日本で一番悪い奴ら

警察が絶対的善でないことは、過去の数々の報道からもあきらかですし、フィクションの世界でもあたりまえに描かれるようになっています。しかしこの作品は、実話をもとにしているだけあって、迫力が違います。もちろん、ベースは実話でもあくまでフィクションですから、多少きれいに描いているのだろうとは思います。しかし白石和彌監督らしいスピード感ある展開には惹きこまれました。
体重を１０キロ落として史上最悪の警察官役に挑んだ綾野剛。『ＭＯＴＨＥＲ』の虐待ゲス野郎で全視聴者の反感を買うも『カーネーション』の周防さんで一気に全視聴者を魅了するという振り幅の大きな俳優ですが、この物語では正義感の強い警察官が裏社会に馴染むうち徐々に「悪」に染まっていき、やがて破滅を迎えるという、２時間弱でさまざまな綾野剛を堪能できる一作にもなっています。
柔道一直線で、柔道部を勝たせるため道警にスカウトされた諸星。警察官になった理由を問われても紋切り型の答えしかできない彼は、いわば真っ白の画用紙でした。警察の中で、どんな色にも染まれる可能性を持っている彼に目をつけたのが同僚の村井。煮ても焼いても食えないキャラクターはピエール瀧にぴったりの役柄ともいえます。そんな村井をハメたのがヤクザの黒岩。やがて諸星の「Ｓ」となる人物です。いつか裏切るのではないかと疑いながらもいつの間にか諸星同様心を許してしまっている、底の見えない不思議な魅力を、中村獅童は登場した瞬間から放っていました。
彼ら演技派に決して見劣りしなかった俳優が本業でなかった「Ｓ」ふたり、ＹＯＵＮＧ　ＤＡＩＳとデニスも意外な好演でした（前者は『闇金ウシジマくんザ・ファイナル』で鰐戸二郎役で観ていたのですが気づかなかった）。デニスも途中からデニス植野であることをまったく意識しなくなりました。ふたりとも器用なのでしょうね。
警察は一般人よりは死に近い場所にいますが、他人の死とみずからのそれはまったく異なるものです。イケイケで突っ走ってきた諸星がはじめてみずからの死を意識した瞬間、それは日本一の警察官を目指していちもくさんに昇ってきた梯子をはずされた瞬間でした。目標も信頼も何もかも失って、諸星は真っ逆さまに転落していきます。地に、それより深く暗い沼の底に。
白い衣装と透明なペットボトルとは裏腹に、闇をさまよう、冒頭とはあまりにも異なる諸星の姿でした。
「悪い奴ら」――諸星とその「Ｓ」たち。確かに彼らは悪事に手を染めました。
しかし、本当に悪い奴らは誰なのか。
諸星の悪事を知っていて黙認し、あまつさえ利用しようとしたのは誰なのか。
田辺と岸谷の自殺を、「本当に自殺だったのか」と疑わざるをえない土壌を作ったのは誰なのか。
「日本で一番悪い奴ら」は、むしろ、この映画には出てこなかった「顔の見えない誰か」たちなのかもしれません。

