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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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破傷風という病気を知ったのは小学生の頃でした。(たぶん)図書室で借りた児童小説の中に出てきました。タイトルも作者も忘れてしまいましたが、表紙はホームズの衣装を着た女の子のイラストでした。(たぶん)中学生くらいの主人公が、古釘を踏み抜いて破傷風になった友人を見舞うため(たぶん)彼女の自宅の古い洋館を訪れるところから始まる物語で、そこで(たぶん)事件が起きて、主人公がちょっと憧れていた友人の親族の男性が(たぶん)犯人だった…という話だったような気がして検索しましたが探し出せませんでした。どこかで記憶を間違えているのかもしれません。児童向けにしては暗い雰囲気で、謎解きものとしても面白かったような気がするのですが…。
ともかく、その小説の中で破傷風になった友人は、登場時すでに回復していたこともあってか普通に主人公を出迎えていましたから、たいした病気とも思わず、「古釘を踏むと危険なんだな。気をつけよう」とその病名を心にとどめたくらいでした。
それから約30年。
この作品をはじめて観て、かの小説の主人公の友人も実はこんな目に遭っていたのか!? と破傷風の脅威に恐れおののきました。
昌子役の女の子は昭和の子役らしい稚拙さがあるのですが、発作に苛まれる場面は迫真です。どうやって演技させたのか不思議になるくらいの苦しみ方、叫び声でした。我が子が目の前であれほど苦しんでいるのに何もできない両親の心が壊れていくのも無理ありません。両親役が渡瀬恒彦・十朱幸代というよく知る俳優であったことは救いでした。「これはフィクションである」という逃げ道を自分の中に作れたからです。もし見知らぬ役者であったなら、本当に苦しんでいるどこかの家族のように感じてよけい辛かったかもしれません。
作中、両親それぞれの母親が見舞いに来ますが、父方と母方で微妙に対応が異なっているのが興味深く感じました。ごく自然に父方の祖母だけ病室へ入るあたり、現代の嫁なら抵抗感を抱くところですが、この時代は父方のほうが重んじられて母方は遠慮するのが当然だったのでしょう。しかし父方の祖母の、孫への愛と心を病む嫁への思いやりは言葉にしなくてもひしひしと伝わってきました。演じていたのは『大誘拐』の北林谷榮、さすがの存在感でした。
「怖い映画」という括りでよく紹介されている作品ですが、あくまで病気と闘う一家族を描いた人間ドラマでした。驚くような展開や大仰な演出はなく、時系列も一貫しており全体的にシンプルな作りとなっているのですが、そのぶん悪化していく子の病に精神を苛まれていく両親の変化が丁寧に描かれていましたし、最後に笑顔を取り戻した家族の姿に涙も催されます。子どもをひとりで泥遊びさせるところをはじめ、医療技術に関しても、作品の随所に昭和らしさはあるのですが、それを感じさせない力を作品全体に感じました。家族を思う心に時代は関係ないのです。



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