・淵に立つ:★★★★☆
カンヌで賞を獲ったみたいですが、確かにカンヌで好かれそうな映画ですね。松本人志監督の「大日本人」は同じカンヌのある視点部門に出品してイマイチで賞もとれませんでしたが、この映画とは確かに作りが真逆ですね。
家族を含め、人間というものは、起きたことをありのまま説明してくれるとは限らないし、自分の感情を他人に本音で話してくれるとも限らないから、人間なんかわからないよということを暗いトーンで延々と描いているだけの映画です。説明的な描写やセリフがほとんどなく、中盤のある事件の真相や登場人物の過去も結局謎のままです。なのでストーリーには感動もなければ衝撃もありません。
そういう映画を作りたいという監督の信念は十二分に理解できますし、細かい演出や俳優陣の演技も含めて良い映画なのは間違いないんですが、もうちょっと一般大衆を楽しませることも考えてくれたらいいんですけどね。「大日本人」は、他者にどう観られるかを意識して作っていますからね。作家性の強いのは当然前者で、そういう映画がカンヌでは評価されるのでしょう。
・ザ・ギフト:★★★☆☆
贈り物は難しいですね。大人になって、物をあげるより、物をもらう方が対応が難しいことだとわかりました。もらって本当に嬉しかったものなんてほとんどないですからね。
なのでこの映画はいい着眼点だなあと思って観ましたが、どうも思っていたような話ではなかったですね。いい人と思っていたら実は悪い奴で、やばい奴と思っていたたら実は良い奴みたいな意外性を楽しむ映画ですね。その観点からだと、よくまとまった佳作だなと思います。
傑作にならない理由は、ラストの衝撃がいまいちだからですね。真実をぼかすのは問題ないんですが、いやいやお前はもっと酷いことをされただろ、なんだこのしょうもない復讐はと思いましたね。そもそも主人公夫婦の関係は破綻していますし、離婚したら親権はどうせ母だろうから、父は子どもとはあまり会えないでしょう。そう考えるとダメージが少ないですね。
・アンフレンデッド ダークウェブ:★★☆☆☆
「アンフレンデッド」の続編なんでしょうが、登場人物もストーリーもテーマも異なるうえに、そもそもタイトルと内容が一致しないんですね。前作の「アンフレンデッド」が低予算でヒットしたので、無理矢理続編として作った映画なんでしょう。この点ですでにあまりこの映画が良くないことが想像できます。そして、想像通りの作品です。まあ、さすがにこれはヒットしなかったでしょうね。
ダークウェブにいる「カロン」とかいう殺人集団のメンバーが全知全能の神揃いで、もはや国でも支配できそうなレベルなのに、実はこれはただの殺人ショーだったというところがまず納得できないですし、わざと盗みやすいようにパソコンを置き忘れ、たまたま持って帰った主人公が殺人ゲームのターゲットになったとかいうのも強引すぎですね。このプロットでは話に奥行きがでません。
ただ、この映画は最初パソコン画面はごちゃごちゃしてるし登場人物はたくさん出るし何がなんだかわからなくて、というか映像はパソコン画面のみなのでもはや誰がしゃべっているかもよくわからなくて、ストーリーがなかなか掴めないところは、逆に集中力が高まって緊張感があってよかったです。中盤から終盤はそれなりに楽しめました。
・裏切りのサーカス:★★★☆☆
登場人物はスパイとはいえおっさんばかりですし、スパイ映画といってもミッションインポッシブルのような派手なアクションシーンもなく、ストーリーもあまり起伏もなく、「もぐら」も明らかにこいつだという奴なのでラストのどんでん返しもなく、かなり地味な映画ですね。
ベネチア映画祭金獅子賞を獲っているだけあって細かいところまでこだわった完成度の高い映画なのはわかりますが、面白いか面白くないかと言われればそんなに面白くないですね。先日観たアンフレンデッド何ちゃらは明らかにB級映画ですが、むしろこっちの方が観ていて面白かったので、結局点数が同じになっちゃいますね。たぶん道中のハラハラドキドキやラストのカタルシスではなくて、画面や音楽や細かい演出などから、東西冷戦の時代のイギリスという陰鬱な世界観やスパイのおっさん達の孤独感や悲哀を味わって楽しむべきなんでしょうね。
ただ、もうちょっと面白くできたと思うんですけどね。ベネチア映画祭金獅子賞を獲っている映画に僕が言うのもおこがましいのですが、脚本がイマイチなような気がしますね。
・ジェーンドゥの解剖:★★☆☆☆
この監督は「トロール・ハンター」の監督ですね。一風変わった映画なので覚えていますが、僕は面白くなかったです。この映画もイマイチでしたね。世間の評価はそんなに悪くはないので、相性でしょうかね。
