忍者ブログ

いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
<<  < 184191188187186* 185* 183182181178179 >  >>


『竹取物語』をジブリが映画化するとこうなるのか、という作品。
子のない翁と媼は、たけのこの中から生まれいでた美しい姫と出逢います。翁は天から授かった姫と喜び、もらい乳に出た道中で媼は出るはずもなかった自分の乳を与えます。
よく言われることのひとつに、「子を授かっても男は男のままだが女は母へと変わる」という説があります。姫という我が子を前に、媼は突如として母親に変貌します。一方翁は、姫の人より早い成長にあわてたり涙したり。媼は目を細めて見守っているだけ。「娘の一挙手一投足にうろたえる父親とどっしり落ち着いて構える母親」というのも、両親あるあるかもしれません。翁と媼はいわゆる男女のステレオタイプとして描かれています。
ステレオタイプとはいえ巧みに操り心に響くのがジブリ映画の特徴だと思いますが、あかるい色調で笑いを交えながら作り上げる宮崎駿作品とは少し違い、高畑勲作品は画面も暗く、人物描写も醜悪を隠しません。といっても高畑作品は『火垂るの墓』と『平成狸合戦ぽんぽこ』と『おもひでぽろぽろ』しか観ていませんが。
翁は美しく成長する姫と黄金を手に入れたことで、都で生活することを決意します。姫のしあわせのためと信じて疑わないその根底に、みずからの栄耀栄華への思いはなかったでしょうか。翁に欲が生まれた瞬間でした。いっぽう大きな邸と美しい着物を得ても媼は鄙の生活を続け、土間で機を織り畑を耕し、都の生活になじめぬ姫の相談相手となります。

欲に溺れた翁、情けを忘れぬ媼。
人間とは欲と情けのかたまりでできています。
醜い欲は月の住人の疎むものであり、欲を持った人間たちは姫を迎えに来た天人たちに眠らされますが、欲を持たない媼は最後まで姫を守ろうとそばに寄り添い、また純粋な子どもたちや女童も正気を保っています(子どもを純粋の象徴として描いているのもまた典型的なステレオタイプではありますが)。
最後に姫を失った翁は情けを取り戻し媼に謝りますが、そこだけ切り取って見ればむしろ翁と媼で欲と情けを持ち合わせる人間を描いた物語とも言えます。
姫の噂を聞きつけ、求婚する公達たちも当然欲深さしか感じません。権威をかさに着て姫の部屋にまで乗り込み空蝉されるアゴ帝なんてもっての他。
しかし唯一ひたむきだった公達の死に涙し自然を愛し花の美しさに喜ぶ姫もまた、欲を持ち合わせる人間でした。
ヒロインの相手役としては登場時間の少ない捨丸が、その相手です。
ジブリにおけるヒロインの相手役はえてして『ラピュタ』のパズーのような高潔な少年の印象がありますが、仕事熱心で面倒見のいい捨丸もそういうタイプかと思いきや、瓜泥棒になったり都では盗人もやっていたり、長じては妻と子を持つ一家の主であるにも関わらず、偶然再会した姫と駆け落ちを企てたりします。
まっすぐな人間、とは欲望に忠実でもあるということ。
これぞ運命と手に手を取り、空を舞うふたり。たぶん深い関係になったという暗喩なのでしょうが、捨丸はまっさかさまに堕ちていく姫を救うことができず、しかも我に返れば一睡に垣間見た夢とあっさり割りきれるステレオタイプのクズ男です。パズーとは較ぶべくもありません。
欲を情けにすりかえて不貞を正当化する輩は現実にも多くいますが、これは欲と情けの鏡合わせをひとりで表現させた役割なのかもしれません。
そして地上に別れを惜しむ姫に容赦なく羽衣を着せた月の住人。
雲に乗って飛来する姿は来迎図のごとく、極楽浄土とはかくやあるかとうっとりしながら見る者をばっさり切り捨てるかのように、情け容赦がありません。欲もなければ情けもない。
どれだけ輝かしかろうと、そんな月の世界よりも、かぐや姫の言うとおり地上のほうが美しい。
欲深く罪深くもあるけれど、そんな醜さを持ち苦しみながら生きる人間がいとおしい。
生きることの美しさ、尊さを一貫して描くジブリ作品。それを『竹取物語』に擬して描いたこの作品は、高畑監督がこの世に遺した素晴らしい人間讃歌であるのだと思います。

そもそも『竹取物語』とはなんぞや。
幼い頃、友達と「かぐや姫は何しに来たの? みんなを巻き込むトラブルメーカーやんか」と笑い合ったものです。
今でもその感想は変わりません。古典文学とはなかなかにして難解なものです。





PR
* SNOW FLAKES *
STOP  *  START
* カレンダー *
12 2025/01 02
S M T W T F S
5 6 7 8 9 10
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
* プロフィール *
HN:
さや
性別:
女性
自己紹介:
プロ野球&連ドラ視聴の日々さまざま。
* ブログ内検索 *
<<  <  *  NEW *  BLOG TOP *  OLD *    >  >>
Copyright©  さや
Designed & Material by ぱる
忍者ブログ ・ [PR]