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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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幼い頃、迷子になる夢を見ました。たぶん幼子が戦火の中親とはぐれ泣き叫ぶ映画のワンシーンや、『金髪のマーガレット』というお嬢様が町で迷子になる児童小説でトラウマになったせいだと思います。その夢は、今でもはっきり憶えているくらいの恐怖でした。
この映画の主人公も、5歳にして見知らぬ街で迷子になってしまいます。しかもこれが創作ではなく実話、しかもわずか30数年前の出来事というのですから驚きです。
日本とは較べものにならないほど広大な国土、言葉も違えば文化も違い、子どもがひとりさまよっていても誰も見向きもしない、それがインドという国なのでしょう。
そして何よりもこの事件のそもそもの原因は、サルーの家が、子どもが働かねば生活できない暮らしであったということです。
文字の読めない母。幼い妹。石炭を盗んだ金でたった2袋の牛乳を得て喜ぶ兄弟。兄は少しでも稼ぎの良い仕事を探すため夜の電車に乗りました。それが兄の、そしてサルーの運命を変えてしまいました。
たったひとり、故郷から1600キロ離れた街をさまようサルー。不安に満ちた少年の表情と冷たい大人たちのコントラストが、観る者の胸を突きます。言葉が通じないこともありますが、セリフはほとんどありません。唯一声をかけてくれた女性に、サルーはどれだけ安堵したことでしょう。しかし彼女は人さらいでした。危機を察知したサルーはからくもその魔手から逃れます。そして2ヵ月後。彼は警察の保護を経て孤児院に入ることになりました。
いつ道端で野垂れ死んでもおかしくなかった状況で、サルーは生き延びました。たった5歳で、自分の生まれた街の名前も(そして最後に判明する彼の本名も)知らないまま、2ヵ月も生きてこられたのは、ただ「運が良かった」というひとことで片づけられるものではないような気がします。彼は聡明で、強い生命力を備えていましたが、それは彼が母や兄に愛され、そして彼も家族を愛し、まっすぐ育ってきたからではないでしょうか。
そして、彼を引き取ったオーストラリアの養父母もまた、愛にあふれた大人でした。サルーも彼らに欠かさず愛を返しました。同じ施設からやってきた気性の難しい弟にも、父母と同じように愛をもって接しました。
愛に包まれて成長したサルー。かつての故郷のことも忘れかけていたある日、大学の同級生の家で目にしたインドの焼き菓子に、幼い日の記憶がよみがえります。グーグルアースで調べることをすすめられたサルーは、その日から故郷探しに没頭します。後ろめたさから養父母と距離を置くことになっても、恋人と思いがすれ違っても、やめることはできませんでした。
サルーのインドの家族との愛。オーストラリアの家族との愛。愛すれば愛するほど、心は彷徨っていきます。それでもたどりつく場所はいつも同じ。いつだって、無償の愛がサルーを待っている。インドで、そしてオーストラリアで。大きな愛に包まれて、サルーは大きくなったのです。
ようやく見つけ出した、サルーの故郷。
母はずっとその街で、サルーを待っていました。兄はサルーと別れてすぐ天に召されていましたが、母はサルーの帰りを信じて待っていました。
25年の時を経て、愛は家族をふたたび結びつけました。
幾つもの愛が重なりあって起きた奇跡。それでもいちばんの奇跡は、本来なら出逢うことはなかったサルーの実母と育ての母が、サルーを通じてめぐり会えたことのように思うのです。そこにもまた、ひとつの愛が生まれました。
そして、決して大仰でない演出によって、世界にはまだ多くの子どもたちが過酷な環境に置かれているという悲しい現実があることを同時に伝えています。この奇跡は感動的であるけれど、もう二度と起きてはいけない奇跡なのだとも強く思うのです。





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