・最高の人生の見つけ方:★★★★☆観終わった後に、素直に、いい映画を観たなと思える作品ですね。ありきたりの設定(特に主人公2人の余りにも真逆のキャラ)と予定調和なストーリーですが、観終わった後は、死を扱う映画にも関わらず、爽やかで清々しい、そして温かい気持ちになれます。棺桶リストのほとんどは金がなければ現実にはできないことで、結局金がいるじゃないかと、僕みたいなひねくれ者は思うでしょうし、実際に2人の旅行シーンはあんまり面白くなかったのですが、「荘厳な景色を見る」(エベレストは結局この2人は天候が悪いかなんかで登れなかった)や「世界一の美女にキスをする」(「世界一」は主観)など、金だけではできないことを、きちんと終盤こちらに納得させる形で描写しているところが、この映画の素晴らしいところですね。しかしこういう観てて苦にならないいい映画に限って尺が短いですね。僕はラスト30分の伏線回収の時間は時計をまったく観ていませんし、頼むから終わってくれるなと思いました。詰め込みすぎだと言えないこともないですが、さりげない主人公2人の会話が、ああこういうことかと次々にわかってくるのがこの時間です。のんびりした雰囲気のくせに、言葉の1つ1つに意味があり、演出が巧みな映画です。まあ僕がこの映画で一番好きなシーンは、伏線とはあまり関係ない、エドワードの秘書の「出るべきです。」ですが。あと、主演2人は演技が上手いですね。当たり前ですが。文句があるとすればダサい邦題ぐらいでしょう。さや氏はこの映画をだいぶ前に観て、すごくいい映画だと言っていましたが、僕は邦題で敬遠し、観るのに時間がかかりましたから。・キャストアウェイ:★★★☆☆過酷な無人島生活から脱出し、恋人と奇跡の再会をする予定調和の映画と最初思っていて、その割にはえらい尺が長いなあと思っていましたが、無人島の孤独で過酷な生活と、生還後の主人公の苦悩(世界を羽ばたく仕事人間で、本来は時間効率ばかり気にしている主人公が、時間とは無縁の無人島で暮らしているうちに、時間は残酷に過ぎているみたいなことが言いたいんでしょう)と、両方描いているんですね。贅沢な映画です。ただ、両方面白くなくはないんですが、やや物足りないですね。まず、主人公の生還を聞いた恋人のシーンで、すでに旦那や子どもが映っているので、ロバートゼメキス監督、トム・ハンクス主演の映画で、突飛なラストはないでしょうから、主人公が「脱出しても社会に溶け込めない。愛する人もいなくなった。それでも強く生きていくんだ。」みたいな余韻を残すラストは予想できます。だから、生還後はちょっとだるかったですね。無人島での生活も描き方は、ややソフトな気がしますね。主人公は無人島で4年も生きていますから、あまりにも過酷に描くと4年生きることにリアリティがなくなりますから、難しいところですが。しかし全体的な感想としては、さすが巨匠、合格点は確実に超えてくる作品を作るなという感じです。オープニングでカップルで出た女性がラストに登場するんですが、1人身になっていて、それでも明るくたくましく生きているところなんかは、良かったですね。むしろ主人公の元の恋人よりこっちの女性の方が若くてかわいいですしね。もちろん主人公と結ばれる描写はないんですが、主人公のその後の人生にも必ず希望があるということが伝わります。・ファウンド:★★★☆☆ いやこれはとんでもない映画ですね。特に劇中映画の「HEADLESS」がとんでもなく悪趣味です。エロもグロも血も大丈夫な僕でも引きました。こんなくわせ物の映画がアマプラで普通に観れるのはダメだろとも思いました。絶対に他人に勧めることはできない映画です。DVDのジャケットに「イット・フォローズ」を超えたと書いてありますが、あんなわかりやすくて親しみやすい映画ではありません。共通点は青春映画という点だけです。ただ、描写は過激とはいえ、僕が青春映画と言い切るだけあり、主人公の心の動きや葛藤、そして成長(いい意味でも悪い意味でも)は、上手く描けていると思います。父や母の言動から、兄が鬱屈した黒人差別主義者の殺人鬼に育ってしまうのも一定の理解はできます。