興奮の連続だったオリンピックも、いよいよ残りわずかです。
祭典の終盤を飾るのは冬季五輪の華、フィギュアスケート女子シングル。 団体戦では悔しい結果だった宮原知子選手、坂本花織選手が、おそロシアに挑みます。 同じ過ちはくり返すまじと、録画はバッチリ高画質。 第4グループのトップで登場した坂本選手。緊張感は少し見え隠れしていましたが、力強いスケーティングは戻っていました。スピードがあれば持ち味のジャンプは大丈夫。ノーミスでガッツポーズ、パーソナルベストの得点にこちらも笑顔になりました。 坂本選手暫定1位で迎えた最終グループは、メドベージェワ選手から。 滑るたびに演技の濃密さが増していきます。最初から最後まで、まばたきするのも惜しいくらい。この選手はどこまで進化していくのでしょう。自身の世界最高得点を更新する81.61点をたたき出しました。 大歓声の中でも、宮原選手は冷静でした。慎重な踏み切り、丁寧なステップです。3-3回転でまた黄色ランプがついた時には机をたたきたくなりましたが、八木沼さんも「大丈夫!」と断言するほど今までとはあきらかに質の違う高さのあるジャンプで、団体戦での低評価にもくさらず個人戦へ向けて短期間にコツコツ練習を積み重ねてきたことが伝わりました。結果は緑ランプに変わり、点数が出た瞬間のキス&クライの笑顔にはこちらも胸を撫でおろしました。 ケイトリン・オズモンド選手のエディット・ピアフは代名詞になりそうな名プログラム。雰囲気にのせたジャンプの高さと楽曲の持つ力強さを体現するようなステップ、唸らされました。 絶対女王・メドベージェワ選手に欧州選手権で土をつけた同門のザギトワ選手。3Lz-3Loってこんな簡単に跳べるんでしたっけ? もはや「私、失敗しないので」な貫禄さえ感じます。十数分前の世界最高をさらに更新する衝撃の82.92点。え、ほんとに15歳? 団体戦の疲労が懸念されたコストナー選手でしたが、やはりミスが目立って6位と出遅れてしまいました。それでもため息が出るようなスケーティングの美しさは若い選手にはない魅力です。 SPの最後を飾ったのはソツコワ選手。最終滑走のプレッシャーのせいか動きが硬く、ソツコワ選手らしい優雅さがなりをひそめてしまいました。五輪前はOARの表彰台独占もあるかと思われていましたが、12位スタートと意外な結果になってしまいました。 宮原・坂本両選手はどちらも初のオリンピックでパーソナルベストと、いいスタート。 すべてが決まるFS最終グループは宮原選手からとなりました。 音楽が鳴り始めて動き出した瞬間から、キレがありました。いける、と感じました。美しい3Loから高さを会得した連続ジャンプ(だからなんで黄色つけるの!)につなげ、宮原選手の持ち味である逆回転スピンで歓声を誘ってからはもう会場は宮原選手だけの世界。唯一の不安材料だった3Sも成功。指の先まで美しい『蝶々夫人』は、最後の一音まで全身全霊を捧げるようなプログラムでした。練習しなければガッツポーズもできなかったという宮原選手。完璧を追求するまじめな性格のあまり、どれだけノーミスの演技をしてもまだガッツポーズするような演技ではないと考えていたのかもしれませんが、今日ばかりは自然と湧き出る感情にまかせ両手を振り上げたように見えました。謙虚な宮原選手に「メダルが欲しい」と思わせる、それほどリンクに思いを残すことなく今のすべてを出し切った演技だったのだと思います。結果はメダルには届かなかったけれど、宮原選手がくれた至高の4分間はファンの胸にしっかりと刻まれました。入賞おめでとう、最高のガッツポーズをありがとう、さっとん。 コストナー選手のFSは『牧神の午後への前奏曲』。バンクーバーの翌シーズンの使用曲で、大好きなプログラム。ジャンプミスは少し残念でしたが、あの頃よりいっそう洗練された、彼女にしか表現することのできない澄み渡った世界を見せてくれました。最後まで柔らかい笑顔でした。