特にラストが好きじゃないですね。この親子は謎に包まれていたジェーンドゥの正体をきちんと解明しているのに、それでも死んでしまうのは納得いかないです。2人共悪人でもないですしね。ジェーン・ドゥは実はかわいそうな過去を持つ女性で、それを理解した父と心が通じ合ったみたいなシーンもありましたけど、結局は親子皆殺しにしますから、ジェーンドゥにも感情移入できなかったです。
唯一褒めるところは、ジェーンドゥがしゃべったり襲い掛かったりしないところですね。それをしちゃうともっと安っぽいB級映画になったでしょう。実は生きているということが判明しても、じっと寝てましたからね。エンディングでちょっと動いたから、動けないわけでもなさそうですし。
・ヒトラーの忘れもの:★★★★☆
最初はドイツ憎しの感情で一杯だった鬼軍曹が、敵国のドイツの少年兵達と個の交流をしていくうちに、段々と少年兵達に赦しの感情が生まれるというベタなストーリーです。戦争が終わってもそこに残る地雷を題材にしていることから、戦争は終わった跡もいつまでも傷跡を残すよということも言いたいんでしょうね。よくあるヒットラーの映画のように、ナチス=絶対悪みたいな描き方でないところは良かったです。
ただ、この監督は、人物の性格や心情の描写はよくまとまっているんですが、本当に必要な部分しか描写していないので、あまりにもストーリーが淡々としすぎていたことと、最後まで観ても過半数の少年兵達の見分けがつかなかったことから、少年兵側に感情移入がしづらく、感動とかそういうのはなかったですね。ラストも、いやこれはどう考えてもフィクションやろとしか思わなかったですから。
まあ、地雷処理の場面は緊張感がありますし、こんな地味な映画を、戦争映画嫌いの僕が退屈せずに観ることができましたから、世間の評価が高いのは納得です。タイトルは何とかしてほしいですけどね。かわいらしすぎますね。「忘れもの」の「もの」がひらがななのはいくら何でもやりすぎでしょう。この映画はかなり硬派ですから。
・スポットライト 世紀のスクープ:★★★☆☆
前回観た「ヒトラーの忘れもの」も硬派な映画ですが、この映画はそれ以上ですね。娯楽性はゼロです。ただアカデミー脚本賞なだけあって完成度は非常に高いです。淡々としたストーリーで過激なシーンもないのに、眠たくなったり飽きたりすることはないですからね。登場人物も実話を基にしているだけあって、リアリティがあります。机周りや服装や家での様子など細かい描写で人物像がだいたいわかりますし。特にロビーはいいですね。こういう上司の下で働きたいものです。
ただ、もうこれは僕自身の問題なんですが、僕はカトリックでもないですしジャーナリストでもないので、この映画の題材についてほとんど知識や思いがないから、刺さらないんですよ。本来なら神父の虐待やそれを隠蔽する協会に憤るべきなんでしょうが、神父だって人間なのに、宗教のせいで禁欲生活を強いられるから、そりゃほとんどの奴は性的に倒錯するだろうなと変に納得してしまいますからね。
いくら家庭環境が複雑で、子どもとはいえ、神父と名乗るただのおっさんにそこまで傾倒するのも何だかなあと思いますし。僕も幼少期はスラム街みたいなところに住んでいましたが、神だの仏だのは人の心の中にある概念的なものであり、実体がないから、神父だの教祖だの実体のある人間を崇めるのはおかしいと思っていましたから。まあ、これはもう日本で育ってしまった以上どうしようもない価値観ですね。
・スポットライト 世紀のスクープ:★★☆☆☆
決して面白くないことはないんですが、評価としては低くつけざるをえない映画ですね。とにかくストーリーが雑で、説明不足なうえに、展開は呪いネタらしくご都合主義です。あのとってつけたようなラストもダメですね。
僕は陰キャなので、キラキラ女子のローラよりは、陰キャの王ともいうべき存在であるマリーナに感情移入をしたいところですが、マリーナが孤独だったのはわかりますがその孤独を極度に恐れるところが人物描写が浅すぎてよくわかりませんでしたし、ローラを孤独にするために友達を殺していくとかそこまで激しいやり方を選ぶのもよくわかりませんね。昔いじめられていた男子2人への復讐ならまだわかるんですが、ローラやローラの友人にはそこまで酷いことはされていないと思います。なのでイマイチ感情移入できませんでした。
ホラーとしては、それなりに怖いと思いますが、しょせんは「ワッ」と急に何か出てきて驚かす形ですから、こういうのをいくつも観てきている僕はまったく怖くありません。虫やスプラッター描写も平気ですし。やはり僕が怖いのは「スケルトンキー」みたいな、ラストで「あっそういうことか!」となる、考えたら怖いみたいなやつですね。
PR