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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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3/22 vsアメリカ ○

いよいよこの時を迎えました。
正直、あきらめていました。相手はメジャーのオールスター軍団、どこからでもホームランが打てる隙のない打線。しかもアウェー。いくら日本の投手陣をもってしても、勝つのは容易ではないと。
しかし、日本には大谷がいました。試合前の円陣で、メジャーMVPの放つ言葉は違いました。「今日だけは彼らへのあこがれを捨てて、勝つことだけを考えていきましょう」。
あこがれてしまっては超えられない。
そのとおりです。背筋が伸びました。
最初から気持ちで負けていては、勝つことなどできません。

アメリカはトラウト、日本は大谷が旗手となり、両チームの入場で始まった決勝戦。
後攻の日本、先発は今永。準決勝の劇勝後、歓喜に沸く日本チームの中ひとり緊張していたそうですが、今日も安定感は健在でした。トラウトに二塁打を打たれるも、後続を断って無失点で初回を終えます。
しかしアメリカチーム主将トラウトの二塁へのヘッドスライディングには、この一戦にかける気迫を感じました。
日本の攻撃も無得点で迎えた2回、ターナーにソロホームランを打たれてしまいます。ベネズエラ戦で8回に逆転満塁ホームランを放ち、準決勝のキューバ戦でも2本打っている恐怖の9番打者は、この日6番に打順を上げていました。今永はその後もピンチを招きますが、追加点は許しませんでした。
先制された日本。反撃はその直後でした。
初球、ど真ん中のストレートを迷わず振り抜きいた村上。それは三冠王の見慣れた放物線でした。一瞬の同点劇。そしてそれだけにはとどまらず、次の岡本がヒットで出ると一死満塁と相手を攻めたてます。代わった投手からヌートバーのゴロの間に1点、勝ち越しに成功します。
今日は迷わず継投に出た栗山監督。二番手は戸郷。いきなりトラウトから三振を奪いますが、さすがはアメリカ。すぐさまフォークに対応しボール球を見きわめられ、二死から連続四球で一・二塁でターナーを迎えます。しかしカウントを有利にして投じた4球目のフォークで空振り三振! 2イニング目も三者凡退とこの大一番で最高の仕事をやってのけました。
4回裏には岡本が今度こそスタンドインのホームランで貴重な貴重な追加点!! 差を2点に広げます。
5回に登板したのは高橋宏。いきなり内野安打でランナーを出してしまいますが、さすがは20歳で代表に選ばれただけあります。トラウト、ゴールドシュミットを連続三振。アレナドにはヒットを打たれるものの次のシュワーバーをセンターフライに抑え、ピンチを凌ぎます!
いよいよ試合も後半戦。四番手は伊藤でしたが、こちらの緊張感が緩和するくらいのサクサク三凡。1イニングなのがもったいないくらいの安定感でした。
このあたりから、ダルビッシュや大谷がブルペンに向かい始めました。ということは…。
6回裏、日本は二死満塁まで攻めるも無得点。
7回表は大勢が登板。栗山監督は本当にダル→大谷の継投で行くつもりなのだなと、この時確信しました。
そのためには何としてもリードを守ってバトンを渡さなければいけません。しかし先頭代打の左打者に四球を出してしまいます。1番に戻りヒットでつながれ、無死一・二塁。トラウトはなんとかライナーで抑えるものの、続くはゴールドシュミット。必死で祈る3球目のフォーク、ひっかけたゴロの転がった先には源田! 山田・岡本と渡ってゲッツー! 心臓が持ちません!!
その裏は大谷の全力疾走で内野安打をもぎとりますが、吉田がゲッツー返しで無得点。
いよいよ、ブルペンからダルビッシュが登場します。
このWBC、侍ジャパンがここまで来られたのは実力ももちろんですが、別々の場所から集まってきた一流選手たちがワンチームとして機能しているからです。その結束力を生んでいるのは、ダルビッシュの存在に他なりません。この起用は、栗山監督がダルビッシュへ捧げる感謝の意もあったでしょう。
しかし正直、本調子でないダルビッシュには一抹の不安がありました。先頭はフライに打ち取るも、次のシュワーバーにはファウルで粘られます。そして10球目。大歓声とともに、打球はスタンドへ運ばれていきました。
1点差…。
一気に上がる心拍数。しかも次の打者にヒットを打たれ、一発で逆転のピンチに追い込まれてしまいます。しかし8回という終盤、追い込まれているのは相手も同じ。リアルミュートは初球を打ち上げて内野フライ。続くマリンズも初球を振ってセンターフライに打ち取りました!
なんとか点差を広げて大谷を楽にさせたい日本。しかし変則投手のチェンジアップに対応できず、あっさりツーアウトを献上。山田が選んでこの日ふたつ目の盗塁を決めるもホームまでは到達できませんでした。

