ピョンチャンオリンピックの出場枠を賭けた今年の世界選手権。
男子は、羽生結弦選手が圧巻の演技で、優勝を決めました。 まさかの5位発進となった羽生選手のフリープログラムは、4Loから始まり、後半に4S+3Tを組み込むハードな構成。筋肉を増量したのか、少し下半身がたくましくなったように映りました。これまでなかなかパーフェクトに決まらなかったフリーですが、今回は次々と高難度のジャンプを決めていきます。久石譲の音楽にのせて、まるでスケーティングの続きのような錯覚すら憶えるほどの軽やかさでした。 羽生選手ならではの、音楽とスケートの一体感から作り上げる芸術的な世界。作品からは「絶対王者」という言葉の持つ猛々しさとはまるで正反対の、美しく繊細で、かつ神々しいほどのオーラが放たれていました。 昇り詰めるその先は、眩しくて見えません。おそらく羽生選手しか知らない領域なのでしょう。 そして、彼に続く若手選手たちは、その足あとを確実にたどりつつあります。 悔し涙から一年、宇野昌磨選手は三段飛ばしで成長の軌跡を描きました。会得したループとフリップを加えた3種の4回転を武器に、独特の力強さと色気を漂わせ、ジャンプの着地で乱れるも立て直す精神力も身に着けました。わずかなミスさえなければ、表彰台の真ん中に立っていてもおかしくありませんでした。演技構成点はパトリック・チャン、フェルナンデス選手らに匹敵するものであり、来年のオリンピックの勢力図の中心にいることは間違いありません。 シンプルな衣装、スケーティングスキルを活かすプログラムで勝負し続けるパトリック・チャン選手には潔さすら感じます。ベテランと呼ばれる歳になってもなお輝く存在感は唯一無二。オリンピックの舞台でも観客を魅了する演技を見られることでしょう。 ショート1位から順位を落としたハビエル・フェルナンデス選手。4回転の構成が弱いだけにパーフェクトが求められましたが、フリーではミスが目立ちました。足の状態が良くないという話も聞きましたが、来季の巻き返しに期待します。 ネイサン・チェン、金博洋選手ら、4回転時代を牽引する若手選手の活躍は、男子フィギュアの未来を象徴しているかのようでした。チェン選手のフリー4回転6本の構成には、衝撃すら憶えました。金選手は彼らしい陽気なプログラムで、4回転の難度を感じさせない世界観を作り上げていました。両選手が来季どのような構成で、どんな成長を見せてくるのかが楽しみです。 4回転時代にあって、4回転を飛ばずとも観客を魅了し、高い評価を勝ち得て上位陣に割って入るアメリカのジェイソン・ブラウン選手。滑り出しから手を止めて息を詰め、その世界観にぐいぐいと惹きこまれます。女子でもこんなに美しいスパイラルやバレエジャンプはできないでしょう。何度でも、いつまでも見ていたい、そんな魅力のある選手です。 今大会で引退を表明しているミーシャ・ジー選手のガッツポーズには胸が熱くなりましたが、そんな中、皇帝プルシェンコ選手の引退も報道されました。かつて4回転の申し子と言われたプルシェンコ選手。飛ぶ飛ばないで論争が巻き起こったバンクーバー五輪が懐かしくさえあります。 移りゆく時の流れを感じる世界選手権でした。 一方、女子は枠を2つに減らしました。 エース宮原知子選手が欠場し、初の世界選手権となった三原舞依・樋口新葉両選手、怪我を抱えながらの過密日程となってしまった本郷理華選手での苦戦はもともと予想された結果ではありました。 三原選手はSP15位からPBを出しての5位入賞。本人もショートの後宿舎に帰ってくり返し見たという、ソチ五輪の浅田真央選手のFPをほうふつとさせる巻き返しでした。連続ジャンプのなめらかさは世界トップだと思います。