忍者ブログ

いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
<<  < 296300289280294* 278* 293290283288286 >  >>



「イケオジ」なんて言葉も生まれたそうですが、若い女性と年上男性の恋を描いた物語が流行っているそうで。
先生と生徒、上司と部下という設定は昔からあったものの、今の主流は中年以上の、年齢を重ねたからこその落ち着きを持った男性がメイン。女性も活躍の場を与えられるようになった昨今、男性にはただ頼りがいがあるだけではない、自分のすべてを包み込んで癒してくれるような包容力を求めているのかもしれません。
そして、女性向け漫画に出てくる中年男性は、概してイケメン。中年の不潔さなど微塵も感じさせない、絶対現実にはいないであろう、こんなオジサマに癒されたいと思うようなイケオジばかりです。
ところが女子高生がバイト先の店長に恋をするこの作品の原作は、青年向け雑誌に連載されていました。よって店長はイケメンではありません。加齢臭が漂ってきそうな、現実のここかしこに転がっているくたびれたオジサンです。
女性がイケオジと恋に落ちる妄想に浸りたいように、男性も女子高生と恋に落ちる妄想に浸りたい(に違いない)。しかしそれは一歩、いや半歩間違えれば犯罪にもなりえます。
このお話の落としどころはどこにあるのだろうと、無料の一巻だけを読んだ時から気になっていました。
結論から言えば、これ以上ない、素晴らしい余韻を残した物語だったと思います。
陸上に青春の日々を注いできたあきら。寡黙でクールな顔立ちからしばしば誤解も受ける彼女ですが、心の中には小さな恋心を秘めていました。相手はバイト先の店長である近藤。客にペコペコ頭を下げてばかりでバイト連中にも軽く見られがちなバツイチの中年男ですが、足に大怪我を負ったあきらは、病院帰りに立ち寄ったファミレスで近藤に受けたさりげないやさしさが忘れられず、彼を追ってそのお店のバイトになったのでした。
雨の中傘も差さず、ずぶぬれになりながら想いを告げたあきらの真剣な瞳に、動揺する近藤。
自分のような冴えない中年男なんてゴミのようにしか感じていないだろうと思っていた、眩しい女子高生から、本気の告白を受けたのです。にわかに信じられるはずがありません。
とまどいながらも、近藤はあきらの気持ちを受け止め、受け止めたうえで誠実に応えようとします。
そんな真面目で不器用な近藤だからこそ、あきらは恋をしたのかもしれません。
私もトシですから、どうしても近藤目線で物語を見てしまいます。
近藤は自分を好いてくれるあきらに好意を持ちますが、それは恋愛対象としてではなく、むしろ自分の失ってしまった若さを持った一種のあこがれとして見ているように思いました。
若さとはすべての可能性を秘めたエネルギーです。そしてその時期を逃してしまえば、二度と戻ってくることはありません。
彼にも若い頃、夢がありました。
その夢は今も彼の文机の上でとどまっています。仕事も家庭もうまくいかないのにあきらめきれない夢、しかし未練は断ち切れません。あきらが走ることへの未練を断ち切れないように。
彼がなれなかった小説家として成功している旧友のちひろは、悩む彼にこう言います。「未練ではなく、執着だ」と。
あきらめるべきことをあきらめきれないのは「未練」、好きなことややりたいことを成し遂げようとするのは「執着」。
ならば、この思いは間違ってなどいない。
彼に降り続いた長い雨がやんだ瞬間でした。
そしてあきらにも雨雲の晴れ間を指し示しました。彼はふたたび、彼女に手品を見せたのです。それが近藤の大人としてのふるまいでした。
ファミレスを「クビ」になり、ふたたび陸上部に戻ったあきら。そして近藤もまた、原稿用紙に向かいペンを走らせます。それぞれの場所で、それぞれの道を歩み始めたのです。
そして数ヶ月後。雨宿りを終えたふたりがふたたびめぐりあった晴れの日の昼下がり。澄みわたる青空が新しい時の、新しい関係の始まりを感じさせながら、物語は幕を閉じます。
小松菜奈の大きくてまっすぐなまなざしが印象的でした。すらりと伸びた足が健康的で走る姿も美しく、みずみずしさが強調されています。不愛想から一転、恋する人への笑顔のかわいらしさ、一途さゆえのあやうさなど、さまざまな表情を見せてくれました。
一方、近藤役の大泉洋はベストな起用だったと思います。カッコよすぎず、といって不細工すぎると画面映えしないという難しい役でしたが、あきらに対してもいやらしさや下心を感じさせない実直な近藤を魅力的に演じていました。臭そうだけれど不潔感なく演じられる中年俳優はなかなかいません。しかしラストシーンで車から降りてくるスーツ姿の近藤はちょっとカッコよく見えちゃいましたね。『ノーサイド・ゲーム』のせいでしょうか。
この作品は、想像していたような年の差ラブストーリーではなく、若い頃に味わった挫折の苦さを思い出させてくれる眩しい青春ものでした。そして中年になっても、自分らしく生きていくことは変わらず大切なことなのだと、そこだけは若者と共有できる部分なのだと感じさせてくれる、自分の曇っていた心も晴れにしてくれた、とても心地よい作品だったと思います。









PR
* SNOW FLAKES *
STOP  *  START
* カレンダー *
12 2025/01 02
S M T W T F S
5 6 7 8 9 10
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
* プロフィール *
HN:
さや
性別:
女性
自己紹介:
プロ野球&連ドラ視聴の日々さまざま。
* ブログ内検索 *
<<  <  *  NEW *  BLOG TOP *  OLD *    >  >>
Copyright©  さや
Designed & Material by ぱる
忍者ブログ ・ [PR]