コンフィデンスマンＪＰ ロマンス編

「いやー、騙された！」
と、鑑賞後にぽんと膝を叩いて笑ってしまう、それがこの作品のいいところ。
ダー子が恋に熱吹く安っぽい女になりさがるなんて、絶対あっちゃいけないわけですから、ジェシーは「一緒に騙しているつもりで、実は騙されているのだろう」とは予想していたものの、さすが映画です！　ドラマ版でも騙しのテクニックはテレビ画面におさまらないスケール感でしたが、これは圧巻でした。
とはいえ、合間のプリンセス編ＣＭでちょいちょいラン・リウ（竹内結子）の姿が出てきたので、あまり考えないようにはしていたものの、あれ気づかれてもおかしくないですね。
この作品のキーマンは、なんといっても長澤まさみです。ダー子の行動・言動は、最初から最後まで嘘なわけです。ボクちゃんはもちろんのこと、ずっと歳上のリチャードや五十嵐もダー子の掌の上、ヤクザの赤星すらも手玉に取って何億も騙し取ってしまうおそろしい女です。それでも天真爛漫に詐欺に邁進するダー子から目が離せない。作品内の人物を好きになるきっかけは、その内面に共鳴することから始まるはずなのですが、本心がどこにあるのかすべてを煙に巻いてしまっているのに、ダー子は実に魅力的です。ダー子のことは何も知らなくていい。ただ騙すさまを見ていたい。騙されていたい。美貌も色気もすべて取り去ってダー子になりきる長澤まさみに、こちらもすっかり騙されてしまっているようです。
赤星とダー子の因縁はまだまだ続きそうですが、江口洋介は毎回痛快に騙されてくれますね。主要キャストにはない色気がたっぷりで、この作品にいいスパイスを与えてくれます。そして目の保養といえば、この映画から登場したジェシーも、恋愛詐欺師らしい立ち居振る舞い。三浦春馬は最近『ＴＷＯ　ＷＥＥＫＳ』で沈痛な表情ばかり観ていたので、くしゃっとした笑顔とのギャップには一発ノックアウトでした。騙され後の周章狼狽ぶりも良かったです。

…だからこそ。
悲しくて悲しくて、仕方ありません。
はじめて目にした時から素敵な俳優だと思っていたし、年齢を重ねてもその魅力は増すばかりで、これからもきっといろんな役柄でこちらを魅了してくれるのだろうと信じていました。
見た目はもちろんあらゆる才能を持って生まれて、ただそこにいるだけで自分だけでなくこの世のすべてをキラキラ輝かせていたような人でも、誰にも何にも救われない悩み苦しみのあまりにその決断から逃れられなかったということが、ただただ悲しいのです。
どんな人でも人は孤独で悲しい生き物だということを、あらためて思い知らされたようで。
彼がこの世にいくつも残していったキラキラを見るたび、そのことに思い至らないわけにはいきません。
苦しみながら生きること、その理由を探し続けること。
彼が最後に残していったものは、すべての人に平等に与えられたその命題なのかもしれません。

今週のプロ野球

7/14～19　vsH　●○●●●●

ソフトバンク相手に苦戦は容易に予想でき、なんなら６タテリバイバルも覚悟（悟り）はしていましたが、まさか山崎福で回避できるとは思ってもいませんでした。
太田のホームランが出た時は「今日はもうこれで充分！」と終わった気分でいたのですが、そこから一気呵成の逆転劇でした。難敵バンデンを引きずり降ろして、その後さすがにこの４点だけなんてことはないだろうとも思っていたけどね？　まさか１点差でヒヤヒヤ逃げ切りとは…。いっこ勝つのは大変だなーオイ！
しっかし、なんなんですかね、あのその他大勢の中継ぎ陣の不甲斐なさたるや。出てくるたび先頭にホームラン打たれないといけない掟でもあるのでしょうか。吉田一や東明の打たれっぷりといったら…あのドラフトで大喜びしていたあの頃は今や昔、悲しい限りです。Ｋ－鈴木も、昨年原監督に褒められたことを忘れたか。荒西は二軍で何をしてきたのか、そしてなぜ一軍に上がってきたのか。
それにひきかえ太田は楽しみな逸材です。一軍初ヒットが同点ホームラン、昇格即お立ち台とは持っています。孝行息子の２試合連続ホームランでニュースにも取り上げられましたし、オリックスの将来を担う楽しみな若手が出てきました！　しかしＴはベンチで喜んでいる場合とちゃうで！
そのＴは、日曜日の試合で欠場していました。監督は名言を避けたものの、何かしら大事をとっての休養日だったのであろう（と思いたい）。それはいい。
なんで、その打順？？？
他に選択肢はなかったのかね？　いや、そのポッと空いた６番に入れた選手のことだよ。
そしてジョーンズとロドリゲス、守備に大きな穴をふたつも抱えているのだから、そのぶん打ってもらわなきゃ割が合わないような。無死満塁で押し出しと犠飛だけって…せめて山本の負けは消してもらいたかったよ…。「今日は山本だから勝ったも同然！　ワハハ！」なんて大言を吐いていた１２時５９分に還りたい。相手は石川を中５にしてまで対山本戦を捨てにきたというのに…山本の６回表までの投球は想定内としても、こちらが相手先発をてんで打てないとは思いもしませんでした。あんな無抵抗ぶりを見せられたら、いくら山本でも堪えきれませんよ。
「変わった」と思っていましたが、一週間で元どおりのチームになったみたいですね。
ホーム有利のはずでしたが、やっぱりソフバンアレルギーは払拭できませんでした。これ福岡に行ったらどうなるんだ…。
そして来週からはビジターが続きます。いきなり首位の楽天が相手ですが、せめて６タテだけは回避していほしい…（弱気）。

