原作を先に読んでいたので、どうしても比較してしまうところはありますが…。
小栗旬が熱演でした。それだけでも価値が上がります。『二つの祖国』でも感じましたが、本当にいい俳優になったなあと思います。憂いある顔を傾けて「まーきの♪」と呼んでいた頃が懐かしい…あの時は松潤の方が百倍良く見えて、だんぜん道明寺派だったのですが、あの時の花沢類がこんな実力派俳優になるとは思いもしませんでした。漫画実写化でも軽い役よりはこういう重いものを背負った人間のほうが味わいが出ますね。
さて、残酷な連続殺人と後輩の死、妻子の誘拐からの監禁、逮捕劇など、おおまかな流れは原作どおりでした。大きく異なっていたのはラストです。ある意味いちばん重要なところかもしれませんが。
原作は漫画的表現(描かれている景色が現実なのか虚構なのかがあいまい)を利用して、「殺人鬼がよみがえる(かもしれない)」「沢村の家族は幻影(かもしれない)」という、背筋を凍らせるラストカットで幕を閉じました。しかし映画では同じ手法を使えないため、「殺人鬼は肉親によって殺された(っぽい)」「沢村は家族との時間を取り戻したが、息子は殺人鬼と同じく心因性の光線過敏症になる(っぽい)」と、原作に較べれば後味の悪さは小さなものになっています。ただ実写なら、このくらいがちょうどいいかもしれません。
そして残念だったのは、犯人が遥にカエルのお面をかぶらせ、沢村に撃たせようとする場面です。原作では、振り返ったカエルが視界に入った刹那、引鉄に手をかける沢村の脳裏に家族との記憶がフラッシュバックしました。沢村は妻の扮装を見誤ることはありませんでした。カエルの目論見が、家族愛に破られた瞬間でした。
しかし映画では最初から入れ替わりのネタばらしがされていたため、感動も半減でした。カエルに双子の姉妹がいたという設定を付け足し、唯一の肉親であるその彼女に最後は殺されるという流れは、この作品のテーマのひとつが「家族の愛」であることを象徴していると思うのですが、ならばこそ沢村がカエルは遥と見破る場面の演出は最重要だったと思います。その後の追い詰められるふたりの演技が迫真だっただけに、もったいないなあと感じました。
凶悪な殺人鬼を演じたのは、イイ人のイメージが強い妻夫木聡。スキンヘッドとおどろおどろしいメイクで見た目だけでは本人とわからないくらいで、セリフ回しも表情もかなりイっちゃってる感を強調していましたが、どこか物足りなさが残りました。つまぶっきーもどちらかと言えば小栗旬と同類で、陰のある役が似合っていると思います。あと、遥を演じた尾野真千子と小栗旬のツーショットが少しピンと来ませんでした。
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