『お母さん、娘をやめていいですか?』
大胆な花柄ワンピースとつば広のお帽子、鼻にかかった甘い声。そんなファンシーアラフィフ毒母姿が似合うのは斉藤由貴だけ。『真田丸』の阿茶局といい、悪女役がすっかり板につきました。 ただ顕子は悪女というより、魔女。毒リンゴをミキサーにかけ、にっこり笑って娘に差し出すような、聖母の衣装をまとった魔女です。 太一によって長い眠りから目覚めた美月ですが、何度も母からの決別を誓っては揺れ、誓っては揺れます。顕子の差し出すリンゴに、愛情がたっぷり塗られていることを知っているからです。たとえそれが毒とわかっていても、齧らずにはいられないのです。 娘だから。 生まれた時からそばにいるから。 そのリンゴを齧り続けて、母も自分も生きてきたのです。母を否定することは、今までの自分の人生を否定すること。それはとても勇気のいることです。だから美月もあと一歩がなかなか踏み出せません。 ともすればやきもきさせられる美月の優柔不断さですが、娘の母になることはもうないにしても、母の娘である以上、美月の心は痛いほどにわかります。もちろん、顕子ほどの毒を味わったわけではありませんが。母たる生き物は、多かれ少なかれ、娘に対して愛情を塗った毒リンゴを手に持つようにできているのかもしれません。 そして顕子もまた、母の娘であり、母から渡された毒リンゴを齧り続けてきました。しかしその母はもういない。せめて突き返すきっかけがあったならば、毒を食み続けることもなかっただろうに。美月への愛のリンゴに毒を塗っていたことにも、もっと早く気づけたかもしれないのに。 毒リンゴを投げ捨てた美月の革命は、周囲の心も動かしました。ことなかれ主義の父親は会社を辞め、インドネシアでの再起を決意し、同じく毒母を持つ登校拒否ぎみの生徒は家を出ることになりました。そして顕子も、亡き母と娘への執着から脱却し、夫のもとへと旅立っていきます。 それぞれの未来に向かって広がる、青い空。毒リンゴを吐き出して目覚めた白雪姫が最初に見たのも、きっとそんな風景だったに違いありません。 さすが実力者・井上由美子の作品だけあります。あやういバランスの上に立つ顕子と美月の対峙は、毎週、背中がチリチリするような緊張感でした。ふたりの関係を表す衣装から小道具に至るまで、丁寧に作りこまれた良作だったと思います。 『スーパーサラリーマン佐江内氏』 「絶対、原作はこんな話ではないだろう…」と思いつつ、毎回大笑いしてばかりの全10回でした。 あらゆるドラマで常にカッチョ良かった堤真一ですが、ちゃんと冴えないサラリーマンになりきっていて、しかも回を追うごとに、ムロツヨシや佐藤二朗の無茶ぶりにリアクションできるようになっていました。佐藤二朗との場面はオールアドリブだったと聞きましたが、賀来賢人・早見あかりをまじえた居酒屋での場面では、全員素で笑っていましたね。この佐藤二朗のくだり、毎回必要なのか? と思っていたら、まさか最終回であんな秘密が明かされようとは。キャプテンマンといいながら、色違いなだけでまんまバードマンのコスプレやん。 最終回は、菅田将暉が大々的な予告のわりにあまり見せ場のないゲストでしたが(山崎賢人以下と貶められるし)、鬼嫁キョンキョンがやっぱり夫ラブなところを見せてくれました。いまや、ツンデレ嫁を演じさせたらキョンキョンの右に出るものはいないでしょう。あんなムチャクチャで理不尽な家庭もありませんが、それでもなんだかほっこりしてしまう、左江内家でした。 毎回ちょっとした小ネタが隠されていて気楽に楽しめるドラマでした。ぜひスペシャル版や続編を作ってほしいです。ムロツヨシのスピンオフもぜひ地上波で放送を。 しかし、本当に原作はどんなオチだったのだろう。原作ファンは怒りはしなかったのだろうか…。 PR |
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