『カルテット』
最後まで坂本裕二ワールド満開で、惹きこまれました。 唐揚げレモン論争に始まり、微妙な男女の関係、複雑な過去からの脱却、回ごとのエピソードに添えられた印象的なセリフの数々。とくに巻夫婦の悲しい決着には、言葉のひとつひとつが心に深くしみわたりました。松たか子と宮藤官九郎の一見アンバランスなようでいて、いかにもありそうな夫婦の出会いから別れまでの日々が回想を通して語られた回では、夫婦とは何かを改めて考えさせられました。 深く感動させられるわけでもない、大笑いして楽しくなるわけでもない、大きな事件や謎が解明されるわけでもない。カルテットの面々は相当いろんな過去を抱えていて、相当変わった人たちだけれど、描かれている日常の揺れ幅はなぜか大きくない。それは彼ら彼女らが、今にしっかり足を着けて立っていて、ブレない人間だからのように思います。音楽を、カルテットを、未来を信じる力があるから、仕事を失っても、傷ついても、スキャンダルに見舞われても、仲間が逮捕されても、ブレずにその場に居続けることができるのです。見ている側も、頑として動かないその視点があるから、淡々とカルテットの日々を追い続けることができました。坂本作品の居心地の良さは、そこにあるのだと思います。 最終回前のラストにヤマ場を配置して、最終回本編自体はその後の日々を平板に描く手法は、『問題の多いレストラン』同様でした(こちらは回数削減のためだったのかもしれませんが)。結局、真紀は義父を殺害していたのか? 意味深なセリフ「こぼれちゃった」とは? 『死と乙女』の楽曲の意味は? 解決されていない謎もいくつかはあるものの、カルテットの未来を暗示する爽やかなラストの前に、「まあいいか」と放置することにしました。しょせん、人の日常なんて、「まあいいか」のくり返しですから。 『東京タラレバ娘』 だいたいの展開が読めて、ラストも予想の範囲内を超えることはありませんでしたが、既視感も退屈感もそこまで憶えなかったのは、ひとえに主役の三人娘が、誰もが共感できる不器用な女性たちをいきいきと演じていたからでしょう。 いつの間にか独り身の自由に慣れ、理想の恋人との生活に踏み切れなかった倫子。惚れた弱みで元カレのセカンドに甘んじる香。卑劣と知りながらも不倫の恋に溺れてしまう小雪。 どこにでもいる、というと語弊があるかもしれないけれど、もしかしたら自分もそうなっていたかもしれない、そうなるかもしれないと思わせるようなアラサーの描き方でした。 吉高由里子は、勝気な女刑事やインテリ翻訳家よりも、こういうナチュラルな役柄が似合っていますね。榮倉奈々はやけにふっくらしたな、髪型のせいかなと不思議に思っていたら、妊娠していたそうな。妊娠疑惑が晴れて彼に「よかった~」と言われるとは、役の上とはいえなんとも複雑。パパになる人は別ドラマではっちゃけていましたが…。大島優子は女優としてもやっていける技量を持っているとはかねがね思っていましたが、今回も元アイドルの肩書を忘れてしまう好演でした。三人の中でいちばんしっかりしているようでありながら、実は心弱さを抱えており、既婚男(これも田中圭の見事なクズっぷり)につけこまれるも、男の妻の出産をきっかけに立ち直りますが、香が金髪男に背を押されてセカンドから脱却した一方で、己の心弱さをみずから断ち切るその流れを自然に演じていて、好感が持てました。 タラレバ女たちを一刀両断するKEY役の坂口健太郎は、『とと姉ちゃん』の好青年のイメージが強すぎて、まるで異なる金髪イヤミに違和感があったのですが、回を追うごとにどんどんカッコよく見えてきて、最後の泣き姿には胸キュン(死語)でした。鈴木亮平も理想的ないい男でしたし、倫子モテすぎやろ…。 アラフォーバージョンも公開されているようですが、こちらも何やら気になるキャスティングですね。 『べっぴんさん』 年明けからのさくら祭りにはウンザリしてしまいました…。 正月早々の「ぜんざい作り直して!」発言から始まり、ヨーソローを巻き込むごたごた、入社をめぐるひと悶着、結婚&妊娠、最後にはすみれ激似の藍絡みのエピソードまで、最初の一週間の超高速展開は何だったのかと思うほどの堂々めぐりの超スローペースには肩の落ちる毎日で、最後はほぼながら見でした。ヨーソローの二郎ちゃんをめぐる恋のさや当て回での立ち回りには悪意すら感じ、さくら役の若い女優さんに同情を憶えるほどでした。ひとり娘の藍に手を焼いての「ひとりっ子だからこらえ性がない」発言には、「おまえが言うな!」と全視聴者がつっこんだであろう。 さくらは私の母と同じくらいの生まれですが、もし自分の母親がこんなふうに描かれたら、いくらフィクションでももはや抗議ものですよ…。 さくら関連以外でもツッコミどころは枚挙にいとまがありませんが、そんな中にも光る部分はあるもので、ゆりの鮮やかな生き方、潔の貫禄すら漂う存在感、栄輔の丁寧(でイケメン)な立ち居振る舞い。紀夫演じる永山絢斗は、兄(瑛太)と似ているようでいて異なる魅力を持ついい俳優さんになりましたが、最後はもぐもぐ食べている姿がかわいかったので、まあ…。 そしてすみれたちの晩年は、シワシミひとつないお肌にもかかわらず、自然に老いを感じさせる見事な所作だったと思います。 これらも結局、破綻しまくりの脚本を補填するにはさすがに及びませんでしたが。 芳根京子は一貫して真摯にヒロインを演じていて素晴らしかったです。序盤、戦地から帰らぬ夫を想い、娘を負いながら「淋しいね…」と丘の上で流す涙の美しさには、胸を打たれました。 土村芳ははじめて見ましたが、黒木華に続く古風な香りのする女優さんとして、これからもNHK御用達となりそうな雰囲気を持っていました。ももクロちゃんも、こんなにお芝居がうまいとは思ってもいませんでした。四人娘の中では突出していたように思います。 明美さんは唯一庶民の出で、お嬢様たちの趣味が高じて商売となったキアリスの中でも異質な存在でしたが、最後までその異質さが際立っていて、クローバーのひとつになりきれていなかったように思いました。谷村美月はキャリアにかかわらず演技力が乏しく、四人の中ではただひとり作品の質を落としていたように思います。明美はお嬢様たちとは出自が異なるため常に三人から一歩引いていましたが、ベビーナースとしての経験や知識はキアリスには欠かせないものであり、それを引け目と感じさせない存在感を放たなければなりませんでした。しかしその一歩引いた姿勢にはいつまでたっても三人との距離しか感じさせず、もう少し明美の秘めた強さとやさしさをしっかり演じることのできる女優さんであれば、こんなにも違和感を憶えることもなかっただろうにと残念でなりません。 「なんか、なんかな~」と言っていたらとんとん拍子にお店が大きくなっていった(だけではなかったはずだが、そういう風に描かれていた)、という流れは、「ええ~どうしよう~」と困っていたらお医者さんになれた『梅ちゃん先生』と通じるものがありました。 思うに、脚本家はお嬢様が嫌いだったのでしょうかね…。 PR |
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