『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督作品ですが、なかなか強烈でした。 『オールド・ボーイ』を鑑賞時、「原作は知らないが、きっとこんなオチではないような…」と感じたものですが、同じ原作モノであるこちらも「絶対こんな話とちゃうやろ!?」という確信にも似た感想を抱かざるを得ませんでした。 あらすじを読む限り、「下町の娘が詐欺師と共謀して上流階級の家へメイドとして忍びこむ」「どんでん返しが待っている」「百合」という大きなファクターは踏襲してはいるものの、むしろそれしかなぞっていないような気がするのはなぜだろう…。 原作は賞も獲得しているくらい優れたミステリーですから、そのまま描けばいいものを、重要などんでん返しの秘密についてはサラッと流してしまっています。主人公の二度にわたる逃亡劇も、呆気に取られるくらいアッサリ成功します。 また、主人公とお嬢さんの愛にそこまで感情移入もできず、無駄になっがいなっがいエロシーンも女性の性の解放というようなメッセージ性は受け取れません。 アッと驚く謎解きものや、ふたりの前に立ちはだかる障害を克服するラブストーリーというよりは、パク・チャヌク独特の不穏に満ちた雰囲気を楽しむ作品のように思います。 その「雰囲気」自体は、素晴らしかったと思います。 舞台は原作のイギリスから日本統治下の韓国に変更されています。その不安定な政情を象徴するような「日本」「韓国」「西洋」のミックスされた上月家のしつらいは、陰謀と秘密を抱えた家内の落ち着かなさそのものでもあります。 日本人の嫁の遺産を狙うため相続権のある姪との結婚をもくろんでいる親日派の朝鮮人・上月。 その遺産の横取りを狙っている詐欺師の藤原伯爵。 詐欺の片棒をかついで屋敷に潜り込んだ少女・スッキ。 彼女が仕えることになったお嬢さん・秀子。 四者四様の思惑が絡み合う第一部、秀子と上月家の秘密があきらかになる第二部、それぞれの愛の結末が描かれる第三部と章立てながら、展開にスピード感があり、145分をラストまで一気に見入ってしまいます。 秀子は純日本人の設定のため日本語会話は少なくありませんが、演じているのは韓国人俳優ですから言葉遣いはたどたどしいです。しかしほとんど気になりません(日本語の場面は字幕が出ないため少し聞き取りにくいところはありましたが)。 むしろ秀子を日本人が演じなくて良かったと思います。日本人が流暢な日本語で「ま(ピー)」だの「ち(ピー)」だのを連呼していたら、あの場面は悲惨なものにしかならなかったと思います。 いや、秀子の生い立ち自体は悲惨でしかないのですが、あの朗読がカタコトであったからこそ、「若い娘がエロ小説をオッサンどもの前で朗読させられる」という異様な光景を、秀子の視点でなく第三者として俯瞰でき、悲劇ではなく喜劇の一場面として受け取れたのだと思います。 最後に笑ったのは、上月と藤原に利用されていた(と男たちは思っていた)女ふたり。 彼女たちを手玉に取ったつもりでいた男は、すべてを失い敗れ去ります。 日本に向かう船の中、勝利の美酒(互いの…か)に酔う秀子とスッキ。 とどのつまり、「いつの時代も男はアホだ」。この感想につきるのです。 PR |
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