ドラマ寸評（2020年・夏②）

『私の家政夫ナギサさん』
ｗｅｂ漫画を無料分だけ読んだ印象は、母子関係に問題を抱える主人公メイがはじめて母性を感じるナギサさん（男）と出会って人生や家族関係を見つめなおすハートフルドラマだと思っていたのですが、どうやらメイとナギサさんの関係はラブに発展していくようです。漫画のナギサさんは見た目もスマートですし、いろいろこじらせたメイを黙って静かに受け止めてくれる、いわゆる包容力系イケオジですが、ドラマのナギサさんはかわいげがあって、エプロンの似合う優しいお母さんのような印象です。２話のラストでメイを抱き止めるシーンも全然ドキドキしなかったのですが、今後大森南朋の持つ男の色気がどう発揮されていくのか気になります。
ストーリーには関係ありませんが、多部未華子のファッションが営業にしては個性的なのがちょっと気になりました。あれ流行り…なのか？　着こなせるあたりはさすがですが。『逃げ恥』といい、家事お仕事系ドラマのヒロインは変な服にしないといけないのか？

『今日から俺は！！スペシャル』
てっきり２時間ドラマと思っていたので、クイズ番組から始まるとは予想もしていませんでしたよ…。いつ終わるねんと待っていたら１時間も経過していました。結局連ドラと変わらないボリュームで、スペシャルと銘打つには少し物足りなさがありました。平日午前にやっている連ドラ再放送があと最終話を残すのみという佳境で、そのテンションの違いもあったかもしれませんが。
しかし、内容はさすが今日俺！　あくどい三橋もかわいい理子もアホの今井も懐かしく、ゲスト含めて笑いをこらえきれないカットも健在。あー、軽井沢編を読み返したい。
映画も観に行きたいなー。

今週のプロ野球

7/7～12　vsF

7/7　○
今年のアルバースは安定しています。いきなり守備で足をひっぱられるも無失点。そのまま完封リレーとはいきませんでしたが…やはり懸案はブルペンか…。打つ方はなんといってもオリ姫パワーの吉田正。先週までのヒエヒエ状態はどこへやら、今日でいきなり首位打者浮上。後ろにジョーンズ・Ｔがいるという効果もやはりあるのでしょうか。ロドリゲスもなんだかんだで打ちますし。今までの試合よりベンチの声がよく聞こえてきました。やはり勝ちが続くと雰囲気が変わりますね。この勢いで、ホームゲームのうちに借金を少しずつ返していけたらなあ。

7/8　●
勝った次の試合は難しいと言いますが、鈴木優はコントロールがいまいちでした…。いきなり７点差は厳しいとはいえ、野手もおととし苦手だったマルティネスを（やっぱり）攻略できず。前日昇格したばかりの金田は、とても比嘉の代わりにはなれないピッチング。貧相なブルペン陣を支えていた比嘉の不在は響きそうだなあ…。

7/9　△
初回から四球でピンチばかりだったので、６回に大田に初安打を許した時には「エ、５回までノーヒットだったの！？」と驚いてしまったヤマサチ。逆転されても「やっぱりな」でした。得点もＴの２ランだけだったし…むしろスタメン（主に２番）を見た時点で「捨て試合かよ」と思っていたし…。安達のお休み要員廣澤・とっておきの代走佐野はともかく、それ以外の大同小異（山足・小田・小島）は全員ベンチに揃える必要ありますかね？　ここぞの代打もいないのに終盤の一死一塁で送りバントを選択して、小島や宗で得点できると思っていたのでしょうかね…。秋吉と対戦経験のある松井佑ならもしや、とよぎったのですが（打っているのかは知らん）。まあ、負け試合を引き分けにしただけでも儲けものでしたが。

