posted by さや
at 11:38:59 │EDIT
フィギュア競技最後を飾る女子。SPは、2番滑走のAINアデリア・ペトロシアン選手が予想どおり高得点を出し、ずっと暫定1位席に座り続けることに。
中井選手が登場したのは第4G1番滑走。いきなり3Aを成功させました。続く3Lz+3Tも成功、高い加点を得ます。最後の3Loも完璧に決め、スピン・ステップもすべてレベル4。ジャンプを着氷するたび笑顔が増し、初出場とは思えないほどのびのびした演技を披露しました。その得点はPBの78.71点。暫定1位に躍り出ます。
いよいよ最終G。最初に登場したのはアリサ・リュウ選手。団体戦ではややミスのあったSPですが、この日はコンビネーションに回転不足がついた以外はほぼ完璧。しっとり穏やかに演じ切り観る者を魅了しました。PBの76.59点も中井選手は抜けず。暫定2位となります。
続いて同じアメリカのイザボー・レビト選手。ふわりと柔らかいジャンプと美しいスケーティングは健在。しかし回転不足とレベルの取りこぼしがあり、得点を伸ばせません。
続いてジョージアのアナスタシア・グバノワ選手は、終わってみれば上位ではペトロシアン&中井両選手とともに唯一回転不足を取られないジャンプでPBを更新します。
そして、坂本選手がリンクイン。
男子やペアの選手がミスする姿に、「怖い」「毎日泣いている」と不安を隠そうともしませんでした。最後のオリンピック、金メダルに賭ける思いは誰よりもあったでしょう。表情は硬く、緊張感は隠し切れませんでした。それでも最初の3Lz(!は付いたものの)を着氷すると、2Aはプロトコルにほぼ5が並ぶ素晴らしいジャンプに。スケートの伸びは最後まで欠けることなく、最後のスピンを終えると何度も大きなガッツポーズを繰り出しました。しかし3-3で回転不足を取られ、0.64点及ばず暫定2位となります。は? 回転不足? どこが? なんで?
続いてアンバー・グレン選手。最初の3Aは2点以上加点のつく素晴らしいジャンプに。感動したのも束の間、最後の3Loが2回転になり、0点となってしまいます。あまりにも痛すぎるミスに、キス&クライで涙するグレン選手。メダル候補だっただけに、さらには個人的に応援していた選手だけに、にわかには信じられませんでした。暫定12位の低得点にどよめく会場。
最終滑走は千葉選手。やや異様な雰囲気の中でしたが、浜田コーチの思いきり身を乗り出してのおでこゴツンに表情がやわらぎました。GPF以降、全日本でも不安を抱えたような硬い演技が続いていましたが、この大舞台で千葉選手らしさが戻りました! 最初の3-3はやや詰まって回転不足を取られたものの、残りのジャンプもすべて着氷。スピンもステップも音楽に乗り、会場を沸かせます。最後のスピンはオール5!!! 演技構成点も高い評価を受け、74.00点と暫定4位となりました。
日本の3選手がいずれも個性を発揮し、高得点を得たSPとなりました!
