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いかに寝て起くる朝に言ふことぞ昨日をこぞと今日をことしと(小大君)
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『エール』(承前)

『鐘の鳴る丘』そして『長崎の鐘』から『栄冠は君に輝く』…。
戦争から立ち直れずにいた人びとが、少しずつ希望を手にしていくこの2週間は、毎日涙を禁じ得ませんでした。
裕一を音楽の道へ引き戻す池田を演じる北村有起哉。戦争で荒廃した日本をよみがえらせるため立ちあがった人間たちというのはきっと皆こんな生命力にあふれていたのだろうと思わせる熱量で、時間の針を未来へ進めていきました。久志へ語った「友達はいない」「人は裏切る」という、ただそれだけの言葉に、彼のこれまで歩んできた人生はきっと艱難に満ちていたのだろうと感じさせる説得力がありました。北村有起哉をはじめて観たのは確か大河ドラマで、自然と放たれる存在感に惹かれ、その後のドラマや映画でもつい彼を目で追ってしまうようになっていましたが、年々凄みを増しているような気がします。父親のことは知りませんでしたが、やはり血のなせるわざでしょうか。
そして、裕一の音楽がさらなる境地へ達したと言える『長崎の鐘』。吉岡秀隆演じる永田医師の口から紡ぎ出される言葉の重みは、確かにどん底を見た人間のそれでした。おそらく先は長くないであろう病の床から裕一へ投げかけた微笑みは、裕一の苦悩を理解し、受け止めたうえで、彼を地の底から光あふれる空へ導く慈愛に満ちていました。裕一は、自分の曲で戦意発揚する若者たちに興奮した罪悪感に苦しんでいましたが、戦後、音楽を贖罪の道具にしようとしていたことにもまた、罪悪感を憶えていたのかもしれません。永田医師が示した、裕一の目指すべき音楽の道。そして生まれた『長崎の鐘』の悲しくも美しい至高のメロディーは、原爆によって荒野と化した街に響き渡った希望の鐘の音そのものでした。第1話のオリンピック開会式会場で長崎出身の警備員(萩原聖人)が「『長崎の鐘』は生きる希望を与えてくれた」と語っていたのは、ここに繋がっていたのだなと、感慨深いものがありました。
裕一は戦禍の傷痕から脱却するきっかけをつかんだものの、立ち直れずに苦しんでいる人たちはなお存在していました。おそらく夏の甲子園の時期に放送予定だった『栄冠は君に輝く』の誕生エピソード。裕一の久志を思う気持ちの伝わるセリフと、それに揺り動かされた久志の歌声。アカペラから始まり、オーケストラの伴奏が重ねられ、甲子園で躍動する若人たちや客席の大観衆の映像を背景に、朗々と日本じゅうへ届けられた『栄冠は君に輝く』。コロナ禍の今だからこそ、すべての晴れ舞台を奪われた若者たちへ捧げるエールに聞こえました。戦後はじめて甲子園のない夏だった2020年。皆でスポーツを楽しめる日々が早く戻ってきてほしい。そんな思いにもかられました。
戦争から立ち直れずにいたのは、もうひとり。吟の夫の智彦さん。
元軍人というプライドが邪魔をして、なかなか新しい職につけずにいました。そんな彼が、本当に大切なものは何か気づき、妻と向き合い、戦争孤児のケンと絆を深めていく過程は、まるでこのお話だけで一本の映画ができそうなくらい見ごたえがありました。松井玲奈と奥野瑛太が作り出す凛とした空気感は、裕一&音の微笑ましさとはまるで異なりながらそれはそれで素晴らしく、このふたりに幸せな結末が用意されていたことには救われたような気持ちになりました。あさイチの面々も彼らが気になって仕方ない様子でしたね。そのくらい、この夫婦は魅力的だと思います。
戦中~戦後にかけての人びとの心情をここまで丁寧に描いた朝ドラは今までなかったのではないでしょうか。放送回数のカットに影響されなくて本当に良かったと思います。脚本家の降板やコロナ禍による放送中断など、放送前も放送中もさまざまなトラブルに見舞われましたが、それらを感じさせないほど近年まれに見るクオリティの高さです。ラスト一ヶ月、このまま最後まで目の離せない展開が続きそうです。










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