かつては思うような滑りができなくてフィニッシュ後悲愴な表情をしていたこともありましたが、すべてを乗り越えてこの境地にたどりついたコストナー。いつまでもコストナーのスケーティングを見ていたいけれど、年齢的なこともあるので毎年のことながら去就が気になります。 シニア参戦1年目で最終グループに勝ち残った坂本選手。それだけでも立派なことなのに、3Loの着氷をミスした以外はほぼ完璧に滑り切りました。ただこの猛者たちの中だと、演技構成の面で見劣りしたことも事実。笑顔でしめくくったものの随所ににじみ出ていた悔しさが、きっと坂本選手をこれからひとまわりもふたまわりも成長させてくれるはず。それでも、はじめてのオリンピックで堂々たる演技、坂本花織の存在は世界じゅうのフィギュアファンの胸にしっかりと刻まれたことでしょう。6位入賞おめでとうかおりん。今のかおりんにしか演じられない、かわいい『アメリ』でした。 ザギトワ選手が後半の3Lzからの連続ジャンプを失敗した際はドキッとしました。それでも後半も後半、単独3Lzに3Loを付ける鬼リカバリー。「私、失敗しても大丈夫なので」と、最後まで自信に満ち満ちた『ドン・キホーテ』でした。 後半にジャンプを固めるという極端な構成が物議を醸しています。ザギトワ選手のずば抜けた身体能力を前にしたら、エテリコーチも批判覚悟で暗黙の了解を破りたくなったのかもしれません。 ザギトワ選手は、この字面だと美しくない予定構成をしっかりひとつのストーリーとして演じ切っています。序盤のステップも決して手抜きはしていないし、後半の音楽の盛り上がりとともに密度の濃いつなぎを入れながらたたみかけるジャンプ、しかも現在最高難度の連続3回転を入れた7つの要素は、ひとつ失敗すればすべての流れを失ってしまう危険も孕んでいます。しかしザギトワ選手は、その危険の可能性を限りなくゼロに近いところまで滑りこなしてきています。 戦略として取り入れる選手が増えてくるという危惧もあるようですが、ここまで完成度を高められる選手が今後果たして現れるでしょうか。才能だけでは絶対にたどりつけない努力の歳月を15歳の少女が10年も捧げてきたという事実に畏怖すら感じました。 現在3位の宮原選手のメダルを左右するオズモンド選手。FSはやや苦手にしている印象がありましたが、この日は気迫が違っていました。冒頭から連続ジャンプを次々着氷、スピードと高さは全選手の中でもトップクラス、圧倒されました。3Lzの着氷で乱れましたがすぐに立て直しました。このプレッシャーの中で、オズモンド選手はその個性である可憐さと力強さを余すところなく体現し、白いリンクに羽ばたく美しい黒鳥となりました。北米の美ここにあり、素晴らしい『ブラックスワン』。銅メダルにふさわしい最高のプログラムでした。オズモンド選手も怪我に苦しんだ時期があっただけに、見る側の感慨もひとしおでした。 (小声)でもちょっとミスを期待してしまったブラックな自分…。いや、好きなんだよオズモンド…でも、でも、やっぱりさっとんにメダル取ってほしかったさ…。 最高の戦いに幕を下ろす最終滑走は、メドベージェワ選手の『アンナ・カレーニナ』。 冒頭の単独ジャンプにセカンドジャンプをつけてきました。確実性を選んだとはいっても、ザギトワ選手を超えるには技術点の減少は避けたいはず。ジャンプもステップも少し身体が重たいように見えました。状態が良くなかったのでしょうか。 世界の中心に躍り出た頃は、メドベージェワ選手の演技があまり好きではありませんでした。加点を狙うタノの多用がジャンプの流れを止め、プログラムの美しさを損なっているように映ったからです。今でもその印象は変わりません。 それでも、年々広がりを見せるメドベージェワ選手の世界に惹きつけられずにはいられませんでした。 音楽が鳴って、そして鳴りやむまで、リンクはメドベージェワ選手が紡ぎ出すさまざまな物語の舞台になります。