『青天を衝け』
激動の幕末から明治を迎えると、登場人物の動きが落ち着くので盛り下がりがちなのですが、この大河は栄一を視点の中心から動かさず、展開をスピーディにすることで、物語の停滞を回避できたように思います。それはもちろん、作り手が複雑な時代背景をきちんと理解したうえで描いているからできたことです。敵味方を善悪で分けたり出来事を全部セリフで説明したりするドラマは最悪ですからね…。 渋沢栄一というどんな人なのかパッとイメージが湧いてこない題材に、主演が若い吉沢亮で、期待せずに観始めたのですが…。 なかなか面白かったです。 コロナでさまざまな制約はあったはずですが、前作のような急なトラブルはなかったのかもしれません。この大河はブレがまったくありませんでした。栄一のキャラは最初から最後まで一貫して、時代の針を先へ進めるにふさわしい熱気と行動力を持った人でした。そんな栄一を支えていたのは家族であり、仲間であり、旧主であり、そのすべてが彼の人生を作り上げたことを示すラストシーンも印象的でした。 予定どおりだったのでしょうが、彼の子や後妻のエピソードが薄かったのは少し残念でした。兼子を演じた大島優子は橋本愛に負けない存在感でしたし、コンプレックスのあまり道を踏み外してしまう篤二の人生模様ももう少し観たかったです。しかし栄一の孫によって語られる最終回の演出は良かったです。少ない出演時間ながら笠松将の残した印象は強く、栄一が彼に渋沢家を、日本の未来を見届ける役目を託したことに説得力を持たせていました。 スタートが遅く中断期間もあったため、あっという間に終わったような気がします。むしろそれが良かったのかな。 次回は『鎌倉殿の13人』。源平合戦から鎌倉幕府成立という、歴史好きに転んだ二番目の原因の時代です(一番目は『白虎隊』)。本棚には学生の時に買った『吾妻鏡』全5巻が埃をかぶったまま置いてあります…。アレを読みながら観ることにするか…。 『カムカムエヴリバディ』(承前) てっきり年明けからるい編に変わるのかと思いきや、週なかばでヒロイン交代というめずらしい展開に。 「なぜ安子はるいを残してアメリカへ渡るのか」というのは、始まった頃からずっと疑問でした。想像していたのは、「安子が美都里にいびられ、るいも奪われて雉真家にいづらくなった(YOUも最後までイヤな人と言っていたし)」でしたが、美都里は良いおばあちゃんになって亡くなりました。次に考えたのは「勇に気の強い嫁がやってきて肩身狭くなった」でしたが、勇と雪衣が結婚したのは安子が出ていってからですし、雪衣もそこまであくどい人間ではありませんでした。 ですが、安子はるいを雉真家に置いて出ていく流れになりました。行き先はアメリカではなく《たちばな》でしたが。 千吉は安子に再婚をすすめ、それを拒否されると今度は勇との結婚を提案しました。時代的にもめずらしくないことでしたし(もちろん、それを受け入れた人たちにはきっと思うところはたくさんあったでしょうが)、るいと離れたくないという安子の希望もかなうことになります。しかし安子はそれをも拒否しました。愛しいるいと離れてまでも、みずからの信念を貫こうとしました。 英語を学んだことで、その時代を生きる女性らしからぬ自己主張の強さも、安子は身に着けたのかもしれません。 しかし、当のるいからすればどうなのか。どうしてお母さんは自分をひとり置いて家を出るのか。入学式にも帰ってきてくれないのか。そして、ロバートと抱き合う姿を見たことが、疑念を確信に変えたのでしょう。「自分を捨てようとしているお母さんなんていらない。自分からお母さんを捨てる」と。 いつの間にか我々は、夫と子と普通の暮らしがしたいというありふれた夢すら戦争に奪われたかわいそうな安子から、「身勝手な母親に裏切られた」るいへ視点を移されていたのです。 安子がアメリカへ渡る理由が安子に肩入れせざるを得ないものであったなら、その母親と英語を憎んで成長したという新たなヒロインに感情移入できないまま、るい編を迎えることになります。