7/10　○
全オリファンが泣いた｡ﾟ(｡ﾉωヽ｡)ﾟ｡
この３試合パッとしなかった有原をてんで打てない時点で「やっぱりな」でしたが、まさか７回で降板するとは思いませんでした。しかも代わって出てきたのは、昨日失点している宮西－清水のバッテリー。我が家の解説者いわく、「流れが変わる」。ネガティブなオリファンは半信…いや三信七疑でしたが、そのとおりになりました。それでも大城のいい当たりを近藤に好捕され、流れはふたたび日ハムに戻ったと感じたのですが。わからんもんです。最終回、クローザー秋吉を相手にセーフティのふりまでしたジョーンズが四球を選ぶと、プエルトリコで目まで良くなったのかＴまで粘って８球目に出塁。いつもならこんな時にも静まり返っているベンチは全員立ち上がって前のめり。そして、秋吉のたった一球の失投を見逃さなかった、ロドリゲスの確信痛烈弾丸ライナー！！　観客がソーシャルディスタンスも忘れて大はしゃぎするのも仕方ない、今日だけは許して！！　もちろん動画１０回はくり返して観ました！！！
今季はじめて観客が入った試合で完封負けとはオリックスらしい、と途中までは覚悟していました。それが逆転勝ちなんて、しかもお釣りなしのサヨナラホームランなんて記憶にない。ベンチの雰囲気もそうですが、今年は何か違うと信じて良いのか？　まだ借金５もあるけど…。
ただ、ヤジで試合が中断したのは残念でした。意外にみんな静かに観戦するのだなあ、と感心していたのに。「ヤジも含めて野球」だったのは平時の話。ウィズコロナの観戦スタイルは、オリックスに有利なカウントごとに拍手が起きたりして（今までにはなく）ホーム寄りな雰囲気を出していたのに、水を差すような客は出禁にしてもらいたいです。

7/11　○
試合は終盤しか観られなかったのですが、互いにミスの応酬で、最後の最後にこちらへ軍配が上がっただけのゲームだったようで…。山田・ヒギンスが踏ん張ってくれたおかげですが、中継ぎ陣にＫが加われば心強くなります。もちろんまだまだ投手は足りませんし、もっと楽に勝ちたいものです。そのためには打線。ここ２日Ｔに当たりが止まっていますが、守備負担もあるのでしょうか。このうっすいうっすい選手層で何より怖いのは主力の怪我です。で、怪我に直結しそうで不安なのが、例の三塁コーチの急ストップやゴーサイン。三塁を回りかけた伏見が急に止まったことがあって、一気に怖くなりました。今日の大城のホーム突入も意味不明でしたね…。昨年組閣が発表された時点で、この惨状は容易に想像ができました。せっかくストレスが減っていたのに、どうしてしれっと三塁コーチに復帰されたのでしょうか。

7/12　○
最下位脱出～♪
開幕直前以来の…。
山足はこれで大同小異から抜け出したでしょうし、安達の好プレー３連発は眼福でした。山本はさすがのひとこと。今季はエラーニモ負ケズ無援護ニモ負ケズ、の精神なのでしょうか。再三のチャンスに、まさか２得点しか取れないとは思いもしませんでしたがね。相手投手の河野は、さすがオリックスが指名しただけあります（泣）８回の満塁機は、さすがに１点くらいは取れるだろうと思って観ていましたが、まだまだ甘かったようです。Ｔは、なんかいつものＴに戻っていやしないかい…？

チームが強くなったようでウキウキですが、こんなに頑張ってもまだ借金３という事実。そして来週からは、ホームゲームとはいえすっかり調子を戻しているソフトバンクが相手です。ここをせめて五分で乗り切れば、まだまだ上位を窺うチャンスはありそうですが…果たして！？