銀盤の向こうに凍てつくロシアのプラットホームが見えました。冷酷な警笛が響きました。滑り出しから見る者を自分の世界に惹きこむ力、それはザギトワ選手をもってしても超えることはできない、メドベージェワ選手が技術以上に磨き上げてきた芸術です。 このFS、ザギトワ選手とメドベージェワ選手の得点はまったく同じ。メダルの色を分けたのは、SPの技術点でした。オリンピックというスポーツの祭典で、より難度の高い構成に挑んだザギトワ選手に軍配が上がるのは、やむなしかと思います。 それでも。 4年に一度のオリンピック。金メダルに輝くには、才能も努力も必要なことはもちろんですが、運という要素も大きく関係していることを感じずにはいられません。 演技後、メドベージェワ選手は大歓声の中で顔を両手で覆い嗚咽しました。世界女王として臨んだオリンピックの最終滑走、プレッシャーの中素晴らしい演技で滑り切った彼女の胸にはさまざまな思いが交錯したことでしょう。涙の止まらないまま得点が表示され、自身の名の横に「2」が表示された瞬間の茫然とした表情、慰めるように抱き寄せるエテリコーチ。こちらも涙を禁じ得ませんでした。 この2年、メドベージェワ選手は絶対女王として女子フィギュア界に君臨しました。平昌の金は彼女のものであると信じて疑いませんでした。まさかそのオリンピックイヤーに年齢制限ぎりぎりの後輩が台頭し、自身は直前に怪我を負い、母国が参加資格を失うなどとは、おそらく本人も想像だにしていなかったに違いありません。オリンピックのため血を吐くような鍛錬を重ね痛みに堪えてきたのは皆同じであったにしても、世界女王というプレッシャーは彼女ひとりにしか与えられない重圧でした。 あらゆる試練と戦い続けたメドベージェワ選手に、金メダルをかけてほしかった。それが正直なところです。 しかし、この超ハイレベルな戦いを制して「心に穴が開いた」と語るザギトワ選手も、いったいその小さな背中にどれだけのものを背負っていたのか。ロシアのお国柄もあるかもしれませんが、羽生選手とはまた異なる金メダリストの言葉の重みでした。 一夜明け、すわ後半ジャンプ固め打ち禁止のルール改正報道が流れました。確かにこのままでは、ジュニアにも有力選手を抱えるロシア一強の時代はそうそう変わりそうにありません。ここ数年まるで太刀打ちできなかったアメリカや日本もふたたび表彰台への希望を見いだすことができますし、3Aやセカンド3Loなど高難度ジャンプを取り入れる選手も増えてくるかもしれません。 が。ザギトワ選手のやりかたは間違っていると言わんばかりの素早さですね。審判団の国籍公表にはどれだけ時間がかかってるんだよ、と言いたい…。 PR
1000mで金メダルを逃し、連勝中の500mに優勝の期待が寄せられた小平選手。
このオリンピック最後のレースは、スタートで少しタイミングがずれたようにも見えましたが、最初のラップはここまでの最速タイムでした。そこからまったくスピードが落ちないどころか、最後はいっそうゴールを狙う目つき鋭く、さらに勢いが増したようにも見えました。オリンピックレコードのタイムでゴール、あとを待ちます。 どよめく会場に登場したのは世界記録保持者のイ・サンファ選手。小平選手の最大のライバルは500m一本にしぼって勝負を賭けてきましたが、地元開催による観衆の大きな期待と直前で小平選手の出したタイムに、相当なプレッシャーがのしかかっていたのかもしれません。ややミスが目立ち、小平選手を上回ることはできませんでした。 そして最終組のレースが終わった瞬間、小平選手の金メダルが確定しました。 喜びを爆発させる観客席に手を振りながら、小平選手が向かったのは、泣き崩れるイ選手のもとでした。 何度も試合をともに戦ってきたライバルであっても、レースが終わればスケート仲間。お互いを讃えあう姿は誰しもに美しいものとして映ったに違いありません。日本と韓国、政治的な表でもネット社会の裏でも何かと反目してばかりですが、このふたりの姿を見て互いを貶める言葉を吐く者はいないでしょう。