『太平記』
おおまかな流れしか憶えていなかったので、初見のように楽しめました。 今も昔も大河の醍醐味は豪華な俳優陣です。鬼籍に入った人から今なお活躍している名優まで、主役脇役関係なく鮮やかに、また重々しく物語を彩りました。 前半のハイライトはなんといっても『鎌倉炎上』の回。現代風に言うなら「神回」でした。高時の自害場面は、華やかな衣装の女人たちに取り巻かれ逃げ場を失い、家臣たちに急かされるように「これで良いか」と刃を腹に突き立てた高時のある種滑稽な、しかしだからこそ悲しみ深い最期の一幕が印象に残りました。うつけなのか、道化になりきっていただけなのか、高時のつかみどころのないキャラクターは、さまざまな一面を持つ片岡鶴太郎以外には今となっては考えられないくらい、適役でした。前半のヒール・長崎円喜の存在感も圧巻でした。 鎌倉を攻め滅ぼした新田義貞。初登場時の配役は萩原健一でしたが、病気降板により途中から根津甚八が演じました。正妻の尻に敷かれている情けない姿、勾当尚侍へのまっすぐな恋情、足利家に抱くコンプレックス、その死に様まで含めてなんとも不器用な武将の雰囲気が逆に魅力的でした。野望をひそかに燃やしギラギラしていた萩原健一のままなら、こんな風には描かれなかったかもしれません。こういうちょっと「もったいない」キャラが好みなので、根津甚八になって良かったと思います。 最初は「今と違って棒だな…」と感じた宮沢りえも、回が進むにつれてみるみる輝き始めました。とくに不知哉丸を産んで母親としての強さを身に着けた姿といったら、今と遜色ない凛としたオーラで尊氏を圧倒していました。 そういえば、いつの間にか見なくなっていた花夜叉一座、花夜叉は最終回に息子(のちの観阿弥)を連れて再登場しましたが、ましらの石はいずこへ…? 最終回に向けては、高師直の死、右馬介の命を賭けた直冬への説得、戦に次ぐ戦、そしてついには兄が弟に毒を盛らざるを得なくなるという、彼らの人生を見守ってきた者としては切ない展開が続きました。観応の擾乱は、南北朝という単純な図式ではなく、今日の味方は明日の敵ともいうような人間関係相乱れた複雑な争いですが、意図せずして対立してしまった兄弟という感情移入しやすいテーマに置き換えて描かれていたので、非常にわかりやすかったです。高嶋政伸は、この頃はまだ「姉さん、事件です」のイメージしかなかったのですが、こんないい演技をしていたのですね。今のクセモノ俳優ぶりも納得です。 高師直も、初登場時からしばらくは冷静で有能な宰相でしたが、次第に女や権力にとらわれ出し、後世に伝えられるまでの悪逆非道の個性を発揮し始めました。きちんと観ていなかった放送当時から強い印象があり、高校で作ったレポートでも高師直を取り上げた記憶があります。ただの悪役ではなく、誰しもが持つ人の弱さや愚かさを師直という人間に落として表現した柄本明の名演が印象深かったのだと思います。 そしてそんな家臣の野望も、深く大きな心で受け止め圧倒した大殿・足利尊氏。記録に残る姿でも、終わらぬ戦に心を病み、情緒不安定になった様子がうかがえます。後醍醐天皇、楠木正成、新田義貞と、尊敬し信頼していた相手を討伐しなければならない葛藤、弟そして息子が敵となる孤独。最初から最後まで悩み苦しみ続けた人生でした。『太平記』とはいうものの、尊氏の生前に太平の世を迎えることはできませんでした。最終回、まだ見ぬ孫に「義満」の名を授けた室町幕府初代将軍。南北朝の統一は、金閣寺を建立したその孫の時代まで待たなければなりませんでした。 主人公は尊氏ですが、『太平記』はその時代を生きたさまざまな人たちが織りなした壮大な人間ドラマです。これほどのスケールをしっかりと描いた大河ドラマは、今ではなかなかお目にかかれません。本当に見ごたえのある作品でした。 『私本太平記』も読み始めたはずなのに…なかなか進まないんですよね。 PR |
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