『婚姻届に判を捺しただけですが』
『逃げ恥』ブーム以降、契約婚を題材にした漫画がドッと増えましたが、有象無象の1話無料作品を読んでみて「なかなか面白い」と感じ、続きを購入したのはこの作品だけ。 契約婚という設定自体が非現実的のためどんな漫画でも導入部は強引なのですが、その先へ読み手を惹きつけるものといえばやっぱりキャラの魅力かなと。 私生活はズボラだけれど、祖母や猫を愛し、仕事に奮闘する明葉は人間味があります。だんだん柊に惹かれていく描写も、また離婚後、その想いがすっかり冷めているところもリアルです。 一方の柊も、イケメンなのはお約束として、義姉への一途な恋を隠すため偽装結婚するというちょっとキモキャラな「外し」感が絶妙です。また、明葉の前で見せる子犬のようなかわいらしさには彼女同様不意打ちされてしまいました。原作では再会した明葉に義姉から移った想いをぶつけようとしていますが…どうなるやら。 原作を読んだ時から「いずれドラマ化されそうだな」と期待していたので、とても楽しみにしていました。 『逃げ恥』と同じ枠のため、演出は似通っています。ただ脚本はやはり野木亜紀子に一日の長があるな、と。基本原作に沿っていますが、『逃げ恥』はクールな原作をさらに面白く脚色していましたから。 キャスティングはいいと思います。清野菜名も坂口健太郎もイメージに合っています。ただ菅波先生と同じようなキャラだったのがね…。しかも清野菜名の妊娠が報道されたので、走ったり階段を駆け上ったりするシーンではなんだか気になっちゃいました。柊一家の配役も面白いです。原作ではそこまで似ていないこともない兄弟が、それぞれ父親似・母親似だったのだな…と感心しました。 原作はまだ終わっていないので、原作ともどもどんな着地点になるのかなと楽しみに視聴します。 『日本沈没-希望のひと-』 小松左京原作も読んでいませんし、昔の映画もドラマも観たことがありません。タイトルが表すとおり、「日本が沈没する」物語なのだと思いますが、ここ最近『半沢直樹』のような爽快感をウリにしてきたドラマ枠で、このような重厚なテーマを扱うのはひさしぶりのような気がします。『運命の人』や『官僚たちの夏』に近い雰囲気です。…と思ったらやはり同じ脚本家でした。 ですから、ちょっとした『半沢』風味は余分でした(会議で高橋努が小栗旬に追及され世良教授の指示で海底調査中にわざと倒れたと告白する場面)。官僚たちが集まる会議の雰囲気も軽いです。ウェンツなんてとても官僚に見えんし…。 小栗旬や松山ケンイチは底知れない深みを出していますし、いかにも学会では相手にされなさそうな変人教授の香川照之もいいチョイスです。國村隼の存在感もさすがです(最後には田所と協力して日本を救ってほしい)。フィクサー感たっぷりな副総理と、広告塔扱いにされていそうな若手総理の大逆転にもこれからに期待が持てます。 だからこそ、チョイチョイ惜しい…。 そもそも、日本は本当に沈没してしまうのか? ただでさえ、絶え間なく自然災害に見舞われ、コロナにも攻撃されて元気のない今の日本に、希望が持てないラストはちょっと堪えそうです。かといって沈没しなかったら原作だいなしだし…いったいどうなるのだろう…。 『おかえりモネ』(終) 最近はそうでもなくなっていますが、朝ドラといえば「女性の一代記」。子ども時代から始まって、夢を見つけて、苦労しつつもその夢を叶えて、恋したり結婚したり出産したり、そして最終回は老年になって人生を回顧する…そんなイメージです。そこまでいかなくても、やはり「何かのために生きてきた、これからもきっと」という決意とともに、幕を閉じます。 『モネ』は果たして、その王道を歩んだのか、はずれていたのか。 物語で描かれたモネは震災時の中3から26歳くらいまで。気象予報士という夢は叶えましたが、最終回でもまだ気仙沼で利益は上げられていません。(おそらくコロナが終息して)菅波とようやく2年半ぶりに再会した…という場面で終わります。それだけなら王道とも言えますが、その道筋は実に不安定でした。モネの行動はつねに震災という過去の記憶に縛られてきました。「誰かのために」「島のために」。それは結局自分のため、そしてその思いは決して間違いではないと気づき、「きれいごと」と言われてもひるまず、「何もできなかった」と思ったあの日の自分に戻ってたまるか、そんな固い決意をできる強さを身につけました。震災の時何があったかようやく告白した未知に、「私がゆるし続ける」と彼女の気持ちをまるごと受け止めたモネ。ようやくつながったモネと未知の心。ゆるすこと、受け入れること、手を当てること、わかりたいと思うこと。思えばこの物語のテーマは、ずっと一貫していました。「震災」という大きな出来事は背景にありますが、「復興」や「立ち直り」といったその事象に特定されたテーマでは普遍的な共鳴は呼び起こせない。水が山から川へ、そして海へたどり着き、また空へと循環するように、人と人の縁、心同士もまた、めぐりめぐってつながっていくということを、教えてくれたのです。 「離れていてもつながっている」、それはまた思うように行き来できず触れ合えない今のコロナ禍を生きる人間にも伝わるものがありました。 そもそも、震災もコロナもまだ「終息」はしていません。 そんな状況で、「大団円」は描けません。 自分の意思で未知は大学へ行き、亮は「俺の船だ!」と誇らしげに笑った。しかし、これはまだ最初の一歩。彼女らの人生はこれからも続きます。モネも含めて、未来へ続く道はこれから自分たちで作っていくのです。 それは若者も大人も変わりません。あの日から立ち止まったままだった新次は、美波の死亡届に判を捺すことを決意しました。一方、耕治は「自分が救われたと感じたくないから」と、亮の出航を見届けませんでした。あの日のことすべてが解決したわけではない。それでも、海ではなく陸でイチゴを育てることに生きがいを見出した新次、銀行から海へ働き先を変えた耕治。彼ら大人もまた、新しい未来をそれぞれ選んでいきました。 この物語にきっと「終わり」はない。 未来は無限に広がっている。空のように海のように。 人の思い、つながり。そして自然。記憶。抗えない運命のようなもの。それらすべてを包み込みながら、風が吹き抜けていきました。毎日しみじみと、心を染めていきました。ひといろずつ丁寧に塗り重ねられて、最後には大きな絵画が完成されていました。 こんな朝ドラもあっていいと思います。もう一度最初から観返してみたいです。海から山へ、もう一度立ち返って風を感じてみたいです。 PR |
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