国の名前を冠していてもアスリート精神に国境はありません。誰もが常にこうありたいものです。 表彰台ではようやく小平選手の満開の笑顔が見られました。滑っている時の黒ヒョウのようなクールな姿も、かわいらしい笑顔も、どちらもやっぱり素敵すぎます。あとスタート時の構える指先が妙に色っぽい(笑) そして、開催前から金メダル候補だった団体パシュート。 もともとパシュートは日本人に向いた競技だと思っていましたが、個人で結果を残せなくてもバンクーバーでは銀メダル、ソチでも4位と好成績をおさめてきました。今回は一年のほとんどをともに過ごす合宿生活において個人競技だけでなくパシュートにも科学的分析を取り入れるなどさらに力を入れたようです。 3人の一糸乱れぬ正確な隊列、スムーズな先頭交代の流れはまるで芸術作品のよう。陸上のリレーのバトンパスのように、どの国にも負けない練習量に裏打ちされた技術が肉体的アドバンテージを逆転する瞬間は最高の気分です。 今回、日本チームは世界記録を何度も更新し、絶対的金メダル候補として挑みました。しかし確実にオリンピックに合わせてくるのがオランダチーム。全員がメダリストという超強力な布陣で、予選はオリンピックレコードのタイムでオランダが1位通過しました。日本はスタートに失敗した佐藤選手の声で高木美帆選手が一瞬立ち止まり、ヒヤリとしましたが、オランダに次ぐ2位のタイムで準決勝での直接対決を回避しました。しかし日本は序盤にミスがあっても中盤に余裕を持って流しても3位を突き放すタイムでしたから、パシュートはもはやオランダと日本のためのレースといっても過言ではありません。現に準決勝でアメリカはオランダ相手に最初から完全に流しており、対日本のカナダも途中から銅メダル戦に切り替えたようで、両チームとも決勝に先んじて行われた3位決定戦の迫力とはまるで異なっていました。 決勝。予選で失敗したスタートはきれいに成功。2周目まで日本がリード、拳に力が入ります。3周目でオランダが逆転し、テレビ前の視聴者は熱くなりましたが、選手たちは冷静にラップを刻んでいました。残り2周できちっと再逆転、終わってみれば1.58秒差をつけてのゴールでした。オランダが予選で出したタイムを塗り替える見事なオリンピックレコード。美しい走り、美しい姿勢、美しい4人の笑顔でした。 高木美帆選手はこれで金銀銅のコンプリート。姉の高木菜那選手も2本続けての決勝を走り抜きました。同じ世界で戦う中で時にはお互い素直になれないこともあったであろう姉妹の金メダリスト、両親それぞれに金メダルをかけたいという願いが実りました。予選の失敗から不安でいっぱいだったはずの佐藤選手もしっかりと中盤をひっぱり、準決勝で走った菊池選手もダブルヘッダーの選手の疲労を最低限に抑えました。しかし全員が口にしたのはチームジャパンへの感謝、コーチやスタッフ含めたチーム全員で勝ち取ったメダルだということ。選手だけでなく、裏方も含めて4年間いかに努力と研鑽の日々を積み重ねてきたかを感じ取れる言葉の重みでした。 しかしその努力が結果としてかたちに残らないこともある。 ノルディック複合ノーマルヒルの悔しさをぶつけるはずのラージヒルでしたが、渡部暁斗選手は「黒い三連星」の前に力尽きました。ガンダム見ていないからよくわからないんだけど…。 ジャンプは見事トップを飾るも、本人はインタビューではっきり「厳しい」と口にしていました。それは24秒後から3人続いてスタートしたドイツ勢。パシュートのように交代で先頭を滑り、体力を温存していました。対して渡部選手は孤独な戦い。スキー板も滑っていないようで下りで突き放すことができず、早仕掛けも通用しませんでした。 ドイツ勢、強し。メダルの色を争うラストスパートには3人ともまだこれだけの体力があったのかと驚かされました。 団体でもドイツが序盤からほとんど一人旅。