いよいよ、運命のFS。
まさかの第2G滑走となったアンバー・グレン選手。今日も3Aは大きな加点のつく素晴らしさ。続く3-3も見事に決めます。どんどんボルテージが上がる観客席。その拍手に背を押されるかのように、グレン選手は羽ばたきました。スケール感たっぷりのスケーティングに高くて大きなジャンプ。これぞアンバーのスケート! 最後の3Loで手をついてふっと微笑むも、スピンを終えてのフィニッシュはいつもの凛とした彼女でした。147.52点の高得点をたたき出します。
第3Gも見ごたえある演技が続きました。ソフィア・サモデルキナ選手やニーナ・ペトロキナ選手のノーミス演技。イ・ヘイン選手の感情豊かなステップ。イザボー・レビト選手は最初に転倒しながらもしなやかなスケートを見せてくれました。怪我から復活のルナ・ヘンドリクス選手はパーフェクトとはいきませんでしたが、まだまだ滑る姿を見ていたい演技でした。
そして、最終Gの滑走です。
衣装の背中が印象的なグバノワ選手。3Lzのステップアウトで減点を受けるも、抒情的な表現力が素敵でした。
ペトロシアン選手は女子で唯一の4回転にチャレンジします。冒頭の4Tで転倒したことで次のジャンプは3回転に変更。しっかり着氷し、その後は確実に加点を重ねます。4年前、時代を席捲したロシアも今回出場者は1人。しかもはじめての国際大会。今のロシアのスケーターがどのような演技をするのか、興味がありました。感想としては、「やっと私の好きなフィギュアに戻ってくれた」です。4年前の北京、まだ幼さの残る少女たちの技術力は確かに凄まじかった。ただ、フィギュアに限らず、オリンピックは選手たちの夢の舞台で、彼ら彼女らの生きざまを表現する場所のはず。彼女たちからそれは感じられませんでした。フィギュアへの愛も、日々の苦しみも、その体温すら感じませんでした。技術は進化していくべきだ、ただこれは正常な進化なのだろうか。悶々としながら応援する、そうしたタイミングでの転機でした。北京以降の4年間、ロシアが排除されたフィギュア界は、高難度ジャンプだけではないスピードやつなぎの濃さといった技術力と、音楽を表現しながらみずからの個性を発揮する芸術性、両方を備えた選手が高く評価を受ける方向へ舵を向けました。ロシアのスケーターたちは、それらを習得する前に引退を強いられるのです。それが正常な状態であるはずがない。
ペトロシアンも、もし何ごとも起きなければきっとオリンピックには出ることなく、ただ消費されるだけの選手だったでしょう。
技術力はさすがでした。身体能力の高さはずば抜けているし、スケートも上手い。ただ、やっぱり、ここ最近のフィギュアを観ている身からするともの足りない。今のフィギュアの潮流から乖離したロシアのスケート界の現状を垣間見た気がしました。
4回転を決めて高得点を得ていたら結果はわかりませんでしたが、グレン選手を抜くことはできず暫定2位に。
ペトロシアン選手の得点が出るまで、やや時間を要しました。次に滑る千葉選手への影響は果たしてなかったのかどうか。
今日もコーチとルーティンをこなし、開始位置へ。最初の3F-3Tを着氷し、続く3Lo、3S。全日本でも意識して見えた2本のジャンプをしっかり決め、「よしっ!」と、拳に力が入ります。なめらかなスケーティングも美しいポジションのスピンも、最後まで千葉選手らしさは失われませんでした。3つの回転不足で得点は伸びを欠くも、合計はPBの217.88点。暫定1位に躍り出ます。
続いてはSP3位のアリサ・リュウ選手。『マッカーサー・パーク』の音楽が始まると、そこはもうアリサの世界。彼女の魅力がスケートの軌跡からこぼれるようにリンクを満たしていきます。スケートが楽しい、観客と一体になるこの瞬間が楽しくてたまらない。そんな声が聞こえてきそうな、こちらもしあわせになる4分間でした。競技前、「メダルはいらない」と豪語していたリュウ選手。それは偽らざる本音でしょう。北京以降、さまざまな経験を経てリンクに戻ってきた彼女は、メダルにも国の威信にも縛られない、自由なスケートを手に入れていました。こちらもオリンピックのメダルマッチであることを忘れるほどののショータイムでした。
高得点で千葉選手を抜き首位に立ちます。
坂本選手の顔はあきらかにこわばっていました。それでも中野コーチに力強く送り出され、『愛の讃歌』が鳴り始めると、一瞬で柔らかい表情に変わります。
まるでメロディーを奏でるかのような流れのあるジャンプ。スピンやステップのみならず助走すらも表現のひとつになる、濃密で雄大、それが坂本花織のスケート。
途中ですでに泣いていました。まさに集大成と感じる演技に、もう坂本選手が頂点に立つことを信じて疑わなかったのです。
ところが後半の3F-3T。3Fの着氷がうまくいかず、3Tにつながりませんでした。最後の3Loにコンビネーションをつけるのかという実況には、リカバリーをほとんど見たことがないだけに不安になりましたが、坂本選手はそれを選びませんでした。最後のスピンを完遂し、フィニッシュポーズを解いた坂本選手は複雑な笑顔で何度かうなずきました。しかしリンクサイドに戻ってくると、中野コーチの肩に顔をうずめて涙。
得点源であったはずのコンビネーションが単独となった3Fは、リピート扱いになってしまいます。リカバリーできていたら…1Tだけでも付けられていたら…いろいろ考えが渦巻きました。解説の鈴木明子さんが、「3Loにコンビネーションをつけたら後のスピンに影響するからできなかった」と言いました。坂本選手のプログラムは、そんな余白など残されていない、最高密度を全力疾走で駆け抜けなければならない4分間だったのです。坂本花織は最後まで坂本花織であろうとした。そしてそれこそが、表現者としての矜持だった。
演技構成点は唯一9点台を並べる高得点でした。1本ジャンプが抜けても合計は224.90点。しかしリュウ選手には1.89点及びませんでした。
最終滑走は中井選手。てっきりプレッシャーを抱えているのかと思いきや、まったくそれを感じさせない笑顔でリンクイン。今日もイキイキと滑り始めた中井選手、今日も3Aを見事に成功させました! しかし続く3-3は2本目が2回転に。それでも最後までのびのびあかるく、中井選手らしさを失いませんでした。
フィニッシュ後、片手を口元に当てて首を傾げるなんとも可愛らしい仕草を見せましたが、3Aはともかく他の部分で成功した確信がなかったのでしょう。実際、回転不足もあってFSの得点は9位。会場からはブーイングのような声も響きました。中井選手もコーチも無反応。まあまあ、仕方ないか…そんな様子に見えました。ちょっと! 横に「3」ってあるよ!
