◇『ロブスター』 ★★★★★
僕はこういう芸術性の高そうな映画通向けの映画は眠くなるので観ないんですが、この映画は極限までシュールな世界観が面白かったです。もはやコメディです。しかしまったく笑えません。とにかく観ていて不愉快ですからね。レビューサイトの点数が低いのも納得です。たまたま僕にハマっただけです。この監督の作品は「籠の中の乙女」という映画も観ていますが、そっちはそんなに面白くなかったですし。
2本ともそうなのですが、この監督は閉ざされた世界で歪んだ価値観で教育され心を支配されるみたいなのが好きなんでしょうね。今回の映画も、独身は悪とされ、独身者はホテルに45日間閉じ込められ、その間にカップルになれなければ動物に変えられるんですが、なぜかみんなルールに逆らうことなく素直にカップル成立を目指して頑張っています。僕はこんな狂った世界ならさっさと猫になって自由に生きますが。
ホテルで毎日開かれるカップルはいいもんだみたいなミニ寸劇や、勃起力チェックの尻コキなど、1つ1つの狂った描写が秀逸です。また、独身は悪という社会のルールに逆らうレジスタンス集団が森にいて、こちらは逆に恋愛禁止で、愛なんてしょせん我が身可愛の前では崩れ去るものだよということをわからしめる活動にいそしんでおり、集団の中で恋愛した者にも意地の悪い罰を与えます。主人公カップルに与える罰は、意地が悪すぎて、このドライな僕が心の底からしんどくなりました。しかしこの集団のリーダーが親の前では常識人ぶってたり、おのおのが一人でヘッドホンで好きな音楽を聴いて踊っているダンスシーンなど、こっちはこっちでとても上手に醜悪に描いています。監督にお前の恋愛観はどういうものなんだと聞いてみたいです。
さらに、この映画のカップル成立というのは、お互いに恋愛感情があるというより、相手との共通点があるということが大事で、そもそも共通点がないとカップルとして成立せず、みんな近視、鼻血、サイコパスなど何でもいいのでとにかく相手との共通点を見つけ出そうと頑張っています。こんなばかばかしい歪んだ価値基準が、この物語のラストまで引っ張られる非常に重要なものとなっていることも、シュールすぎて胸が苦しくなりますね。
ちなみにラストは僕の中では答えは出ていますが、オープニングのロバのやつがまったく意味がわかりませんでした。このオープニングをラストと結びつける考え方もあると思いますが、この監督に限ってそんな情感のあるラストにするとは思えません。僕みたいな凡夫なら、たぶんラストはロブスターを映して、さあこれで何が起こったかわかるだろう、だから映画のタイトルはロブスターだ!とかほくほく顔でインタビューで語っていると思いますが、そうではなかったですね。このラストは賛否両論あると思いますが、監督が凡夫ではないことは確かです。
今話題の松本人志も、大衆受けはしないけど賞レースでは絶賛され、コメディタッチなのに笑えそうで笑えないシュールで奇妙な世界観のこういう映画を、引退する前に作ってほしかったですね。
◇『さがす』 ★★★☆☆
ポンジュノの弟子という肩書きを手に入れた監督が、快楽殺人鬼、難病、安楽死などの重いテーマを、演技力のある俳優ばかりを使って描いています。なので良い映画になる環境はとても整っているはずなのですが、どこか物足りなかったですね。僕はこの監督は「岬の兄妹」も観ましたが、テーマは同じように重かったし、こちらも悪くはなかったんのですが、今となってはストーリーをほとんど忘れてしまっているぐらい心に残っていないです。
この監督が自分のブランディングに利用しているポンジュノの「母なる証明」や「殺人の追憶」なんかは、かなり昔に観たのに覚えていますから、やはりポンジュノ風味とはいえ本家と比べると演出も脚本もキャラの造形もどこか甘いんでしょうね。ラストの長回しの卓球シーンも、ここは見せ場にしたかったのか色々な演出を入れてきていますが、どこか軽く、感情が揺さぶられません。1つ前に観た「ロブスター」のラストの喫茶店のシーンとは明らかに違いますから。
◇『ダーク・アンド・ウィケッド』 ★☆☆☆☆
この映画には悪魔みたいな存在がいるようなのですが、というかちょっと映っていたので間違いなくいるんですが、こいつの攻撃方法がとにかくめんどくさくて、幻覚を見せたり物を動かしたりして恐怖心を植え付けることによりその人を弱らせ、心が弱ったあとに乗りうつって自殺させる、みたいな手順で人間をやっつけるようです。
これを何人分も見せられるだけの映画なので、パターンがわかってからは飽きましたね。幻覚シーンも、またかよめんどくさいなあと思うだけで怖くなくなるので、ホラー映画としてはダメな気がします。