ついにやってきました、最終回。

終盤にかけて何度もベンチとブルペンを往復していた大谷が、マウンドへ上がります。

顔はあきらかにこわばっていました。イタリア戦の時のように一球ごと吼えることもありません。大谷でも緊張する時があるのだなと、なぜか平常時のような観察をしてしまいました。しかしこの正念場、大谷以外の誰に任せられるというのでしょう。失点すればそれも致し方なし。どこか達観している自分がいました。
先頭マクニールは冷静に四球を選び、会場が大きな歓声に包まれます。
しかし続くベッツの2球目は山田の前に転がり、源田・岡本と渡ってゲッツー完成。雄叫びを上げた大谷も、テレビの前もボルテージは最高潮。 

ツーアウト、ランナー無し。
打席に立つは、トラウト。

「世界最高のふたりを観たくない人なんているだろうか?」

大谷の決勝登板を許可したエンゼルス・ネビン監督が予言したとおりになりました。
9回裏ツーアウト。1点差。
ピッチャー大谷、バッタートラウト。
偶然にしてはできすぎな、漫画でも描けないドラマチックな状況が生まれました!
2球空振りを奪って追い込むも、5球目のストレートが力んで大きく外れ、フルカウントになった6球目——。

それは、2006年、藤田が最後に投じた、
2009年、ダルビッシュが最後に投じた、
同じ球種のスライダー!!

トラウトのバットが空を切った瞬間、鬼の形相でグラブと帽子を放り投げた大谷。ベンチを飛び出したいくつもの笑顔。なぜか転んでいる吉田。マイアミにできた歓喜の輪。

最高だ!
最高だ!!

「侍ジャパン、世界一!!」

もう一度この言葉を聞く日が来ようとは!

宮崎キャンプから始まり、強化試合、そして始まった東京ラウンドを経て、アメリカまで。最高のメンバーが最高の試合をくり広げる、最高の日々でした。
今は思い出されるすべてが名場面です。
そして侍ジャパンの誰ひとり欠けても、この多幸感はありませんでした。
誰もがヒーローで、誰もがMVPです!

そして同時に、もう終わってしまうのかという、祭りのあとのような淋しさもあります。
東京ラウンドでの各国との交流や敗戦相手からのエールなど、日本において肯定的な報道ばかり目につくからでしょうか。本当に素晴らしい大会だったと思います。
また、チェコやイギリスのような野球後進国のヨーロッパからの初出場があったり、メジャーリーガーの多くが参加したり、回を重ねるごとWBCという大会の価値が上がってきたように感じます。
もちろん良いことばかりでなく、残された課題は少なくありません。アジアラウンドとアメリカラウンドの格差や、突然の日程変更疑惑、キューバから亡命した選手たちの複雑な背景も、キューバ代表として参加が許可されたからといってすぐに解決できる問題ではないようです。
2026年、第6回のWBCはいったいどんな大会になるのでしょうか。
日本代表も、顔ぶれは大きく変わるでしょう。栗山監督も勇退となりました。
今回以上のドラマはもうないだろうと、今は思います。しかし2017年終了時、メジャーリーガー大谷がアウェーの球場でも大歓声を受けて胴上げ投手になるなんて、吉田正尚がベストナインになるなんて、オリックスから4人も派遣されるなんて、想像すらしていませんでした。きっと誰も予想もできない未来が待っているはずです。
その日を楽しみに、とりあえず目の前のペナントに備えたいと思います…。






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