気づいたのは数秒後。「あれっ、3位?」と中井選手が確認を求めたのは1位席にいるリュウ選手。「そうよ、あなたが3位よ!」の答えに思わず飛び出した中井選手。コーチそっちのけで抱き合うふたり。リュウ選手は、笑顔いっぱいの中井選手の両手を高く掲げました。ひとりそっと涙を拭う中庭コーチ。美しい光景でした。
歓喜の一方で、その隣には悔し涙がありました。4位に落ちてしまった千葉選手。肩を落として後ろへ引き上げていく姿がちらりと映りました。その画面の中心には泣き崩れる坂本選手。
中井選手の演技中、こらえきれない千葉選手と坂本選手が抱き合って泣いていました。言葉もなく、ただ涙を流すだけだったと後で語っていました。外から見た限りでは、メダルは無理だと悟った千葉選手を坂本選手が慰めているようにも映りますが、金メダルを逃した坂本選手の無念さに千葉選手が共感したゆえの涙という想像もありますし、互いに完璧とはいかなかった演技を悔やむ一方やりきることはやりきったというないまぜの感情も垣間見えます。外部が理解することは不可能ですし、その心中をうまく言語化することは本人たちにもできないように思います。
日本人が2人もメダルを取ってすごくうれしい、けれど同時にとても悲しい。こちらも両方の涙を流すのみでした。
表彰台、ともすれば涙こぼれる坂本選手。それでもリュウ選手を讃え、メダルにぬいぐるみを固定してあげる姿がありました。中井選手をからかうように頬をつまんだり、カーペットにひっかからないよう声をかけたり、銅メダリストに任されるセルフィーを代わってあげたり、気配りを忘れないいつもの坂本選手でした。だからこそ、いちばん高い場所に立ってほしかったと思わずにはいられませんでした。それでもやはり、今回はリュウ選手が素晴らしすぎたと言わざるをえません。その出自まで詳らかに報道されて思うところがないとは思えませんが、すべてが自分の人生の物語の一部であり、その作者はあくまで自分だ。誰にも何にも惑わされない、解放感にあふれていました。自分の金メダルより先に中井選手を祝福したのも彼女らしいし、それが彼女の生き方。
「スケートが好きだ」という気持ちが伝わるスケーターが金メダリストになったオリンピックで良かったとも思います。もう「からっぽ」なんて言葉は聞きたくありません。
なごやかな表彰式のあとは、終わってしまった喪失感とともに、しあわせな時間を過ごすことができた満足感がありました。日本選手3人とも、ベストを尽くしました。もちろん悔しい思いもあるだろうけれど、2・3・4位とは過去に類を見ない好成績です。しかも国内にはまだまだ代表クラスの選手がいます。坂本選手が現役を去っても、日本選手が世界のトップを席捲し続けるであろうことは間違いありません。4年後、千葉選手も中井選手もオリンピックに出られるとは限りません。それでもまた、ふたりがリベンジを果たすところを観てみたい。そう願わずにはいられません。
試合後のSNSで、涙する千葉選手に寄り添うグレン選手の写真を目にしました。また、泣いている坂本選手を撮影しようとしたカメラクルーから守ってくれていたことも知りました。ありがとう、アンバー。演技も人柄も、本当に素敵です。
中井選手が登場したのは第4G1番滑走。いきなり3Aを成功させました。続く3Lz+3Tも成功、高い加点を得ます。最後の3Loも完璧に決め、スピン・ステップもすべてレベル4。ジャンプを着氷するたび笑顔が増し、初出場とは思えないほどのびのびした演技を披露しました。その得点はPBの78.71点。暫定1位に躍り出ます。
いよいよ最終G。最初に登場したのはアリサ・リュウ選手。団体戦ではややミスのあったSPですが、この日はコンビネーションに回転不足がついた以外はほぼ完璧。しっとり穏やかに演じ切り観る者を魅了しました。PBの76.59点も中井選手は抜けず。暫定2位となります。
続いて同じアメリカのイザボー・レビト選手。ふわりと柔らかいジャンプと美しいスケーティングは健在。しかし回転不足とレベルの取りこぼしがあり、得点を伸ばせません。
続いてジョージアのアナスタシア・グバノワ選手は、終わってみれば上位ではペトロシアン&中井両選手とともに唯一回転不足を取られないジャンプでPBを更新します。