また、ストーリーの端々で、主人公たちは親にかわいそうなことをしただの、1人にして申し訳なかっただの、罪悪感や孤立感が悪魔に隙を見せるみたいなことを匂わせますが、心身共に健康そうな看護師も勇気を持って家族に寄り添うヒロインもダメだったので、どうやらこの映画の悪魔はとても強く、戦えないし逃げられないので、いやこの戦えないし逃げられないという着眼点は新しいのかもしれませんが、結末が見えてしまうので、ストーリーも全然面白くなかったです。
◇『ヴィーガンズ・ハム』 ★★★★☆
この映画は間違いなくコメディ映画でしょうけど、ヴィーガンの人をバンバン殺しそれを売るという、とんでもない残虐なことをしている肉屋夫婦を、嫌いになれないところかむしろ微笑ましく見えてしまうところが、コメディ映画としてうまくできていると思いますね。
もちろん松本人志が大絶賛した「ライフイズビューティフル」には及びませんが、松本人志もライフイズビューティフルのマネをして感動要素を入れたりせず、純粋なコメディ映画を作ったら、このぐらいの映画は作れたかもしれません。こういう映画でも独自の世界観はありますし、それなりに評価はされたと思うのですが。
確かに我々が普段食べている牛や豚は草食動物ですし、野菜ばかり食っている奴より肉ばかり食っている奴の方がなぜか体が臭くて肉もまずそうなイメージを抱いてしまいますから、ヴィーガンの肉はおいしいというこの映画の設定は妙に納得してしまいます。
ヴィーガンをちょっとうっとうしく描いているのも良かったんでしょうね。ヴィーガンが観たら怒ると思いますけど。日本には自称動物好きはたくさんいますが、肉、魚、卵はもちろん食べない、動物園や水族館は行かない、ウール素材の服や皮革製品は身に着けない、動物実験しているメーカーの化粧品を買わない、ぐらいの初級ヴィーガンすら僕は1人も出会ったことがありませんから、この映画は日本人には合うと思います。
◇『オットーという男』 ★★★☆☆
僕はこういうお涙頂戴のヒューマンドラマはあまり得意ジャンルではないのですが、10本に1本ぐらいは人並みに感動しますし、この映画は監督がマーク・フォースターで、主演がトム・ハンクスで、映画.comやフィルマークスなどの批評サイトで4.0ぐらいの評価だったので、けっこう期待していたのですが、残念ながらイマイチでした。
いい人ばかり出てくるのはこういう映画のあるあるなのでまあいいんですが、死んだ妻だけに愛情を注いで生きてきて、妻が死んだあとはすべてに対して心を閉ざしている主人公の爺さんが、色々な人々(猫も含む)になぜ心を開いていったのかがよくわかりませんでした。この映画は、死んだ妻だけに愛情を注いで生きてきて、妻が死んだあとはすべてに対して心を閉ざしている主人公の爺さんが、色々な人々(猫も含む)に心を開いていく過程を描く映画なので、感動できるはずがありません。僕がこういうジャンルの映画の読解が苦手なのもあると思いますが、若者時代を描き過ぎて爺さんの尺が短すぎたような気がしますね。
猫はかわいかったですね。あと、老人、黒人、病人、移民、妊婦、身体障害者、トランスジェンダーとよくここまで社会的弱者を全部詰め込めたなと感心しました。
◇『ワンダー 君は太陽』 ★★★☆☆
障害児が1年間普通学級に通えたということだけの映画ですね。もちろんかなりの難行なのはわかっていますが、それはオギーが頑張ったとかではなく、両親、姉、教師達、友人達などの周りの人々がたまたま良い人達だったからということにすぎないですから、感動はないです。
ただ、周囲が良い人達ばかりなので、安心して観ることができました。もちろん現実はこんなに甘くないので、こんなもん偽善映画だという人もいるでしょうが、僕は現実が甘くないからこそこういう映画が必要だと思いますね。
オギー以外の様々な登場人物の視点を描くのはいい試みだと思います。ただ、このせいで逆にオギーの描写が薄くなり、オギーの魅力がいまいち伝わらなかったですね。普通に自分のことでいっぱいいっぱいの他者視点のない障害者に見えます。ちょっと成長して他者のことも考えるようになったことを匂わす描写もありましたが、人を魅了してやまないというほどではないです。
◇『フレンチアルプスで起きたこと』 ★☆☆☆☆
僕はヨーロッパ映画はハマるかハマらないかが極端なのですが、この映画はダメでした。かなり悪趣味な監督で、人間の悪い部分を丁寧に描いていますし、何かが起こりそうな緊張感や不穏な空気は出せていますが、あまりにも表現が淡々とし過ぎているのと、ワンシーンがだらだら長くてしつこいので、眠くて退屈でした。
あと、こういうスマートでシュールで小洒落たヨーロッパ映画を観て、「人間の本性を良く描いてるなあ、ブラックすぎて笑えないよ。」とか黄色人種が苦笑いをしながら語る姿を想像してしまったのもダメでしたね。映画通ぶりたいとか知性的に見られたいならこんなにぴったりの映画はありませんから。
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