかもしれません。 そして、娘は失いましたが、娘の最期を知る元ホームレスの少年とともに、カンドゥは誰も寄り付かなくなったであろう漢江の川べりに住み続けます。いつまた現れるやもしれぬ怪物に、常に目を光らせているのです。そして力を合わせたはずの弟妹の姿はありません。やっぱり心は離れたままなのか、それとも全身に浴びた薬剤で命を落としたのか…。 ただ救われた思いになるのは、暖かい部屋で温かいごはんを食べカンドゥに甘える少年。もう飢えることも盗みをすることもないであろう少年の姿に、虚しさだけが残るのではないラストになっています。 事の発端は、米軍が漢江に廃棄した毒薬。劇中、米軍は徹底して悪役に描かれます。実際に米軍がホルムアルデヒドを漢江に流した事件があったそうですし、最後に散布された化学兵器の名前はベトナム戦争で使用された枯葉剤(エージェント・オレンジ)にひっかけられているのだとか。監督の信念すら感じる作りです。 ただそういった裏面に気づかなくても、じゅうぶん面白い作品になっています。 PR |
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