そして、坂本選手がリンクイン。
男子やペアの選手がミスする姿に、「怖い」「毎日泣いている」と不安を隠そうともしませんでした。最後のオリンピック、金メダルに賭ける思いは誰よりもあったでしょう。表情は硬く、緊張感は隠し切れませんでした。それでも最初の3Lz(!は付いたものの)を着氷すると、2Aはプロトコルにほぼ5が並ぶ素晴らしいジャンプに。スケートの伸びは最後まで欠けることなく、最後のスピンを終えると何度も大きなガッツポーズを繰り出しました。しかし3-3で回転不足を取られ、0.64点及ばず暫定2位となります。は? 回転不足? どこが? なんで?
続いてアンバー・グレン選手。最初の3Aは2点以上加点のつく素晴らしいジャンプに。感動したのも束の間、最後の3Loが2回転になり、0点となってしまいます。あまりにも痛すぎるミスに、キス&クライで涙するグレン選手。メダル候補だっただけに、さらには個人的に応援していた選手だけに、にわかには信じられませんでした。暫定12位の低得点にどよめく会場。
最終滑走は千葉選手。やや異様な雰囲気の中でしたが、浜田コーチの思いきり身を乗り出してのおでこゴツンに表情がやわらぎました。GPF以降、全日本でも不安を抱えたような硬い演技が続いていましたが、この大舞台で千葉選手らしさが戻りました! 最初の3-3はやや詰まって回転不足を取られたものの、残りのジャンプもすべて着氷。スピンもステップも音楽に乗り、会場を沸かせます。最後のスピンはオール5!!! 演技構成点も高い評価を受け、74.00点と暫定4位となりました。
日本の3選手がいずれも個性を発揮し、高得点を得たSPとなりました!
いよいよ、運命のFS。
まさかの第2G滑走となったアンバー・グレン選手。今日も3Aは大きな加点のつく素晴らしさ。続く3-3も見事に決めます。どんどんボルテージが上がる観客席。その拍手に背を押されるかのように、グレン選手は羽ばたきました。スケール感たっぷりのスケーティングに高くて大きなジャンプ。これぞアンバーのスケート! 最後の3Loで手をついてふっと微笑むも、スピンを終えてのフィニッシュはいつもの凛とした彼女でした。147.52点の高得点をたたき出します。
第3Gも見ごたえある演技が続きました。ソフィア・サモデルキナ選手やニーナ・ペトロキナ選手のノーミス演技。イ・ヘイン選手の感情豊かなステップ。イザボー・レビト選手は最初に転倒しながらもしなやかなスケートを見せてくれました。怪我から復活のルナ・ヘンドリクス選手はパーフェクトとはいきませんでしたが、まだまだ滑る姿を見ていたい演技でした。
そして、最終Gの滑走です。
衣装の背中が印象的なグバノワ選手。3Lzのステップアウトで減点を受けるも、抒情的な表現力が素敵でした。
ペトロシアン選手は女子で唯一の4回転にチャレンジします。冒頭の4Tで転倒したことで次のジャンプは3回転に変更。しっかり着氷し、その後は確実に加点を重ねます。4年前、時代を席捲したロシアも今回出場者は1人。しかもはじめての国際大会。今のロシアのスケーターがどのような演技をするのか、興味がありました。感想としては、「やっと私の好きなフィギュアに戻ってくれた」です。4年前の北京、まだ幼さの残る少女たちの技術力は確かに凄まじかった。ただ、フィギュアに限らず、オリンピックは選手たちの夢の舞台で、彼ら彼女らの生きざまを表現する場所のはず。彼女たちからそれは感じられませんでした。フィギュアへの愛も、日々の苦しみも、その体温すら感じませんでした。技術は進化していくべきだ、ただこれは正常な進化なのだろうか。悶々としながら応援する、そうしたタイミングでの転機でした。北京以降の4年間、ロシアが排除されたフィギュア界は、高難度ジャンプだけではないスピードやつなぎの濃さといった技術力と、音楽を表現しながらみずからの個性を発揮する芸術性、両方を備えた選手が高く評価を受ける方向へ舵を向けました。ロシアのスケーターたちは、それらを習得する前に引退を強いられるのです。それが正常な状態であるはずがない。
ペトロシアンも、もし何ごとも起きなければきっとオリンピックには出ることなく、ただ消費されるだけの選手だったでしょう。