樋口選手はミスがありつつも攻めたフリーでしたが、ノーミスのショートで少し得点が辛目だった感があります。フィギュアは格付けで加点される部分がありますから、実績を重ねないとなかなか得点が伸びません。そういう意味ではもっとも実績のある本郷選手に期待するところもありましたが、上位に食い込むには難しい状態でした。ただプログラム中でリカバリーするファイトを見せたことは次に繋がると思います。 ロシア勢が席巻するかもしれないと思っていた表彰台は、カナダの選手が2・3位を占めました。北米らしい可憐さを持ったケイトリン・オズモンド選手に、これまた北米の選手らしい力強い滑りを見せたガブリエル・デールマン選手。カナダ勢はここしばらく低迷していましたが、ようやく盛り返してきました。アメリカと並んで、ロシア勢を脅かす存在となりそうです。 ただ台の真ん中を譲らず連覇を果たしたのが、ロシアのエフゲーニャ・メドベージェワ選手。パーフェクトな演技で世界歴代最高得点を更新。安定感では他の追随を許しません。個人的にはタノジャンプの多用は好まないのですが、あの細い身体のどこにあれだけのプログラムをこなす力が秘められているのか不思議です。しばらくは「絶対女王」の座は揺るがないでしょう。 アンナ・ポゴリラヤ選手はいつぞやのNHK杯を見ているような崩れ方で、演技後リンクにうずくまって嗚咽している姿には胸が痛くなりました。ショートでは気品と風格を感じさせる演技で、台乗りの可能性も感じたのですが…。シニア一年目ながら8位に入ったソツコワ選手をはじめ、ジュニアにも有力選手が控えるロシア勢ですから、オリンピックはどんな布陣でやってくるのか想像もつきません。 今大会、もっとも楽しみだったのがカロリーナ・コストナー選手の復帰でした。ショートでは第2グループながら、ブランクを感じさせない円熟味のある演技と突出したスケーティングスキルで66点台をたたき出しました。中継が途中からだったので、見られないのかなあと残念に思っていたら、途中で録画を流してくれました。グッジョブ、テレビ局(カメラワークは全体を通じて酷く、酔いそうでしたが)。30歳という年齢になってもなお、世界のトップクラスで戦えることを証明してくれました。4大会連続のオリンピック出場も夢ではありません。これからもコストナーの演技を見ていられる幸せをかみしめています。 羽生選手の金メダルに歓喜し、浅田選手の演技に涙したソチ五輪はついこの間のことのようですが、次のオリンピックは一年後のところまでやってきました。 しかしプログラムの完成度で競う女子フィギュア界の構図は三年前と変わりません。3Aとは言わずとも、セカンドに3Loを跳ぶような争いにはならないものか…と、真の4回転時代を迎えた男子と比較しては思うところです。 ともかくも、代表争いが熾烈をきわめるであろうことは間違いありません。男子は羽生・宇野選手をのぞいた3枠目、女子の2枠は来季新戦力が参戦するため宮原選手をしても安泰ではありません。年末の全日本選手権、いかなる花がリンクに咲くか。もう次の冬が楽しみになる、春の始まりです。 PR 去年に引き続き…。 そんなつもりじゃなかったのに…。 こんなことになってしまうとは…。 (しかもこれだけではない) 今までバレンタインが嫌いだったのは、「たいして喜ばれていない、むしろ迷惑そう」「お返しがほとんどない、下手するとゼロ」あたりが理由だったことに気づきました。 ありがたい、しかしデブになる…。
夜中、なにやら重くて目を覚ますと、