3位スタートの日本はノルウェーとオーストリアのヨーロッパ勢の走力の前に屈し、アンカーの渡部暁斗選手の見せ場はありませんでした。 ノーマルヒルで銀メダル、ラージヒルで5位入賞、団体も4位。これだけのすばらしい成績なのに、「4年間で何も変わらなかった」と語る本人の心中を思うと胸が痛くなります。 クロスカントリーではヨーロッパに太刀打ちできない現実。 スケートのように、選手頼みではなくスキー競技もチームとして底上げをはかれないものかと歯がゆく思います。 メダルを獲得すると注目を浴びますが、結果には結びつかなくても心に残る競技はあるもので。 全員が入賞という結果を残した女子スノーボードビッグエア。若い選手が経験を積む一方、他種目から転向したベテランも攻めた演技を見せました。またウィンタースポーツの華でありながら世界と勝負できていないアルペンスキーでも怪我をおして出場したベテラン選手がいます。メダルばかり注目されがちなオリンピックですが、とくに競技を続行することに苦労がつきまとうウィンタースポーツで地道に努力を重ねている、こうした選手たちにももっとスポットが当たればいいのになと思います。
リアルタイムで見られなかったのがつくづく悔しいフィギュア男子シングルSP。
録画したらなぜか低画質だったしさ…。 それでもボヤけた画面の向こうに、プーさんが(怪しいものも含め)山のように投げこまれたのはわかりました。 日本選手で最初に登場した田中刑事選手は団体戦からの不調をひきずってしまいました。4回転が決まらないと点数が伸びないだけに、20位スタートと苦しい出足です。 最終グループのトップ滑走となった羽生結弦選手。 公式練習では怪我前と変わらない質の高いジャンプを跳んでいたので、SPは大丈夫そうだなと感じていました。それでもあの大怪我からのぶっつけ本番、心配にならないはずがありません。 しかし、滑り込んだ『バラード第1番ト短調』の調べにのせたスケートは、見ている者の不安をその刃で押し潰し刻んでしまうかのような研ぎ澄まされたものでした。オリンピックチャンピオンの座は絶対に渡さないとばかりの気迫に満ちていました。カミンバック。絶対王者がリンクの上に帰ってきました。 大歓声になるのはわかっていたはず。プーさんのお片づけでスタートに時間がかかるのもわかっていたはず。それでもオリンピックの舞台というのは、予想をはるかに超える重圧がかかってしまうものなのかもしれません。金メダル争いの中心と確実視されていたネイサン・チェン選手の演技は信じられないミスの連続となりました。GPF優勝者がまさかの17位。終わった後もなおキス&クライで茫然としているチェン選手の姿はまるで、ソチの時の浅田真央さんのようでした。 宇野選手は安定した演技で今回も100点超え、堂々の3位スタートとなりました。しかし4位の金博洋選手とはわずかに0.8点差。なにせトップ4が100点超えという超ハイレベルな今回のオリンピック、FSのわずかな差がメダルを左右します。 羽生選手に4点差と迫る2位につけたのがハビエル・フェルナンデス選手。GPシリーズでは不調でファイナルにも出場できませんでしたが、しっかりオリンピックに合わせてきました。待ち望んでいた、フェルナンデス選手のダイナミックなジャンプと豊かなステップ。ソチでは悔しいミスで表彰台を逃しましたが、4年越しの雪辱に燃える思いが伝わるスケーティングでした。 土曜日は朝から正座で備えるFS。 全体の5番目に登場した田中選手は、この大会ではじめて4Sに成功しました。その後も転倒があり、完璧とはいきませんでしたが、最後のステップは「これで最後」と思いきるところがあったでしょうか、田中選手らしい力強さがあったと思います。 まさかの第2グループで登場となったネイサン・チェン選手。表情は落ち着いて見えました。冒頭の4Lzに成功すると、4F+2Tの連続ジャンプも成功。