『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』
開始直後は、「風変わりな弁護士とそれに振り回されるパラリーガル」というありがちな設定なのかな…と感じましたが、そこからのキャラ印象は二転三転。パワハラをめぐる一連の事件の真相も二転三転。導入にしてはちょっとわかりにくい作りのような気がしましたが、中村倫也と有村架純の軽妙なやりとり、両者いわくありげな過去を背負っているらしい表情の揺らぎが絶妙で自然と惹きこまれました。 初回ゲストかと思いきや法律事務所のアルバイトとなった赤楚衛二は、『SUPER RICH』同様に「年下男」感満載で、女心をくすぐります。石子に対して敬意以上の感情を抱いているかのように匂わせていますが、羽男と三角関係…なんてベタな展開にはならない気がします。 そもそもこのドラマ、「ベタ」に見せてベタでない設定ばかりです。 羽男はフォトグラフィックメモリーの能力で司法試験を一発合格していますが、それだけ優秀な能力がありながら自分を大きく盛るクセがあったり、プラン通りにいかないとパニックになったりするという欠点があり、家族とも距離があるようです。 また石子も東大卒で頭もキレるしっかり者ながら、司法試験に4回落ちている「崖っぷち」。今度落ちたら終わりという局面で、「もう受けない」という選択をしています。今は一緒に暮らしている父親とも一度別離しており、石子も羽男も育った環境に問題を抱えているというのが共通項ですが、それが今のふたりの置かれている「こんなはずではなかった」状況につながっているようです。 喫茶店での充電やパワハラ、子どものゲーム課金と親ガチャというトレンドの問題を法律に絡めて取り扱いながら、主人公たちの過去をあぶり出していくという展開は、軽いようで重い、共感性の高い作りになっていて興味深いです。 『初恋の悪魔』 一見意味を持たないような言葉の応酬に含みを持たせる、相変わらずのクセ強め。『Mother』や『それでも、生きてゆく』の頃の坂元裕二はどこ行った、と言いたくなります。 殉職した兄に対する劣等感に蓋をして現状に満足していると主張する警察事務官・悠日、停職中の変人刑事・鹿浜、刑事課の渚に想いを寄せる会計課・小鳥、生活安全課の刑事・星砂。4人の主要人物の会話と人間関係が複雑に絡み合う、『カルテット』や『大豆田とわ子』のようなテイストです。 タイトルが意味深。どうやら鹿浜が星砂に人生はじめての恋をしている様子ですが、悪魔とは何なのか、誰なのか。隣人に殺人者疑惑を勝手にかけて盗撮しているハサミ愛好家の鹿浜は異常ですし、いつもスカジャン姿でぶっきらぼうな星砂も、自分の知らない間に購入している高価な靴やバッグをクローゼットに隠しているという二重人格らしき設定があるうえ、「誰かに殺された」らしい悠日の兄のスマホを持っていることが二話のラストで判明しました。恋する渚に手柄を取らせようと、警察官でもないのに事件の真相を探ろうとする小鳥は一見害がなさそうですが、「警察が嫌い」という言葉には裏がありそうです。 そしていちばん害がなさそうで、ものすごくありそうなのが悠日。両親に兄と比較して馬鹿にされても一緒になって笑い、婚約者が自分の浮気を「オープンマリッジ」とうそぶいても会話を録音されていてもニコニコ笑って受け入れてしまうほど自己肯定感が低く、心の中に渦巻く嫉妬と怒りをずっとひとりで抱えて生きていきました。兄弟間で起きた殺人事件によって呼び起こされた悠日の後悔は、兄の最後の電話に出なかったことでした。はじめてその気持ちを星砂に吐露し、彼女に促されてようやく亡き兄の言葉に応え、涙します。ひとつ自分の中にあった重しを取り除いた悠日は、「このままでいい」から一歩脱却していました。そこだけ切り取れば感動的ですが、これで親や婚約者の威圧から容易に逃れられるような平面的なキャラとは思えません。人畜無害なはずの悠日に、署長は兄を殺した疑いをかけています。そう思われてもおかしくない、多面性を持った人間でもあるということです。 「ミステリアスコメディー」という謳い文句から、兄を殺した犯人探しと並行して1話1事件の考察と、それぞれの恋のゆくえを描く進行でしょうか。「クセが強い」「セリフがクドイ」とぶつぶつ文句を言いながらも、ついつい観てしまって気がつけば1時間経っている。それが坂元裕二の魅力ならぬ魔力です。 PR |
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