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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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将棋好きのツレのおかげで、棋士にはそこそこ詳しいです。
村山聖のことももちろん知っていました。
棋士は不思議な存在です。
ブームになった時の羽生も、今の藤井聡太も、まるで芸能人のようにワイドショーで特集されていますが、やはり何か違う気がします。棋士はアイドルのような憧れの存在でもなければアスリートのような目標にもなりえません。といって一般人のようにもてはやされて浮つくところもありません。
今でこそAIが発達して、人間の想像もつかないような一手をあみだすようになってきましたが、少し前まで将棋はコンピューターが唯一人間に勝てない競技と言われていました。そのくらい、将棋盤の上には無限の世界が広がっています。その誰も見たことのない先に足を踏み入れ、誰も思いもつかない一手を引き出す作業を、永遠にくり返す職業。みずから「負けました」と相手に頭を下げなければ勝負はつかず、そして勝ってガッツポーズする人もいない。つくづく、将棋は不思議な世界です。
そんな場所に棲む棋士は、我々凡人とは違う景色を見て、違う次元を生きているような気がします。
凡人には想像できなくても、同じ世界を生きる棋士同士なら共有できる思いがある。
誰も見たことのない世界に、もっとも近いふたりだからこそ。
村山と羽生。もし村山が病魔に侵されていなかったら、きっと歴史に残る名勝負がもっと数多くふたりの間で生まれていたに違いない。しかし病室で将棋を憶えた村山が、もし健康だったなら将棋には出会っていなかったのかもしれない。
そして稀有な才能を持ったふたりが同時代に生まれたこともまた、人生における不思議なめぐりあわせだったのかもしれない。
文字どおり命を削りながら将棋に対峙する村山。将棋会館に向かう道中で行き倒れながらも、将棋盤の前に座ればまるで病などなかったかのようにしゃんとして駒を打つ。その一手が命を縮めることになる、それを知りながらも将棋をやめない。誰しも死を前にすれば、どれだけ大切なものであっても手放すことをいとわない。しかし村山は無限の世界に挑み続ける。
なぜ、そうまでして村山は戦うのか。
その答えは、わかりません。
村山、そして羽生にしかきっとわからないでしょう。将棋の世界にいる者にしかわからない、そうさせる何かがあるのでしょう。
そんな不明瞭な世界を演じなければならなかった松山ケンイチと東出昌大。少しこちら側の空気感が残ってしまっていたのは無理もない話です。ただ、東出くんが随所に羽生の雰囲気を見せていたのには驚きました。黙して考えるところは悠太郎さんぽかったですが。
松山ケンイチはさすがのカメレオン俳優ぶりです。師匠のリリー・フランキーも本当にあんなベテラン棋士がいそうな存在感でした。荒崎は先崎なのでしょうが、『月下の棋士』の関崎といいどうしてあんないけ好かないキャラ付けをされるのだろう…。








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