お互い背を向けて眠る私とツレの間に、ミーコが寝そべっていました。 冬の一時期、寝る前にベッドで本を読んでいるとなぜかいつもやってきて、 枕元に座り込んで「入れて」とアピール。 仕方なくふとんを持ち上げると、のそのそもぐって腕を枕におさまります。 何しろ8キロの巨体ですから、痺れてくるのも時間の問題。 腕を抜いて反対を向くと、しばらくは背中によりかかっているのですが、そのうちあきらめて出ていきました。なぜかそれが冬の彼のルーティンでした。 その時と同じ、重みでした。 背中にずっしり感じるのはミーコの重みでした。 ああ、帰ってきたんだな。 目を覚ますと、実家でした。父と母と食卓を囲んでいると、ミーコがやってきて鳴きました。 「どしたの、またトイレしてきたの」 神経質なミーコは、トイレが終わると「掃除して」と訴えに来るのです。 そのおしりには、忘れ物がありました。 「お母さん、またミーコがぶらさげて帰ってきてる!」 「あーあーもう、仕方ないねえ」と、ティッシュでお尻を拭かれるミーコ。 粗相をするようになってから旅立ちまで、一、二年のことでした。 せっかく戻ってきてくれたのに。 またくり返すのかな。 老いて弱って細っていくミーコを、また見なきゃいけないのかな。 またあんな辛い思いをしなくちゃいけないのかな。 ・・・ 目覚めると夜明け前でした。 2月23日午前5時。 寄りかかってくる感触は、まだはっきりと背中に残っていました。 そういえば、昨日は猫の日だった。 だから帰ってきてくれたのかな。 写真をもらってからしばらく思い出にふけっていたから、気まぐれに寄ってみたのかな。 どうしていつまでもこんなに悲しいのだろう。 どうしたら涙を流すことなく思い出せるのだろう。 どうしたらまた会えるのだろう。 新たに実家からもらった猫の写真。 ぶっさいくやな~…。 日付は2000年ですから、ふたりが13~4歳の頃でしょうか。 例によって、写ルンですのフィルムが余っていたのでしょう。 しかも、思いっきりフラッシュたいて撮ってしまっています。 あの頃は今のようにいろいろな情報を得るすべがなくて、猫たちに対してかなり雑な扱いをしていました。 よく長生きしてくれたものだと、今になって思います。 こたつに足を入れるたび、ゴロンと真ん中を占領していたふたりを思い出します。 なぜこっちが気を遣わにゃならんのか…とボヤきつつ、足を縮めていました。 また、疲れて帰宅してベッドに倒れこむと、下から「うぎゃっ」とうめき声。 どうやって寝具を乱さずにおさまるのか、かけ布団と毛布の間でふたり猫だんごになっているのでした。 もう10年以上前のはなし。 冬になると、いくつもの記憶が昨日のことのようにあざやかによみがえってきます。
豪栄道の綱とりが期待された昨年の九州場所でしたが、終盤を待たず黒星を重ね早々に脱落。
優勝したのはしばらく存在感が希薄だった鶴竜でした。14勝1敗、やっと横綱らしい相撲を見せてくれました。 白鵬は上位を相手に土をつけられなんと4敗。日馬富士も満身創痍で12勝。琴奨菊は負け越し、照ノ富士もけがを抱えて勝ち越しがやっと。 振るわぬ上位陣の中、星取だけなら鶴竜に続いたのは稀勢の里。3横綱2大関を破る活躍でした。が、成績は12勝3敗。黒星はすべて平幕相手、ふたつは中日を前にくらったものです。 あいかわらずの稀勢の里。 琴奨菊が日本出身力士として10年ぶりに優勝を飾ったのは、ちょうど一年前のことでした。その時、稀勢の里について「もう語るべくもない」「毎場所のように期待しては早々に裏切られてきた」と書きました。 2016年も「やっぱりな」の連続でした。 2017年。連覇のかかった鶴竜は早々に負けがこんで休場。日馬富士もそれより前に休場。豪栄道も序盤から星を落とし、カド番の琴奨菊は負け越し、強行出場を続ける照ノ富士も踏ん張りきかず勝てません。 