そこから4本の4回転ジャンプを続け、手をついた4F以外はすべて加点がつきました。最後の連続ジャンプも決めて、圧巻の215点。まさにソチの「浅田真央奇跡の4分間」の再来、奇跡の4分半でした。上位グループだったならここまで攻めた構成ではなかっただろうし、ノンプレッシャーだったからこその演技だったのかもしれません。終わってみればFSだけならトップの得点。メダルこそならなかったものの、このオリンピックで記憶に残る感動の瞬間でした。 同じアメリカで4Lzを跳んだビンセント・ジョウ選手、オーサーコーチ門下の韓国のチャ・ジュンファン選手、OARアリエフ選手など楽しみな若手も出てきました。次の北京ではどんな選手がメダル争いに食い込んでくるでしょうか。 そしてその中に、今回の最終グループの選手たちはどれだけ残っているでしょう。 4回転ジャンパーとして衝撃のデビューを果たしてから、ジャンプだけではないさまざまな要素をブラッシュアップして中国初のオリンピックメダリストに挑んできた金博洋選手。シリアスからコミカルまでひとつのプログラムの中でころころと表情を変え、かつ高難度のジャンプ構成、なんとなく織田信成さんにかぶる魅力的な選手。後半で痛い転倒がありましたがリカバリーを見せ、300点に肉薄する点数を出し、あとを待ちます。 4回転時代のまっただ中で休養から復帰し、なおトップクラスで滑り続けるパトリック・チャン選手。ゆったりした音楽を際立たせる美しいスケーティングにシンプルな衣装、チャン選手の織り成す清浄な世界に酔いしれました。しかし4回転の少ない構成ではひとつのミスも許されません。ソチの銀メダリストは入賞も逃す結果となりました。もうベテランとなって久しい年齢となりましたが、今後の動向が気になります。 そしてついにメダルの行方が決まるトップ3。 まずは羽生結弦選手。 かつて世界最高得点をたたき出した『SEIMEI』ですが、その密度はさらに濃いものとなっていました。ジャンプもスピンもステップも、まるで音楽がその指先から零れ落ちていくかのような一体感。4回転が難しいジャンプであることを忘れてしまう、まるで何か見えない力に操られているのではないかと思うほどの滑らかさ。ジャンプの着地でよろめいたのも、まるで物の怪と戦う陰陽師のような、ストーリーのひとつに見えるほどでした。 すべてが異次元。 夢幻の世界に連れ込まれたかのような4分半でした。 すごい選手がすごい演技をする、すごい瞬間を目のあたりにできたことが本当にしあわせです。 どよめきやまぬ中、登場したフェルナンデス選手。力感あふれるジャンプと、フェルナンデス選手にしか作り上げられない『ラ・マンチャの男』の世界観を堪能させてくれました。後半の4回転のミスがなければ相当な得点が飛び出たでしょうが、結果的には羽生選手に届かず、この時点で2位。 メダルの行方は、最終滑走の宇野選手に託されます。 もはやすっかり宇野選手のものとなった『トゥーランドット』。冒頭の4Loこそ転倒したものの、得意の4Fでリズムを取り戻しました。課題だった後半の連続ジャンプもすべて成功、絶対に決めるという気迫を感じました。音楽に乗せたダイナミックなステップとクリムキンイーグルで会場の盛り上がりは最高潮。この激戦のラストを飾るにふさわしいFSでした。 転倒した4LoのURを解説の本田さんも危惧していましたが、結果は認定のうえ、フェルナンデス選手を超える200点超。総合「2」という数字が表示された瞬間、手を叩いて叫んでしまいましたが、キス&クライは意外に冷静。初のオリンピックで銀メダルという快挙よりも、宇野選手が目指していたのは羽生選手を抜いての頂点のみだったのだろうなと感じました。目標達成はまだおあずけとなりましたが、「オリンピックに特別な思いはなかった」とあっさり答えられる自然体の宇野選手に、ますます期待をしてしまうこれからの日本男子フィギュアです。 フィギュア界において日本人選手がはじめて同時に表彰台、しかも金・銀。この時代に生まれて、歴史的瞬間に立ち会うことができました。そしてこれが日本の平昌オリンピック初の金メダルにして冬季通算1000個目の金メダル。さすが絶対王者です。持っているものが違います。