安子編終盤のひとりよがりにも思える安子の言動や行動は、必要悪だったのかもしれません。 ただ、あまりにも急変すぎて、ついていけないものがありました…。 これには演出にも一因があると思います。安達もじりの映像は、朝ドラにしては個性が強すぎるのです。『カーネーション』のヒロインが夏木マリに変わった週も安達もじりが担当でしたが、物語が大きく動いているだけに、演出の異質さがよけいにこちらに違和感を抱かせるのです。稔の戦死公報が届いた時の無音の表現あたりは良かったのですが。 さて、48歳が18歳を演じるところから始まったるい編。…深津絵里の透明感はすごいですね。安子もモテモテでしたが、るいもモテモテ展開になるのでしょうか。そして、娘を「ひなた」と名づけたところから、安子と和解する日がきっと訪れるのでしょうが、もし再会するシーンがあるなら、安子役は宮崎美子でどうでしょうか…。 『志村けんとドリフの大爆笑物語』 志村けんという誰もの心に残る大きな存在だけでなく、もはや伝説と言ってもいいドリフのコントを再現、しかも演出が福田雄一とあって、観る前は楽しみの反面「大丈夫かな?」と不安を拭えませんでした。 が、蓋を開けてみれば、笑いっぱなしでした。といっても福田組のいつものアドリブやオフザケでなく、間違いなく「ドリフ」の笑いがそこにありました。懐かしいあの笑いに、最後には泣いていました。 ドラマ自体は、志村けんがいかりや長介に弟子入り志願し、晴れてボーヤになり、荒井注の脱退によりドリフの新メンバーとなり、苦悩しながらもやがてその才能を開花させ一流コメディアンとなり、それを見届けたいかりやはお笑いの第一線から身を引いていく…という、志村の半生を軸に、全員集合やドリフ大爆笑のコントを俳優たちが真剣に演じた、いわば「壮大な再現ドラマ」でした。 2時間という短い枠で、しかも再現コントにかなりの尺を割いていましたが、志村けんが父親の名を芸名にした理由や加藤茶との絆、いかりや長介の老いの自覚など、『金スマ』でも観て知っていた印象的なエピソードをしっかりはさみこんで、志村けんというコメディアンができあがるまでを描いており、濃密な人生物語になっていました(そんな中でもワンカットの登場ながらちゃっかりインパクトを残すムロツヨシ…)。 メンバーの再現度には本当に驚きました。制作陣、演者のドリフに対するリスペクトが伝わってきました。大爆笑のオープニングの、あのちょっと脱力感ある動き! 合唱団やスクールメイツの髪型やメイクまで昭和っぽくて、遠目なら再放送かと思うほど! いかりや長介は歩き方まで長さんらしい威厳があり、荒井注のせっかちそうな雰囲気や飄々とした仲本工事も、外見はまるで違うのにそのまんまでした。そして高木ブーは完全にブーだった…。 山田裕貴も志村けんの裏声やちょっとした細かい動きを取り入れて、振り切って演じていたように見えました。ただ「変なおじさん」はメイクでも地のイケメンを隠しきれず「変なおじさん」にはなりきれていませんでしたね…。 そして、なんといっても勝地涼! 最近はコメディの印象が強いとはいえ、加トちゃんまでできるとは…。コントシーンは当時のアドリブや間も研究して完璧に再現したと聞きましたが、牛乳コントはふたりのやりとりや吹き出し具合が本当に自然でしたし、階段落ちでは白塗りのおかげもあって完全に加トちゃんにしか見えませんでした! 当時と同じくらい笑いました。 風呂屋コントも、仲本工事が勢いよく番台から飛び降りた瞬間から大爆笑でした。そうそう、これこれ。いかりや長介の「もしも」から始まって、何度も湯船に突き落とされて、本当に疲れ切った様子で「だめだこりゃ」。懐かしすぎて、笑いながら泣きました。 2時間じゃ全然足りない。この5人で、もっといろんなコントを再現してほしかったです。これだけでもどれほど大変だったかは想像に難くありませんが…。 大爆笑して大号泣して大満足の2時間でした。 PR |
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