さらに、ラストでとんでもないことをする兄が、弟である主人公に告げた「いずれ感謝するはず」という言葉も、いい風に解釈すれば、兄が同じ境遇の弟に同情し、普段から何かと気をかけ、最終的には将来自分のようになるのを防ぐためにラストでとんでもないことをしたと解釈できないこともないです。兄弟愛という観点から見ればあの無茶苦茶なラストも不自然ではありません。なので、映画としての出来は悪くないと思います。僕は南大阪の泉州地方の団地出身で、この映画に出てくる大人のように表面だけ取り繕った綺麗事を言う人間は周りに1人もいなかったので、大人になった今は苦しんでいるのですが、少年時代はこの映画の主人公のように追い詰められてはいませんでしたね。ただ、主人公が兄に言う「殺してくれてありがとう」というセリフは理解もできますし、感動しましたね。もちろん殺すのはダメですが、主人公が綺麗事では何も解決しない状況であるのはわかりますから。主人公が、モンスターは誰なんだと苦悩しているのもよくわかりますし。兄貴は間違いなく頭がおかしいですしモンスターですが、それでも心が純粋すぎる、生き方が不器用なモンスターですね。イ制作費が8000ドルらしいですね。日本円にすれば100万円ぐらいですか。ここまで安い映画はちょっと記憶にないですね。なので映像はチープだし演技は全員下手だしあらゆる面で安っぽいです。映像はもはやホームビデオレベルです。それでも脚本とか演出など金のかからないところで頑張って、それなりに観れる作品にした制作陣はすごいと思います。・ファイティングファミリー:★★★★☆ この映画に僕が★4をつけているのは、僕がプロレスを好きだからでしょうね。同じプロレス映画でも、映画好きな人には僕はミッキー・ロークの「レスラー」の方を勧めます。どう考えてもあちらの方が映画としては圧倒的に上です。いや僕も「レスラー」の方が上ですが、この映画も普通に面白かったです。実際のプロレスの面白さや、プロレスラーがプロレスに対しての純粋な思いは、ちゃんと描いていますからね。プロレスを好きな人が観たら面白いことは間違いなしの映画です。ストーリーはありきたりなシンデレラストーリーです。ただ、そんなベタな話でも、実話を題材にしているからこそ、WWEのスターになることがどれだけ難しいことかをこちらが理解しているのですが、説得力があり、純粋に楽しめますね。兄妹でテストを受けて、妹しか受からなかったのも、ラストで家族全員が登場するので当然わかります。たぶんプロレスが好きじゃない人は、本物の主人公(ペイジ)がなぜスターになるのかが見ただけではわからないと思います。しかし物心ついた頃からプロレスを観ている僕はわかります。好きか嫌いかは別にして、注意を引くんですね。こういう人は何を言っても何をしても目立ちます。ルックスもまあまあだしプロレスも多少上手かったんんでしょうが、そういうのではありません。僕は今格闘家の朝倉未来のYOUTUBEをよく観ていますが、朝倉未来が特に好きなわけでもないし、飛び抜けて強いとも思いません。しかし最近のRIZIN(ライジン)でも、ほとんど朝倉未来の試合しか観ていません。そういうことですね。兄がスターになれないのはプロレスが好きじゃなくても一目みてわかりますが。兄が妹に嫉妬するのは、僕も兄妹で、わりと関係性も近いので、非常によくわかります。この映画でもプロレスの技術の巧拙は兄が上という設定だったように、僕も勉強や運動は妹よりできました。なので、この映画の妹も僕の妹も、兄を凄いと思い、いつも立てる関係なのですが、仲が良くてお互いを理解しているからこそ、兄は妹に、自分にはない能力があることに気づきます。そしてこの映画よりはスケールは小さいですが、実際に社会に出たら、僕より妹の方が稼いでいますからね。もちろん収入がすべてではないでしょうが、こうなるのは兄の僕は予想できていましたが、親は妹にはまったく期待していませんでしたし、わかっていませんでした。映画の両親もヒロインの秘めた能力はわかっていなかったでしょうね。なのでこの映画では、僕は兄に非常に感情移入しましたね。