ソチで銀・銅とメダルを獲得し、一躍注目されたスノーボードハーフパイプ。
前回銀メダリストとなった時はまだスノボの天才「少年」という雰囲気だった平野歩夢選手の、すっかり大人びた姿には驚かされました。 アメリカでは盛んなスノーボードですが、全員プロとして数々の大会をこなす選手たちにとって、オリンピックはそこまで重要な大会とは位置づけられていないと思っていました。しかし平野選手は違っていました。金メダルを目指すと公言し、大怪我を負ってなお高難度のプログラムを組み、この戦いに挑みました。 その恰好や過去の舌禍などから「チャラい」「軽い」とつい色眼鏡で見てしまうスノボ界ですが、ピアスに長髪の平野選手の口から発せられる真摯な言葉の数々と、まっすぐな両の瞳にはついこちらも背筋を伸ばしてしまいます。 オリンピックではじめて連続4回転の技を決めても、絶対王者ショーン・ホワイトの後のない状態からくり出された高いエアには及びませんでした。スケボーで東京オリンピックの出場を目指すという報道もありましたが、まず平野選手が意欲を示すのは競技人口が少なく設備も整っていない日本国内での底上げ。まだ19歳の青年の未来は、銀メダル以上の輝きをもって待っているようです。 同日に行われたのが、ノルディック複合W杯総合ランキングトップで迎えたソチ銀メダリスト・渡部暁斗選手のノーマルヒル。4年越しの思いを平昌ジャンプ台の風が受け止めてくれるか不安でしたが、トップと28秒遅れの3位につけました。クロスカントリーの強化に励んできた渡部選手ならきっと大丈夫。刻一刻と順位の変わるスマホの速報を片手に信じて家路を急ぎました。 が、帰り着いたのは「いやぁ強い、強いな~」という萩原健司さんの解説とともにフレンツェル選手がゴールした瞬間でした…。 惜しくもまた、上り坂で突き放されてしまったようです。 それでも「惜しくも」なのです。4年前は、複合で日本選手がメダルを取ったことを喜びました。攻めにいった結果の大健闘でした。しかし今回は違います。渡部選手は頂点を狙うことを明言できるほどの努力と研鑽と実績を積んできました。誇らしい、けれど悔しさも残る銀メダル。だからこそ前回は不完全燃焼に終わったラージヒルにリベンジを誓う姿は力強く、見る者に勇気を与えました。4年という長い時間その実力を保ち続けてこそ、本当の強さ。複合ニッポンの復活のために、これからの4年は渡部選手に続く若手の活躍が待たれます。 そして、この日のメダルラッシュの最後を飾ったのは、女子スピードスケート1000m。小平選手・高木選手の銀・銅両獲りでした。 金メダルはやっぱりオランダの選手で、オリンピックに合わせてくる強さはさすがのものでしたが、小平選手もソチで悔しい思いをして単身オランダに武者修行するなど、4年の歳月をこの日のために捧げてきたアスリートです。世界記録保持者として挑んだ決勝、わずか及ばなかった0.26秒がオリンピック2位という栄誉を悔しいものにしてしまったのかもしれません。 試合前も後も、表彰式でさえあまり表情を変えず淡々とこなす小平選手はまるで女侍のよう。クールでカッコよくて素敵です。はじける笑顔は500mを待つことになるでしょうか。それでも鍛錬に鍛錬を重ねて迎えたこのオリンピック、ぜひすべてが報われますように、リンクの女神が微笑みますように。 そして1500mに続いてメダリストとなった高木選手。日本選手がふたりも表彰台に並ぶとは、ソチの時には思いもしませんでした。パシュートで金メダルならコンプリート。3つの異なるメダルがその首にかかりますように。 |
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