『嘘解きレトリック』
何年か前にWebで無料のところだけ読んでハマってしまった作品。キャストを聞いた時は「なんか違う…」と首を傾げましたが、いざ初回を観てみると祝先生の包容力、鹿乃子の心の傷や純粋さがしっかり表現されていて、原作の世界観を損なわないものに仕上がっていました。週を追うごとに変化していくふたりの関係性や鹿乃子の成長ぶりを、先を知っていながらも楽しんでいます。 ところで原作がまた無料公開されていたので読み直してみたのですが、最後の最後だけ有料のため、どうしても続きが気になって購入してしまいました。が、いざ読んでみると「なんかこれ見たことあるような…」。 遠い記憶をたどってみると、前回も続きが気になって漫画喫茶で読み切ったような気がします。なんで忘れてたんや…。トシか…。 『宙わたる教室』 舞台は年齢も環境もさまざまな人たちが集う定時制高校。一風変わった教師の作った小さな科学部が、大きな目標に向かう日々を描いています。 科学者としてその世界に名を轟かせたこともある藤竹先生ですが、校内ではあくまで一介の教師です。教師だからと偉ぶることはありません。年上にも年下にも丁寧語で接し、その距離感は誰に対しても同じです。そしていつも、適切な言葉で、的確なタイミングで、相手の心に近づき閉ざされたその扉を開きます。 定時制高校は惰性で通う場所ではありません。何らかの理由があって学びたいと思う人が、学ぶために来ています。ですが一度挫折を経験した人は、また壁に当たると進むことをためらってしまいがち。藤竹先生はそんな彼ら彼女らの背中を後ろからそっと押して、向学心を失うことのないように支えています。科学部でもそのスタンスは変わりません。あえて導くことはせず、基本生徒の自主性に任せます。そんなキャラクターが新鮮です。 初回のエピソードで、一気に心を持っていかれました。自分がディスレクシアだと知って涙を流した柳田。病名を知った安堵のそれかと思いました。しかし違いました。柳田は怒っていたのです。今まで受けてきた叱責、差別はすべて理不尽なものだった。どれだけ努力しても乗り越えられない、それは障害であったのだから。柳田は、知らなければ良かったとまで言い放ちました。安堵などするはずがない。柳田が今まで苦しんできた長い長い時間は、取り戻すことなどできないのだから。 ふたたび闇に堕ちかけた柳田ですが、彼を救ったのは科学への探求心でした。まるで子どものように目を輝かせ実験に没頭する柳田の変化は秀逸でした。『下剋上球児』でもヤンチャな野球部員を演じていた小林虎之助ですが、周囲に牙を剝きながらも心弱さを秘めた野良犬のようなキャラがよく似合います。 さらに話を追うごとに、アンジェラや佳純、長嶺たちの背景が語られていきます。毎回胸を打たれたのですが、とくに長峰のエピソードには涙を禁じえませんでした。藤竹に誘われて若いクラスメイトたちの前で自身と妻の半生を話し始めた長峰。イッセー尾形の静かな語り口が熱を帯びたのは、知らないうちに肺を病んでいた妻の前でタバコを吸い続けた後悔を語る時でした。クラスメイトたちとおなじように、いつしか背筋を伸ばして聞き入っていました。 多種多様なメンバーで発足した科学部は、全日制の生徒も巻き込んで、壮大な夢を現実にすべく奮闘します。そこにいるのは、入部前の、迷いや劣等感を抱えていた彼らではありません。人は学ぶことで成長する。そんな大切なことを思い出させてくれる作品です。 『ライオンの隠れ家』 キャストに惹かれて観始めましたが、裏切らない演技力とサスペンス風味のある展開も興味深く、次回が待ち遠しく感じられる作品になっています。 色気を消して平凡な公務員になりきっている柳楽優弥はもちろん、自閉スペクトラム症の弟を演じる坂東龍汰には驚かされました。今まで脇役として出演したドラマのいくつかは観ていたものの、そこまで印象には残っていなかったのですが、まるで本当にみっくんという人間がそこにいるかのような存在感です。 ライオンという闖入者によって破られた兄弟の平穏な日々。『隠れ家』というタイトルとは裏腹に、ふたりの生活はどんどん外へ向かって開いていきます。ルーティンを守り他人には臆病だったみっくんが、大勢の人前で絵を描いたり、遠出したりできるようになった。ライオンのためにルーティンを破ることも厭わなくなった。閉鎖的な毎日のくり返しで半分世捨て人のようだった洸人も、ライオンへの慈愛に目覚め使命感を抱き、道理を飛び越えて逃亡生活を決意した。この物語は、ライオンの正体や、裏のありそうなたちばな都市建設をめぐるサスペンスでありながら、兄弟ふたりの止まっていた時間が動き出す成長譚であるのかもしれません。 誰にとってもしあわせな結末であるようにと願います。 『海に眠るダイヤモンド』 野木亜木子&塚原あゆ子コンビの作品と聞いて楽しみにしていましたが、『アンナチュラル』『最愛』のようなテンポの良い展開にはなっていません。もっともサスペンスではなくホームドラマですから、まったり感が先んじるのも無理はないのかもしれませんが…。 端島の登場人物はひとりひとり際立っています。複雑な四角関係の鉄平・賢将・百合子・朝子に謎多き歌姫のリナ。皆そろって昭和のスクリーンから出てきたようなたたずまいです。しかし進平兄ちゃんは薄暗い炭鉱内でも泥まみれでもイケメンやな…。 コスパが求められる昨今の風潮に反するかのように、それぞれの背景はなかなか描かれません。百合子が朝子にきつく当たったり、進平が次男だと他人のセリフでさらりと触れられたりするも、その秘密が明かされるはのちのちのこと。リナの正体や現代パートのいづみと玲央の出自もいまだ謎です。緩やかで心温まるエピソードを展開しつつも、多くのひっかかりを残しています。 一話ずつばらばらのようでいて、すべては狭い端島で起きたこと。いったいどのような結末を迎えるのか、過去がどう未来につながるのか。最終回まで見守りたいと思います。 PR |
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