・孤狼の血:★★★★☆こういうヤクザ映画(洋画ならマフィア映画)は、スタイリッシュに描くか、男臭く描くかのどちらかになると思いますが、僕はあまり後者の映画は好きではなく、昔TVでたまたまやっていた「仁義なき戦い」もちょっと観てすぐやめましたし、哀川翔がよく出ているイメージのVシネマもまったく観ていません。そんな僕でもこの映画は良かったですから、かなり良い映画だと思います。キャラクター設定はベタですし、ストーリーもひねりのない展開です。独自の価値観で動くので拷問も放火も窃盗も暴力もセックスも何でもありな一匹狼の刑事大山に、最初はそんな大山の破天荒な仕事ぶりの処分を目的としていた県警の監察官である広島大卒のエリート日岡が、だんだん大山に感化されていき、心酔し、大山の魂を継いでいくみたいな、まあタイトル通りのよくある感じの映画です。特に大山が死んでからは、実は14年前の殺人は里佳子をかばっていたとか、日岡の日報を大山が添削したりとか、大山はすごくいい人だみたいな描写がすごいです。このへんは別に言われなくても最初からそういう展開になるのはみんなわかっているからいいんですけどね。まさに昭和の人情劇を観ているようでした。いやこういう昭和の人情劇も僕は嫌いなはずなんですけどね。桃子が実は大山に頼まれて美人局をやっていたみたいなラストもいまいちですし、日岡が一ノ瀬に五十子会長の殺害を仕向けて一ノ瀬自身を逮捕するのも理由がよくわかりませんでした。しかしそれでも面白いんですよ。だから面白いというのは、理屈じゃないんでしょうね。映像が80年代をよく表現できていたとか、暴力シーンに迫力があったとか、松阪桃李の演技が意外に良かったとか、色々あると思うんですが、映画の持つエネルギーそのものがすごいんでしょうね。こんな映画は女子どもにウケませんし、カップルで観る映画でもないですから、大ヒットは間違いなくしません。今はコンプライアンスもうるさいですし、この映画はその点でも問題だらけです。それでもこういう映画を作るということは、やはり制作陣にそれなりの信念があるのでしょう。・聲の形:★★★★☆ 満点評価ではないのですが、これはただの好き嫌いで、完成度という点では数年前に大ヒットした「君の名は」なんかより上でしょうね。いいシーンは言い出せばキリがないのですが、石田と西宮の関係が変化するたびに、この2人が池や川に飛び込むところなんかは、最もいいなあと思ったシーンですね。まあこの映画は雨も涙も含めて水を使った演出が秀逸ですね。あとは西宮がクラスの子と仲良くするのを諦めた時にノートを学校の池に沈めるところなんかは、ノートで他者と分かり合おうとするのがいいか悪いかは置いといて、素直に西宮を可哀そうだなあと思いましたし、病院で医者に何か言われて落ち込んだ次の日の朝に西宮が髪をポニーテールにしたところ(最後は普通に補聴器が見えていましたが)なんかも、あっこのタイミングでそうきたかと感心しました。この映画は障害やいじめが登場しますが、いじめた奴がひどい目にあっていじめられた奴が幸せになる勧善懲悪物でもなく、障害者との心の触れ合いを描いた感動ポルノでもなかったところも良かったです。たぶん人と人とがお互いに分かり合うのは難しいなあ、いや、自分のことを理解することも難しいんだよ、それを前向きに努力することで人は成長するんだみたいなことを言いたいのでしょうね。いや他人と分かり合うのは、もちろんこの映画と同じく人の性格、価値観、倫理観はバラバラですし、お互いに分かり合おうと思わないとダメなので、現実では、他人とうまく適度な距離を取る人が、人間関係が上手い人となりますし、このテーマも決して好きではないんですが、そういうテーマだからこそ、キャラクター設定が緻密で、心情描写にもこだわりを感じました。ただ、人物設定が細かいからこそ、あまりにも登場人物が生々しすぎるのはある意味難点ですかね。特に保身に長けていて他者へのあたりも柔らかい川井なんかは最も嫌いなタイプですが、実際の社会ではこのタイプが一番多いので、出るたびに現実に置き換えてしんどくなりましたね。