『青天を衝け』
渋沢栄一というなじみ薄い主人公の物語で、あまり期待はしていなかったのですが、退屈することなく楽しめています。 今のところ歴史の中心からは離れている血洗島の栄一たち庶民パートと、激動真っ只中の江戸パートが、どちらかに偏りすぎることなく均一に描かれているからでしょうか。混乱の中、幕臣たちがそれぞれ抱く思惑も、庶民が徐々に尊王攘夷の思想に染まっていく様子も非常にわかりやすいです。大森美香の脚本はやや軽めですが、情に訴えかけるようなアプローチで複雑な歴史事情を伝えることに成功しています。 今後主従関係となることがオープニングで示されていた徳川慶喜と渋沢栄一。明治維新により慶喜は歴史の敗者として消えていき、栄一は新しい世で実業家として花開いていくということはすでにわかっている事実ですが、血気盛んな栄一と静謐に未来を見据える慶喜、ふたりの性格は対照的です。ダブル主人公ともいえるふたりが今後どう出逢い、どう絆を深めていくのか、そして明治維新後の関係がどうなるのかも期待させられます。 草彅剛のキャスティングはこの大河の目玉のひとつ。絶賛されることの多いつよぽんの演技は今までほとんど見たことがありませんでした。登場当初は、かつてのスーパーアイドルらしいオーラには慶喜のカリスマ性を感じたものの、平板なセリフ回しに、こんな感じなのかと正直腑に落ちませんでしたが、後継争いが熱を帯びていくに従い、否が応でも巻き込まれていく慶喜の心の奥に秘めた思いは、動きに乏しい表情のその両瞳の奥から自然とにじみ出てくるものがありました。淋しさや苛立ち、悲しみ、怒り。たぶん観ている私自身が、今までいろいろなものに煩わされてきたつよぽん自身と重ねてしまっているのかもしれません。 やがて将軍となり、戦の敗者になり、その余生を趣味に過ごした慶喜。大河では今までにいろいろな慶喜が描かれてきましたが、草彅剛が新しい慶喜像を確立してくれるのではと思います。 新しいといえば井伊直弼もそうです。井伊のイメージといえば野心にあふれ、安政の大獄で多くの命を奪った悪の親玉。しかし今回は、風流を愛した気弱な茶歌ポンが歴史の大回転に巻きこまれ、覚悟を決めて悪に変貌していくさまが描かれています。最近印象に残った井伊といえば佐野史郎(『西郷どん』)ですが、行うことは同じなのに解釈によってキャラを変えることができるのが、歴史ドラマの醍醐味ともいえます。ただどちらにしても、単なる悪ではなく、滅び去る者の憂いをどこか感じられるのが良いですね。 と、ついつい江戸パートに目がいきがちですが、田舎とは思えないほど美男美女ぞろいの血洗島も目の保養です。『西郷どん』『いだてん』ではそれほど目立たなかった橋本愛がようやくヒロイン抜擢。本当に素敵な女優さんだと思います。栄一のみならず、喜作、長七郎、平九郎など、今後明治維新をどの立場で迎えるのか気になる人がたくさんいますが、あえて検索せず展開を楽しもうと思います。 PR |
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