例年より長い夏が終わりました。
代表校が決まったのも、ずいぶん前のことのように思えます。 奈良大会決勝に進出したのは、智弁と高田商でした。高田商は準決勝、逆転サヨナラで天理を破ると、決勝も序盤で大量点を奪われながら徐々に追撃、最後まで王者を追い詰めました。一歩及ばずも、伝統校ここにありと存在感を示す見事な粘りでした。 1年の頃からレギュラーとして活躍してきた西村・小畠両投手、スラッガーの前川選手を擁する智弁学園は大会前から優勝候補として注目されており、2年ぶりに開催される夏の甲子園に期待は高まっていましたが、開会式から雨天順延。その後も度重なる雨天中止に見舞われました。 大阪桐蔭-東海大菅生の試合はちょうどテレビ観戦していたのですが、あまりにも酷いグラウンド状態に怪我人が出やしないかとハラハラしました。これ以上日程を延期できない事情もわかりますし、最後まで試合させたいという運営側の思いもあったでしょうし、誰にもどうにもできない状況だったとはいえ、互いに心残りとなったであろう結末には胸が痛みました。 雨のみならず、コロナ禍にも否応なく巻き込まれた大会でした。宮崎商・東北学院がコロナの影響により不戦敗となり、宮崎商は一試合も経験できずに甲子園を去ることになりました。こちらもまた無念であり、不運としか言いようがありません。 103回目の大会は、何もかもが異例なものとなりました。 しかしもちろん、変わらない景色はあるもので。 1回戦の明徳-県岐阜商。馬淵監督vs鍛治舎監督という甲子園を知り尽くした名将同士の一戦は、最後の最後まで手に汗握る展開となりました。劇的なサヨナラで勝ち上がった明徳の次なる相手は、秋田・明桜。プロ注目の風間投手相手にどんな馬淵采配を見せてくれるか楽しみにしていました。高知には森木投手というこれまたプロ注目の速球派がおり、彼を倒すことが明徳の第一目標だったのですが、それを見事に成功させた明徳の選手たちには、監督の指示した風間対策も難題ではなかったのかもしれません。追い込まれたらファウルで粘り、出塁すれば足でかき回し、風間投手のペースは大きく乱れ、途中降板せざるを得ませんでした。決して大型ではないチームが一丸となって好敵手を倒していく。高校野球の醍醐味とも言えるこの勝ち方が、馬淵監督にとっての美学であり、また至上の喜びであるように感じます。 そしてもし馬淵監督が関西の高校にいたら、毎年どんな戦いを見せてくれるのだろうと想像する相手が大阪桐蔭。伝統に裏打ちされた試合巧者ぶりとユニフォームの威圧感は健在で、今夏も優勝候補の一角と目されていました。しかし近畿同士の対戦となった2回戦で敗れ、校歌を歌うことなく甲子園を去ることになりました。序盤に4点先取されてもあきらめず、粘り強く得点を重ねた近江。名前負けせず挑戦者として立ち向かっていく姿勢が印象的でした。近江ブルーも個性的な応援歌も大好きで(そして金足農戦のインパクトも大きく)、応援したくなる高校でした。準決勝で惜しくも敗退しましたが、滋賀初の頂点も決して遠くない夢に感じます。 一日で行われた準々決勝は、4試合中3試合がサヨナラで決まるという熱い展開になりました。3回戦後には「クジ引かないで」と冗談交じりに話していたことが本当になってしまった智弁-明徳戦。9回の攻防は速報を追うだけでゾクゾクしましたし、第4試合も近江が9回に4点差を追いつかれながらその裏に勝ち越すという劇的な幕切れとなりました。 そして近畿勢4校が残った準決勝。馬淵監督が指摘したとおり、長引く雨天順延中に練習場を確保できない地方校と、自校に戻って練習できる近畿勢との間の有利不利は、確かに生まれたかもしれません(近畿勢の実力が上がっていることもきちんと付け加えていましたが)。コロナで安易に練習場を貸し出せないことも災いとなりました。大会前はコロナそして猛暑対策を中心に運営を考えていたのでしょうが、それに加えての豪雨は想定外だったかもしれません。本当に気候の読めない時代になりました。ドーム球場での開催は困難かもしれませんが、継続試合の導入の実現化は遠くないと思われます。 決勝は智弁和歌山-智弁学園という智弁対決になりました。 甲子園で一度行われた智弁対決は観ていなかったので、改めて同じユニフォームがグラウンドに並ぶ姿に、どっちがっどっちかわからなくなり、序盤は袖の地名に目をこらしてばかりでした。途中からやっと微妙な色合いと「辯」の違いに気づきましたが。 試合は開始早々に智弁和歌山打線が西村投手を打ち崩し、リードを奪う展開に。智弁学園も2点を返すものの、以降はなかなかチャンスをものにできません。 智弁和歌山の試合をまともに観たのは準決勝だけですが、伝統的な破壊力ある打線に加え、驚かされたのは守備の堅さでした。とくにショートの好守備には、何本もヒットを阻まれたように感じました。 一方智弁学園は、西村投手から小畠投手に継投した6回、エラーから失点してしまいました。試合が膠着していた時間帯の追加点は、中西投手に勇気を与えたことでしょう。前日完投の影響を感じさせずテンポ良く投げこんでいく中西投手に対し、同じく前日完投した小畠投手は追う立場ゆえの重圧と数字以上の疲労を背負っていたのか、失点を重ねてしまいましたが、それでも9回まで投げ切りました。足をつっても最後までマウンドは譲りませんでした。 3アウトを取り、足をひきずるようにベンチに帰っていく小畠投手の横で、号泣する植垣捕手の姿がありました。「まだ終わってないぞ!」という仲間の言葉にも涙をこらえることはできず。初戦で顎を強打しながら正捕手としてふたりのエースをリードして勝ち続け、悲願の優勝まであとひとつのところまでたどりついたのに、最後の最後で相手打線を抑えられなかった悔しさが爆発したのでしょう。それはテレビの前から「君は立派だよ、じゅうぶん頑張ったよ」と何度も声をかけてしまうほど悲痛な姿であったと同時に、高校生がここまでの覚悟とプライドを持って戦っていたのかと圧倒もされました。 そして敗者の涙を前に、勝者が歓喜の輪を作ることはありませんでした。礼に始まり礼に終わるという選手みずからが決めた選択は、高校野球の原点でありながら新鮮で、また尊くもありました。 勝敗は分かれましたが、智弁和歌山も智弁学園も、すべての選手が全力を尽くしたと思います。さまざまなことがあった103回目の夏をしめくくるにふさわしい熱いゲームでした。そしてあふれる思いを抑えるようにインタビューを受けていた中谷監督は、楽天で捕手をしていた時のイメージはもうないですね。おめでとう。 そして準優勝という新たな歴史を刻んだ智弁学園。1年の頃から見てきた選手たちの成長ぶりが観られたのもうれしかったです。プロを目指すという前川選手が上の世界でどんな飛躍を遂げるのか、それもまた楽しみです。 素晴らしい大会でしたが、ブラスバンドも満員の観衆もない甲子園はやはり淋しいものでした。 104回目の夏は、選手たちにとって最適な環境で行われますように。 PR |
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