優勝争いは、早々に白鵬と稀勢の里のふたりに絞られました。 もう誰もが知っています。アナウンサーも解説者も、口をそろえて言いました。 「稀勢の里に優勝の期待がかかりますが、期待すると稀勢の里は~…」 期待すればするぶんだけ裏切られてきて、もう誰も、「やっぱりな」とは思いたくないのです。 稀勢の里が星ひとつリードしての中日、優勝争いに向けて盛り上がりつつあるところ、相手は平幕の隠岐の海。普段であれば苦にしない相手ですが、プレッシャーのかかる場面ではなぜか大型力士にめっぽう弱い稀勢の里。この日も腰高の怪しい立ち合いでした。しかしここでなんとかかんとか勝てたことで、少し風が吹いてきたかもしれません。その翌日、連敗中で陥落寸前の琴奨菊にガブられた際は「やっぱり…」と言いかけましたが、その直後白鵬が稀勢の里の弟弟子である高安に土をつけられたことで、その語尾は吹き消されました。 さらに上位陣は軒並み休場&不調の嵐。疲れの出る終盤13日目に、豪栄道が休場して不戦勝という追い風はさらに強くなりました。 勝負の14日目。 「白鵬が貴ノ岩に負けるはずないから、稀勢の里は逸ノ城に勝つことは絶対条件として、千秋楽の結びで白鵬に勝って文句なしの優勝といきたいところだな。本割で負けて決定戦で勝っても締まらないからなあ」 モンスターぶりを取り戻してきた逸ノ城とはいえ普段なら苦にしませんが、トラウマの平幕大型力士。ドキドキしながら時間を待ちました。 逸ノ城が立ち合い、手をつきかけました。微動だにしない稀勢の里。逸ノ城は立ち合いでぶつかれず、この時点で勝負ありました。 勝負は千秋楽か――。と、気の抜けた状態で結びの一番を眺めていたのですが。 白鵬が寄り切られた瞬間、稀勢の里の優勝決定の喜びよりも、驚きとともに悲しみが湧いてきました。 あんなに勝ちまくって、憎らしいほど強くて、史上最強横綱として土俵に君臨していた白鵬が、初顔合わせの相手に敗れる、しかも一場所に二番も――。 こんな白鵬の姿を見ることになるなんて。 いつまでも強くあり続けることなんてできるわけがない。それでも、白鵬にはまだまだ横綱でいてほしい。下からの突き上げを受け止めてはね返す壁であってほしい。みずからの衰えを受け止めて、それをさらに凄みある強さに変える。大横綱・白鵬ならばきっとできるはず。 さて稀勢の里。 優勝の瞬間は支度部屋、というのもまた、稀勢の里らしいというかなんというか。 報道陣に背を向けて、ふーっとひと息。ようやく振り返ったと思えばボソボソと言葉少なのインタビュー。いつもの稀勢の里かと思いきや目元は赤く、最後にはつーっとひと筋、頬を伝うものが光りました。積年の思いが詰まった涙でした。 入門から15年。どれだけ苦しかったろう。大きな期待を背負って入幕し、年を追うごとに期待値は高まるも、歓声がため息に変わる瞬間を何度も背中で受け止め、あとわずかのところで優勝を逃すこと数度。賜杯のいちばん近くまでたどりついておきながら、次々日本人大関に先を越された2015年。悔しさをその体に押し込めながら相撲道に邁進するしかなかった日々。 ひと筋の涙に込められた15年の思いは、美しい輝きに昇華しました。 全相撲ファンが待ちわびた結果で終えた初場所。 稀勢の里の横綱昇進は、ほぼ決まりのようです。 琴奨菊が陥落し、高安や御嶽海ら若手が躍進し、大きく様相を変える春場所の番付表。 大阪の土俵で咲き誇るのはどの力士か。あるいは、荒れる春場所の言い回しのように、思いもよらぬ千秋楽が待っているのか。 2017年も予想のつかぬ大相撲であってほしいものです。 |
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