NHKドラマの出来が素晴らしかったので、映画はどんな仕上がりなのかと楽しみにしていたのですが、なかなかこれはこれで見ごたえある作品になっていました。 原作が長編なので二部作にしたのは良かったと思います。警察と記者クラブ、刑事部と警務部、地方と東京、それぞれの対立構造がきっちり描かれていて複雑な事情を抱える関係性がよくわかりました。ただそれを詳しく描いたがために、本題の64を模倣した誘拐事件以降のインパクトがやや薄かったように感じました。 その原因は、あくまで主人公である三上を中心に話を動かそうとしたところにあるのかもしれません。広報官である三上にとって、誘拐事件はあくまで部外者でした。追跡車両は誘拐犯を追うふりをしながら実は64事件の犯人を追っていたという真実がこの物語のクライマックスだったはずですが、三上が話の中心点である以上、そこからもう一段階話を進めなければいけなくなりました。この「原作とは違うラスト」と銘打ったエピソードは、原作とドラマを知っている者からすれば間延び感があり、はっきり言って蛇足でした。 刑事ばかりが注目されがちな警察ものにおいて、広報官という立ち位置から見た事件の描き方が新鮮で面白く、そして刑事出身でありながら広報官という職務に誇りを持って向き合っている三上が主人公だからこそ、この物語が魅力的になった理由です。犯人を追い詰め刑事に戻ってしまう三上では、部下や記者たちの信頼は勝ち取れないと思うのですが…。 まあ、佐藤浩市がカッコよかったからいいのですが。 そう、カッコよかったのです。ドラマのピエール瀧は、強面ゆえに広報官に抜擢され、父に似た娘が醜形恐怖症になるという設定がピッタリだった(よく見つけてきたなと思った)のですが、佐藤浩市ではやっぱりカッコいいし父親似を悲観するのは贅沢よ…。 それでも過去と家族と職務に真摯に向き合う三上の人物造形はドラマ版よりも深くて良かったです。 逆にドラマ版の方が良かったのは、広報室の面々でしょうか。広報がやりたくて警察官になる人はおそらくいないのではないかと思うのですが、その中でも諏訪は微妙な立ち位置です。血気盛んな記者たちを手なずけることのできる有能さと広報官への出世意欲をもった係長ですが、自分の仕事にプライドを持っているとともに、刑事から広報官になった三上を尊敬しながらも刑事部復帰への腰かけと見なしているのは、花形ではない広報室にコンプレックスを抱いているからのような気もします。そんな複雑な思いゆえに三上とは上司と部下以上の距離感は取らず、むしろみずからの感情からも距離を置くかのように新井浩文が演じた諏訪には独特の存在感がありました。三雲も蔵前もドラマ版の方がしっくりきました。あの見た目の一体感のなさが、警察官の組織ならではのように思ったのです。(しかし今思えばピエール瀧に新井浩文って…めったにないくらい良作だったのに…) それはさておき、雨宮を演じた永瀬正敏や松岡役の三浦友和も熱演でした。雨宮の執念と喪失感には胸が痛くなりました。犯人役は緒方直人でしたがあえて狂気を見せず、案外事件を起こすのは普通の隣人であるという描き方は逆に恐怖感をあおられました。それだけに、やっぱり最後がな…。 PR |
* カレンダー *
* 最新記事 *
* ブログ内検索 *
|