僕は自他共に認める植野タイプなので、植野に感情移入して観ていましたが、植野を見ているとあまりにも自分を見ているようでこれもまたしんどかったですね。ただ、植野がラストで手話を覚えて、ちょっと西宮に擦り寄っていったのが残念ですね。自分の価値観と違うものは絶対に受け容れず、さらにそれを表に出し、他者との争いも厭わない正直さが、植野の良さですからね。ちなみに他人をいじめる攻撃性があったくせに孤独になったらしょぼくれて自尊心が低くなる生き方に一貫性のない石田と、とりあえず謝っときゃいいだろう、笑っときゃいいだろうである意味人を舐めている西宮の、主人公ヒロインコンビはあまり好きになれなかったですね。あと、西宮が石田をなぜ好きになったかがまったくわかりませんでしたね。植野も明らかに石田が好きですから、石田がモテモテのイケメン設定なんですかね。しかしイケメン設定は真柴のような気がしますね。西宮がクラスメイトの前で初めて手話を披露した時に、石田だけ席で手話のまねごとをしていたからですかね。しかし恋愛映画ではないですし、これはどうでもいいことなんでしょうね。
・モリーズゲーム:★★☆☆☆ ハリウッド映画の僕が嫌いなところがすべて詰められたようなつまらない映画でしたね。ただ、あくまで僕が嫌いというだけで、尺が長い割に展開が早く観るのに苦痛はないですし、素直に物事を見ることができる人はこの映画は好きでしょう。決して作品として出来が悪いわけではないです。主人公のモデルである人が書いた本を題材にした実話ベースの作品なので、主人公は清廉潔白な生きざまで、人に裏切られても自分は決して裏切らない素晴らしい人格者のように描かれています。僕がこの作者ならこんな映画を作ってくれたら、嬉しくて仕方がないでしょうね。周りに吹聴しまくるでしょう。しかしいくら頭が良くても、命の次に大事な金を賭けるポーカールームの経営者は、清廉潔白な人間では無理です。これはもう言い切れます。僕も若い頃は刹那的にギャンブルをしていましたし、金を人から取り立てるような仕事もしていましたからね。主人公がFBIに顧客の情報をバラさず裁判で自ら有罪をアピールしたのは、顧客の家族を救いたいからではなく、間違いなく顧客の復讐が怖いからでしょう。みんな社会的成功者なので金と人脈で何をされるかわからないし、そこは確かに怖いですからね。ちなみに心理学者の父親の分析によると、主人公は、厳しいだけで愛情のない父に対するトラウマから、権力のある男を支配したいのでポーカールームの経営者になったと説明していましたが、そんなわけないだろと思いました。主人公は、たまたま手伝っていたポーカールームで仕事の流れを理解し、顧客さえ手に入れれば間違いなく儲かるとは思ったんでしょう。理由は金稼ぎでしかありません。まあ、もちろん自分はオリンピックで挫折したから、父や社会的成功者である弟を、金持ちになって見返したいというのはあったかと思いますが。そもそもラスト付近で、主人公が裁判前で精神的に不安定になっている時に、疎遠であった父親が主人公を訪ねてきて、父娘が和解するシーンがあるのですが、父の、主人公に不倫現場を見られたことがあるから素直に愛していると言えなかったという下世話な告白もしょぼいですね。こんな父が100%悪い理由で、弟と較べ自分を素直に愛せなかったと言われても、僕ならよけい父を嫌いになっています。ちなみに父娘の関係の修復を強調したいからか、終盤になっても母親は一切登場しません。これでは母親が普段は優しくてもピンチの時には見放す冷たい奴みたいですし、不自然ですね。そして、主人公が依頼する弁護士の娘が、なぜかオフィスにちょいちょい姿を現し、理想の父娘関係をアピールしてきます。そして主人公は父親に対するトラウマから男を信用していない設定ですから、この弁護士が自分を必死に守ってくれている姿にもとまどいを隠しきれていません。さらに、弁護士が主人公の依頼を受けたのも自分の娘が主人公をかばったことがきっかけだそうです。もちろんいくら実話ベースとはいえ、この弁護士絡みの部分がすべて創作なのはさすがにバカな僕でもわかりますが、実話ベースの作品にこういう薄っぺらくわざとらしいエピソードを加えると冷めてしまいますね。