技術力はさすがでした。身体能力の高さはずば抜けているし、スケートも上手い。ただ、やっぱり、ここ最近のフィギュアを観ている身からするともの足りない。今のフィギュアの潮流から乖離したロシアのスケート界の現状を垣間見た気がしました。
4回転を決めて高得点を得ていたら結果はわかりませんでしたが、グレン選手を抜くことはできず暫定2位に。
ペトロシアン選手の得点が出るまで、やや時間を要しました。次に滑る千葉選手への影響は果たしてなかったのかどうか。
今日もコーチとルーティンをこなし、開始位置へ。最初の3F-3Tを着氷し、続く3Lo、3S。全日本でも意識して見えた2本のジャンプをしっかり決め、「よしっ!」と、拳に力が入ります。なめらかなスケーティングも美しいポジションのスピンも、最後まで千葉選手らしさは失われませんでした。3つの回転不足で得点は伸びを欠くも、合計はPBの217.88点。暫定1位に躍り出ます。
続いてはSP3位のアリサ・リュウ選手。『マッカーサー・パーク』の音楽が始まると、そこはもうアリサの世界。彼女の魅力がスケートの軌跡からこぼれるようにリンクを満たしていきます。スケートが楽しい、観客と一体になるこの瞬間が楽しくてたまらない。そんな声が聞こえてきそうな、こちらもしあわせになる4分間でした。競技前、「メダルはいらない」と豪語していたリュウ選手。それは偽らざる本音でしょう。北京以降、さまざまな経験を経てリンクに戻ってきた彼女は、メダルにも国の威信にも縛られない、自由なスケートを手に入れていました。こちらもオリンピックのメダルマッチであることを忘れるほどののショータイムでした。
高得点で千葉選手を抜き首位に立ちます。
坂本選手の顔はあきらかにこわばっていました。それでも中野コーチに力強く送り出され、『愛の讃歌』が鳴り始めると、一瞬で柔らかい表情に変わります。
まるでメロディーを奏でるかのような流れのあるジャンプ。スピンやステップのみならず助走すらも表現のひとつになる、濃密で雄大、それが坂本花織のスケート。
途中ですでに泣いていました。まさに集大成と感じる演技に、もう坂本選手が頂点に立つことを信じて疑わなかったのです。
ところが後半の3F-3T。3Fの着氷がうまくいかず、3Tにつながりませんでした。最後の3Loにコンビネーションをつけるのかという実況には、リカバリーをほとんど見たことがないだけに不安になりましたが、坂本選手はそれを選びませんでした。最後のスピンを完遂し、フィニッシュポーズを解いた坂本選手は複雑な笑顔で何度かうなずきました。しかしリンクサイドに戻ってくると、中野コーチの肩に顔をうずめて涙。
得点源であったはずのコンビネーションが単独となった3Fは、リピート扱いになってしまいます。リカバリーできていたら…1Tだけでも付けられていたら…いろいろ考えが渦巻きました。解説の鈴木明子さんが、「3Loにコンビネーションをつけたら後のスピンに影響するからできなかった」と言いました。坂本選手のプログラムは、そんな余白など残されていない、最高密度を全力疾走で駆け抜けなければならない4分間だったのです。坂本花織は最後まで坂本花織であろうとした。そしてそれこそが、表現者としての矜持だった。
演技構成点は唯一9点台を並べる高得点でした。1本ジャンプが抜けても合計は224.90点。しかしリュウ選手には1.89点及びませんでした。
最終滑走は中井選手。てっきりプレッシャーを抱えているのかと思いきや、まったくそれを感じさせない笑顔でリンクイン。今日もイキイキと滑り始めた中井選手、今日も3Aを見事に成功させました! しかし続く3-3は2本目が2回転に。それでも最後までのびのびあかるく、中井選手らしさを失いませんでした。
フィニッシュ後、片手を口元に当てて首を傾げるなんとも可愛らしい仕草を見せましたが、3Aはともかく他の部分で成功した確信がなかったのでしょう。実際、回転不足もあってFSの得点は9位。会場からはブーイングのような声も響きました。中井選手もコーチも無反応。まあまあ、仕方ないか…そんな様子に見えました。ちょっと! 横に「3」ってあるよ!
気づいたのは数秒後。「あれっ、3位?」と中井選手が確認を求めたのは1位席にいるリュウ選手。「そうよ、あなたが3位よ!」の答えに思わず飛び出した中井選手。コーチそっちのけで抱き合うふたり。リュウ選手は、笑顔いっぱいの中井選手の両手を高く掲げました。ひとりそっと涙を拭う中庭コーチ。美しい光景でした。
歓喜の一方で、その隣には悔し涙がありました。4位に落ちてしまった千葉選手。肩を落として後ろへ引き上げていく姿がちらりと映りました。その画面の中心には泣き崩れる坂本選手。
中井選手の演技中、こらえきれない千葉選手と坂本選手が抱き合って泣いていました。言葉もなく、ただ涙を流すだけだったと後で語っていました。外から見た限りでは、メダルは無理だと悟った千葉選手を坂本選手が慰めているようにも映りますが、金メダルを逃した坂本選手の無念さに千葉選手が共感したゆえの涙という想像もありますし、互いに完璧とはいかなかった演技を悔やむ一方やりきることはやりきったというないまぜの感情も垣間見えます。外部が理解することは不可能ですし、その心中をうまく言語化することは本人たちにもできないように思います。
日本人が2人もメダルを取ってすごくうれしい、けれど同時にとても悲しい。こちらも両方の涙を流すのみでした。
表彰台、ともすれば涙こぼれる坂本選手。それでもリュウ選手を讃え、メダルにぬいぐるみを固定してあげる姿がありました。中井選手をからかうように頬をつまんだり、カーペットにひっかからないよう声をかけたり、銅メダリストに任されるセルフィーを代わってあげたり、気配りを忘れないいつもの坂本選手でした。だからこそ、いちばん高い場所に立ってほしかったと思わずにはいられませんでした。それでもやはり、今回はリュウ選手が素晴らしすぎたと言わざるをえません。その出自まで詳らかに報道されて思うところがないとは思えませんが、すべてが自分の人生の物語の一部であり、その作者はあくまで自分だ。誰にも何にも惑わされない、解放感にあふれていました。自分の金メダルより先に中井選手を祝福したのも彼女らしいし、それが彼女の生き方。
「スケートが好きだ」という気持ちが伝わるスケーターが金メダリストになったオリンピックで良かったとも思います。もう「からっぽ」なんて言葉は聞きたくありません。
なごやかな表彰式のあとは、終わってしまった喪失感とともに、しあわせな時間を過ごすことができた満足感がありました。日本選手3人とも、ベストを尽くしました。もちろん悔しい思いもあるだろうけれど、2・3・4位とは過去に類を見ない好成績です。しかも国内にはまだまだ代表クラスの選手がいます。坂本選手が現役を去っても、日本選手が世界のトップを席捲し続けるであろうことは間違いありません。4年後、千葉選手も中井選手もオリンピックに出られるとは限りません。それでもまた、ふたりがリベンジを果たすところを観てみたい。そう願わずにはいられません。
試合後のSNSで、涙する千葉選手に寄り添うグレン選手の写真を目にしました。また、泣いている坂本選手を撮影しようとしたカメラクルーから守ってくれていたことも知りました。ありがとう、アンバー。演技も人柄も、本当に素敵です。
PR
